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「2014」新しい年に 【2014年1〜2月号】


緊急上程、強行採決の日に

委員会の部屋に入るとすでに「審議」は始まっていた。特定秘密保護法案の衆議院での審議で、朝の新聞で採決が行われるとあったので、駆けつけたのだ。

最前列に陣取って様子を見ると、質問しているのは民主党の議員だった。前日の福島県での地方公聴会で有識者から様々疑問の声が上がっていながら、そのまま翌日の採決が行われようとしていることに憤懣やるかたない様子で、顔を紅潮させながら「繰り返しになりますが、昨日の今日なのでありますっ」と。ただ、委員会の民主党議員はわずか5人。逆に、与党席から「繰り返しはもういいよ」などと大声が上がった。そして、担当の森まさこ大臣の「テロの脅威、北朝鮮のミサイルの脅威は福島県にもあるんです。しっかりと国民を守っていくためにこの法律が必要であるということです」などと「ピントはずれ」な答弁にも「そうだっ」などと大声が上がったりしていた。安倍晋三総理は「この法案につきましては、もうすでに40時間の審議がなされているということでございまして、ほかの法案と比べてはるかに慎重な熟議がなされているものと承知しているところでございます」などと胸を張ったりした。この法案について、野中広務氏が激しくスタジオで怒っていたことを思い出した。


「戦争の足音が」野中広務氏(11月17日放送)

野中: どうしてね、今、この法律がいるのか、私はそれが分からないんですよ。秘密は秘密にしときゃいいんですよ。どうしてそれを保護しなきゃ守れないんですか。私はね、古い人間ですから。こういう問題が出てきたら、戦争の足音が聞こえてくるんですよ。かつて戦争を始めた時にも国家総動員法を始めとして、やっぱり戦争に突き進んでいく法律が次から次へと出てきた。そのことを思うとね、なぜ今なのかと。その内容が、報道に配慮するとか、国民の知る権利に配慮するとかそういう事だけで問題が処理できるのかと思うと、なぜ今、これを無理に通さなくてはならないのかと大きな疑問にぶつかるんですよね。現職で私はおりませんから、非常に古い人間の感覚かも分かりませんけども、なんかこの法律は恐ろしい方向へと一歩一歩進んでいく、そういう危険を感じて仕方がないんです。

続いて質問に立ったのが、維新の会の山田宏議員だった。維新の会は与党との修正協議に臨み前日に合意してはいるのだが、驚いたことに、安倍総理を面前に、冒頭から「修正協議もわれわれの要求に応じて一つの修正案が出来上がりました。それぞれご努力があったということにまず敬意を評したいと思います」と「御礼」。そして、「今、与党の方々のご質問の中でも、この修正によってかなり良くなったという評価も頂いております」と胸を張る始末だった。

ただ、法案の修正で附則に「検討する」と盛り込んだ、「第三者機関の設置」について質すと、総理が「必要な方策について検討することとされました」などと、なにやら回りくどい答弁を続けたために、だんだんと困惑の表情に。そして、「いやそれでは分からないんですよっ。総理大臣がチェックするかのような文言がありましたけれども、これは自分で指定しておきながらチェックするということだから、これはダメなんですよ。そうじゃなくて、私も杉並区長をやりましたが、杉並区役所のなかには…」と、なにやら「区議会」のような質疑になっていったりした。

そして次の質問者も、これまた政府与党とすんなり一番乗りで修正合意したみんなの党の議員で、「不人気であっても真に国民にとって必要なものや国民の生命にかかわるものについてはわれわれは決断をしていかなければならない、そのように思います」と「決断」に胸を張った。「やれやれ」と思った。武村正義氏は「巨大与党」にすりよる野党の情けなさを怒った。


「党首どうしがご飯を食べて」武村正義氏(11月24日放送)

武村: 一体、特定秘密とは何なのか、どの範囲なのか、それを誰が決めるのかという基本的な点でね、議論が進んでないし、そこが曖昧なままで決着が付けられようとしていることに非常に不安を感じますね。野党も一部ではありますが、なんかすり寄ってるとしか思えない。野党で根幹はあまり議論しないで枝葉の部分でちょこちょこっと一、二か所いじってそれで合意、賛成するという。これは、議論する前に党首同士がご飯食べるといった、そんなこともオープンになってますからね。異常さを感じます。

質疑時間は2時間しかないので、それぞれ議論が詰まる様子もなく、次々質問者が変わり、日程は進んでいった。そして、最後の質問者である生活の党の議員の質問が始まると「採決」に向けて傍聴席にも40人ぐらいの議員が集まり始め、部屋の中もなにやら「緊迫」した雰囲気が漂い出した。質疑の日程が終わり、額賀福志郎委員長が「これにて総理大臣出席のもとの質疑は終了しました。総理大臣はご退席いただいて結構です」と言うと、安倍総理が退席した。すると、委員長席に一番近いとこに陣取っている自民党の今津寛筆頭理事が手を挙げ「動議を提出しますっ」と大声を張り上げると、民主党の議員らが一斉に委員長席に駆け寄り騒然とした状況になった。額賀委員長が「今津君の動議に対しまして賛成の諸君の…」などと言うのだが、怒号で声はかき消され、委員長の脇にいる自民党の理事が手を上げてサインをすると、自民党議員が「起立っ、起立っ」と声を掛け合い一斉に立ち上がった。そして「可決しました」との声に、怒号の中、自民党議員は拍手した。

「やれやれ」と思っていると、なおも委員長がなにやら叫び、その脇の理事のサインでまた、自民党議員が起立した。ああ、修正案があるんだ、などと思っていると、その後もさらに立ち上がれとのサイン。自民党議員もここまでくると、何の採決までいったのか分からなくなっているようで、サインに促されるままに都合3回立ち上がっていた。民主党の辻元清美議員は納得いかない様子で「これで民主主義国家の国会ですか」と大声を立てたが、自民党の小池百合子議員は満足げにかばんを小脇に抱え、退室していった。そして、額賀委員長も少し気まずそうな顔をしながら退席した。なおも部屋には野党議員が居残り「昨日、修正案出して2時間で採決ってなんですかあ」などと大声を上げ続けていた。

うんざりした気分で国会を出ると、議員会館前のすっかり黄葉したイチョウ並木の下で、「STOP!安倍の暴走」「STOP秘密保護法」などとの幟を掲げた人たちがびっしり並び「これは表現の自由、民主主義を守れというたたかいなのですっ」などと大声を上げていた。日増しに強まる反対の声。それを汲み取れない政治。浜矩子氏も「採決強行」への動きを厳しく批判した。


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