2013夏 〜猛暑のアスファルトの照り返しの上で 【2013年9〜10月号】
●参議院初登院の日に
あわてて、地下鉄のホームから地上に出ると、激しい照り返しが待っていた。今年最大の政治日程である参議院議員選挙(自民圧勝、民主惨敗)が終わり、今日はその選挙で当選した人たちの初登院の日なのだ(8月2日)。国会議事堂の正門まで行くとすでに、新人議員は次々にやってきていて、「初登院」を待ち構えるテレビカメラや記者らがその周りに「人だかり」状態になっていた。
やにわに、正門から正面玄関へ50人ほどの人の渦が迫ってきた。中から「落ち着いてっ落ち着いてっ」と大声が聞こえるのだが、カメラやら記者やらの渦は全く落ち着かずに、しかもどうやら、その渦の真ん中の人は新人議員のようで、「ここが代表取材ですっ」と怒鳴るどこかのテレビ局の「マイク持ち」の前もそのまま素通りするもんだからずるずると「渦」は、国会前庭をあてどなくさまよう事態になっていた。ようやく「渦」が止まって取材が始まり、覗いてみると、共産党で東京で3位当選の吉良佳子議員だった。「渦」の中からは「皆さんから頂いた……」「緊張しますが支えてくれる人がいるということで、しっかりと……」などとの声が途切れ途切れに聞こえたりした。すかさず、よく昼のニュースで見る女性アナウンサーが「今日は、明るい黄色のスーツですが、そのスーツを選んだ理由と気持ちをお聞かせください」などと叫んだりして、その脇では夕方ニュースのアナウンサーが「アベノミクスは○点」と書き込む準備をしたフリップを持ってうろうろしたりしていた。なにやら共産党の職員のおじさんも興奮気味に「私は共産党広報部です。指示に従ってくださいっ」などと叫ぶのだが、騒ぎは収まらないまま。でも、久しぶりの「勝利」におじさんは満面の笑みでうれしそうだった。
選挙後最初の『時事放談』収録で、自民、民主両党それぞれの「現場隊長」が真っ黒な顔で、暑い夏を振り返っていたのを思い出した。ただ、自民党・石破茂幹事長は、収録前のメイクで担当さんに「あんまり黒いから、少しどうにかしてよ」と、なにやら白い顔料を塗ってもらって「インチキ」していたのだが。
●「民主党への期待が極めて低くて」前原誠司氏(7月28日放送)
議事堂前庭のアスファルトの照り返しの中では、キラキラ人気に便乗して見覚えのある共産党議員らが並び込み、カメラや記者に囲まれ始めた。この選挙の中で、「消費税」にしても、「原子力発電再稼働」にしても、「対立軸」にすることをためらった民主党に対して有権者はそっぽを向き、目の前の「わかりやすい反対の共産党」が受け皿になったというわけだ。この結果に、選挙戦術として「争点をぼかして」いた格好の政府・与党内では消費税の「先送り論」「刻み論」が燻りだしていた。
●「議論が短絡的じゃないですかと」石破茂氏(7月28日放送)
だんだん日が高くなるにつれて照り返しが強くなり、アタマがぼーっとしていく中で、さらに大きな次の「渦」が正門あたりから迫ってきた。なにやら気象情報の台風の移動図を思い出させるその動きは、あれよあれよという間に正面玄関の階段前にぼーっとしていた私の前に。その人の「渦」の隙間からは「真っ赤なマフラー」がっ。アントニオ猪木だっ。不意を突かれ、「渦」に飲み込まれる事態に身を任せていると、なぜか私は猪木の正面に棒立ちになっていた。周りでは「こっちが猪木さんの代表取材のフジテレビですっ」などと声が上がるのだが、猪木氏はなぜかそのまま正面階段を上ろうとするからこちらも大混乱。「だから触るなって」「代表のっ」「押すなって」「前、立つなよっ」と喧騒状態に。なぜか流れで猪木氏の正面に立っていた私は跪くこととなってしまった。汗臭い記者に囲まれ、目の前はなぜか猪木氏の大きな黒い革靴(ちょっとしゃれてて高そう)と濃紺のスーツの長めの裾しか見えず、それをじっと眺めることになってしまった。
頭の上では「初登院の気持ちは?」「淡々としてますが、もう少し高揚してもいいのかな」。「キャッチフレーズは?」「国会に闘魂注入っ。既得権益とか不合理なこと、私しか言えないことを明らかにしていきたいなと」。前回は「国会に卍固め」でしたが? 消費税に延髄斬りはどうなりましたか?……質問攻めの中、猪木氏は首にかけた赤いマフラー(しかし炎天下で……)の裾を握っていて、私は目の前にあるその拳の大きさに感心したりしていた。猪木氏は最後に「ポーズをお願いしますっ」と言われて、国会議事堂を背にマフラーを両手で掲げ、その後、正面階段を上がっていった。暑さのせいか、あまりのくだらなさのせいか、くらくらした。これが、今年最大の政治日程の結果だった。今回の選挙の結果、圧勝した自民党の「比例選挙当選者」の上位には「各種団体」の候補者が並んだりもしていた。

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御厨貴: 前原さんはずっと地元にテコ入れという事態だったようですが。
前原誠司: まあ結果が出なかったので残念でしたが。いろいろ要因はありますけども、民主党そのものに対する期待というものが極めて低い。むしろ厳しい反応が強かった。それと、我が選挙区を含めてでありますけど、維新・みんなの党が出て、ばらける中で、結果的に組織の強い共産党含めてが相対的に勝つ、ということになりました。