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「『歴史』と『今』と」 【2014年3〜4月号】


朝、窓際にある会社の机に着いて、コンビニのコーヒーを飲み始めると、なにやらテレビでは石原慎太郎前都知事が衆議院予算委員会で質問に声を借り上げていた。テーマは靖国神社参拝問題で「一部の売国奴的なメディアがキャンキャン言っているが気にすることはない」などと言うと、安倍晋三総理は「国のために戦った兵士のために手を合わせ、尊崇の念を表しご冥福をお祈りする行為は世界のリーダーに共通する姿勢だろうと思う。これからも日本の姿勢そのものについて、誤解を解く努力をしていきたい」と語り、胸を張った。

昨年末の安倍総理の靖国神社参拝と、その後の中国、韓国の反応、そしてアメリカの反応を思い起こしながら、「参拝直後」に、自らの戦争体験を通して「戦争の語り部」を自認する野中広務元官房長官が「歴史探偵」の半藤一利氏とともに警鐘を鳴らしていたことを思い出した。


野中広務氏「取り返しのつかないことに」(2013年12月29日放送) 

野中: この問題はやがて次から次へと問題をはらんでいく。本当に日本の外交史上、取り返しのつかないことになったんではないかという心配をしているし、アメリカにも見放されるような状態になってきたのではないかと深刻に私は考えております。

半藤: 靖国神社が姿を変えたと言うのはおかしいんですけど、どういうつもりでああいう風になったかは分かりませんけども、天皇陛下も御参り出来ないという神社になってしまったんですよ。それまではなってなかったんですよ。というのはA級戦犯の方々を祭祀したと言う事がまあ一番の問題点なんだと思いますが。私もちょいちょい靖国神社に御参りすることはあるんですが、やっぱりちょっとね、あそこの「遊就館」を見たりしますとね…。

地下鉄の駅から地上に出ると、巨大な赤茶色の鳥居が午前中の透き通る青空に見上げるように聳え立っていた。「靖国神社」を自分の目で見てみようと思い立ったのだ。右手に「靖國神社」と縦に彫った巨大な石柱を見ながら緩やかな坂を上っていくと、今度は正面に巨大な石台の上に立った青銅色の「大村益次郎銅像」が迫ってくる。そして、両脇に大きな石灯籠の並んだ幅広い石畳の参道をさらに進むと、今度は2つ目の青銅色の巨大な鳥居、そして、その先にテレビニュースで見慣れた「拝殿」が見えてきた。あたりは、ところどころに警備の警官がものものしく立っている以外は静けさに包まれ、その中、お年寄りに混じって若い人たちも写真を撮るなどしていた。途中の売店では、国会の売店でもおなじみの「晋ちゃんのおもてなし栗まんじゅう」などのお土産が売られ、奥では観光バスの運転手らしきおじさんが、うどんをすすっていたりしていた。

拝殿の前を案内板にしたがって、右に曲がると「遊就館」の本館が現れる。そして、その脇の新館は予想外にガラス張りの現代的な施設で、驚いて玄関に入るといきなり現れる玄関ホールの「ゼロ戦」の大きな姿にまた度肝を抜かれることになった。脇のプレートの説明には「三菱零式艦上戦闘機五二型 初陣は昭和15年9月。中国重慶においてソ連製中国軍機との空中戦で敵の大半を撃墜」などとあり、若い二人連れの女の人が熱心に説明を覗き込んだりしていた。そしてその脇には「海軍零式戦闘機二一型搭載三十粍(ミリ)機銃」とのプレートのついたゼロ戦に搭載した2メートルほどの長さの機関銃が展示してあり、ガラスの壁から注ぎ込む光に黒光りしていた。

さらに、ホールの向かいには黄土色の「八九式十五糎(センチ)加農砲」がそびえる。「口径149.1mm、砲身長472.5cm、最大射程18100m」とあり、顔ほどの高さにある車輪に砲身が載り、後ろの支え部分から先まで歩いてみると14歩もある大きさだった。プレートには「この砲は沖縄の戦闘において独立重砲兵第百大隊が使用し、首里付近の陣地から嘉手納の飛行場を制圧する等、軍砲兵の骨幹として活躍した」とある。そして「砲身をえぐり脚を穿った多数の弾痕は激戦の跡を生々しく物語っている」ともあるので、見上げると砲身にいくつもえぐれた跡があり、「大変な状況だったろうなあ」と思ったりした。隣にはさらに「砲身長352.3メートル」という大砲が展示され、脇に置かれた大きな黒光りした弾を前に、お年寄2人が片方は戦場経験者なのか「これが飛んでくるのか」との質問に「砲身がこの長さあっても中でさあ」などと話していた。

玄関ホールの展示だけでも打ちのめされる思いだったが、手元のパンフレットには「遊就館は靖国神社に鎮まります英霊の御遺書や遺品をはじめ、その『みこころ』や『ご事蹟』を今に伝える貴重な資料を展示しています。愛する祖国、愛する故郷、愛する家族のために尊い命を捧げられた英霊の御心や御事蹟に直接触れることによって、大切な何かを学ぶことができるのではないでしょうか」とあった。意を決して中の展示を見ることにした。拝観料は800円だった。


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