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9年前の「原点」〜漂う政治の中で 【2012年11〜12月号】


初顔合わせの喧騒の中で

国会の3階のエレベーター脇に自民党の総裁室はある。衆議院の議場にそのまま入れる2階の幹事長室や国会対策委員長室など、「いい場所」は政権交代とともに与党、民主党に譲らざるをえなかった自民党も、この部屋は最初から3階だったせいかそのままだ。薄暗い廊下の突き当たりにある「自由民主党総裁室」と墨で書いた黒ずんだ看板が歴史を感じさせる。

11日、午後に、内閣改造をした野田佳彦総理が、自民党の安倍晋三新総裁に挨拶をすると知ってやってきたのだ。しかし、野田総理が代表選挙で再選されてから20日、自民党の総裁選で安倍元総理が返り咲いてから15日。双方新しい陣立てはそろっていたのに、なんとも時間がかかっていた。廊下にたたずみながら、幹事長に就任した日に番組のスタジオで石破茂氏が「もつれた糸」を苦悩の表情で語っていたのを思い出した。


「近いうちに解散?」石破茂氏(9月30日放送)

石破:どの党が政権党であっても、「1票の格差」で憲法違反の状態があっていいはずもないでしょう。そして特例公債というものを発行しなければ予算の執行はできないわけです。それは事実としてあるわけですね。

ところが一方に、一国の総理が「解散する。近いうちに国民の信を問う」と8月8日に言っておられるわけです。もう一方、参議院において野田内閣総理大臣に対する問責決議が可決している(8月29日)。この3つをどう考えるんだということなんです。参議院は野党の方が多いわけですから、特例公債にしても、1票の格差にしても、ここを通らないと法律として成立しない。

そうすると、どうやって動かすんだ。そこで「近いうちに解散というのは一体どうなりましたか」となるわけです。顔ぶれが変わったから近いうちに解散はもうなしよと。そんなでたらめを言ってもらっちゃ困るんで、そこを一国の宰相として、一人の人間としてどう考えるんだということに収斂するんでしょうね

だんだんと記者が集まりだして、見回すと50人を超えていた。誰かが「フルオープンだって」と話しているのが聞こえた。カメラマンも記者も部屋がそれほど広くないことは知っており、部屋へ入るや良く見える場所に立てるようにと、扉の前にたむろしているのだ。慌てて衛視が通路を確保するように整理しだした。衛視の「カメラはどっちかに寄って」の大声に、私の脇にいた古参のカメラマンが「スチールは向かって左、テレビは右って何十年も前から決まってるんだよっ」と怒鳴り返した。私は総裁室に比較的近い、しかもエレベーターの扉の隅のスペースに、体がうまくはまった。いったんここを離れると20メートルほど先の列の端まで行かされてしまうのは明らかで、離れられなくなった。ただ、列はだんだん2重、3重になっていく始末。衛視は「もっとあっちへ移動してください」と大声を張り上げるのだが、誰も反応しないのだ。だんだんいやな予感がしてくる。

まもなくして、テレビカメラのライトが一斉について、安倍新総裁が近づいてくるのがわかる。新聞のカメラの音がけたたましく鳴る中、安倍総裁は少しうれしそうにして総裁室に入った。その後に続く石破新幹事長は対照的に頬を紅潮させ(まあ、いつも少し赤いのだが)厳しい面持ちだ。数分後に野田総理がやってきて、こちらも厳しい表情で部屋の中に入って、輿石東幹事長がその後に続いた。しばらくすると、中から「どうぞー」の声と同時に皆が入り口に殺到する。それほど広くないので、「ペンは後からだろーっ」「押すなー」などと罵声が飛び交うのだが、押し競く ら饅頭状態はなかなか直らない。そんな中、私も閉じてある方の扉に二日酔い状態の体を情け容赦なくギュウギュウ押し付けられて、危うく中が出ちゃうところだった。

なんとか中に入ると、そこも「押すなよー」との罵声が飛び交い、カメラマンの「握手をしてくださーい」の声に促されて野田総理と安倍新総裁がこっちに向かって作り笑いをしているとこだった。双方椅子に座るや、安倍総裁が「相当長い時間、総理の手を握らさせて頂いた」と水を向けると、野田総理は「何かが今、育まれたと思います」と、ぎこちないやりとり。そして、その後が続かない。皆押し黙ってのお見合い状態で、この2人はほとんど話もしたことがないというのは本当だったんだなと、思ったりしてため息が出た。

やっと安住淳民主党幹事長代行から「総理、フルオープンですから」と促されて、「新しい執行部で挨拶に参りました。よろしくお願いします」とぼそぼそ。その間も後ろからの押し競饅頭状態で時折声が聞こえず、メモもとりにくいのだが、総理は「今日は初顔合わせでご挨拶となりましたけど、当然のことながら、しかるべき時に臨時国会を開催させて頂いて、おおいに議論させて頂きたいと思います。それに先立って、党首会談を実現したいと思います」と言うと、安倍総裁は「実りの多い党首会談をよろしくお願いします」と応じて、その後はまたもや、沈黙。すると野田総理は「では、今日はここまでで」と話を締めくくってしまったので、双方苦笑い。冒頭の握手を取り損ねたカメラマンだろうか「握手お願いしまーす」との大声で、2人は作り笑顔の握手で挨拶を終えた。始まってから、この間わずか、5分足らず。せっかく新しい陣立てとなったのにこれかよ、番組レギュラーの浜矩子さんがここにいたら「あごが外れそうになった」とでも言うだろうな、と思ったりした。


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