●「何を喋れば選挙の票になるか」渡部恒三氏(7月29日放送)
採決は記名で、名前を呼ばれた議員が白票か青票を正面の投票箱に入れていく。記者席と違って正面から遠いので、どっちを入れたのかわかりにくいが、時折議場から上がる歓声で造反が出たことがわかる。10分程かかって6回の歓声の後、投票は終わった。議長が「投票総数237票、白票188票、青票49票。よって法案は可決されました」と大声を上げると議場からは「6人造反しているぞー」「離党しろ」と野次が上がったが、それを掻き消すように歓声と拍手が起こった。周りではおばさんが「あぁ」と呻くように言い、お年寄りは「うーん」と唸った。これまでも数々の政局ドラマを招いてきた消費税の増税は終わった。8カ月もかかった今回のごたごたを考えると、やっとかいと思わず言葉が出た。
●「党利党略、個利個略」野中広務氏(7月29日放送)
本会議場を出て、少し時間があったので藤井裕久さんを議員会館へ訪ねると、奥の方から声が聞こえてきた。気安さのせいか扉が開けたままで、夕焼けを背にした藤井さんの前に、地元の知人なのだろうか、サラリーマン風の人と中学生ぐらいの女の子の背中が見えた。夏休みの研究なのか女の子が「消費税が必要ならなぜ、こんなにもめてきたのですか」などと聞くと、藤井氏は少し恥じらうように「政治家は選挙を考えている人がほとんどなのよ、選挙が怖いといったら言い過ぎかなあ。でもやっぱり怖いから反対している。だけど将来を考える人はやっぱり賛成しないといけないと思う」と自分に言い聞かすかのように話していた。
そして、「これからはあなたたちの時代だ。次の社会はどんな社会か。それはその時代に生きている人がどう考えるかだ。あなたが、どういう考えで生きていこうか、どうしようかで決まるんだから。頑張って」と話しかけると、後ろ姿の女の子が頷くのが見えた。大事な時間をさえぎってはいけないとそのまま帰路に着くと、官邸前では毎週金曜日恒例の「反原発デモ」の人たちが集まり始めていた。なんだか警備がいやに緊張しているなあと思っていると、やにわに黒塗りの警備の車がかなりのスピードでやってきた。そして、それに野田総理の乗った車が続き、「野田総理聞こえますかあ」「原発ハンターイ」などのシュプレヒコールを浴びせられる中、官邸へと吸い込まれていった。夕焼けの下、会社に向かって官邸脇の坂道を下りながら、これからも大変だあと思わず口に出た。
※本原稿は調査情報9〜10月号に掲載されています。
◆石塚 博久 (いしづか ひろひさ)
'62 東京都足立区生まれ。早稲田大学卒業後、'86日本経済新聞社に入社。大阪、名古屋、仙台支局(このとき、「みちのく温泉なんとか殺人事件」に出るような温泉はほとんど行った“温泉研究家”でもある)に。
東京本社政治部で政治取材の厳しい(「虎の穴」のような)指導を受け、新聞協会賞(「閣僚企画」共著)も。
'96TBS入社後は、報道局政治部記者、「NEWS23」のディレクターを経て、「時事放談」制作プロデューサー。

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