●「谷垣さん、説得力ありませんよ」 武村正義氏(3月18日放送)
会社に戻り、雑然とした机の上にあった『文藝春秋』(12年4月号)をぺらぺらめくっていると、バブル崩壊後の94年に党内の反対を押し切って消費税の3%から5%への引き上げを決定した村山富市元総理のインタビューが目に付いた。あの時はできたのだ。
「一番タイミングが悪かったのは、89年の参院選で勝った議員が、翌年に改選を控えていたこと。彼らは『消費税導入反対』を掲げて当選してきたわけですから、立場の厳しさは分かります。(略)納得しない者に対しては、『もともと消費税引き上げには反対だ。増税が実施されるのは三年後だから、そのときは体を張ってでも潰すと言えばいいじゃないか』と元気づけました(笑)」などと当時の苦労を振り返っていた。村山氏は私が社会党担当時代に国会対策委員長で、そのとき以来の関係だったが、ここ数年話をしていなかった。 なんだか懐かしくなって、大分県にある家に電話をかけると、女の人が出て、わけを話すと「じーちゃん電話」という呼び声がして、「おー」という声がした。そして、「しばらくじゃのう」と電話に出てきた。政治部で初めての政党担当で社会党を持ち、うれしくて走り回っていた頃を思い出した。懐かしかったか。
そして、野田総理の進める消費税増税をどう見ているかと水を向けると、「消費税は腹を固めて、しんからやらんと駄目じゃあ」と言い出した。「国民全体がやむをえないと思うよう納得させないと難しい。そう国民が賛意を示したら反対できない。そこが勝負。なのに国会の駆け引きばかりやっちょる」。そして「民主党はマニフェストの話ばかりしているがつまらんのう。『そうか』と国民が相槌うてばいい。マニフェストの幅として国民が納得できればいいんじゃ」。「力めば力むほど国民意識と乖離する。大事なのは自然体じゃ」とか言い出すので、「不毛な」今日の党首討論を思い出したりした。
当時の村山氏は、消費税増税を公約違反ではないかと国会で野党の追及を受けると、「公約を守るということは民主主義の基本をなすものだというふうに私も受け止めております。ただ、その事態の変化の状況に対応して選択する幅というのは政治家に任されておるのではないか」と、あっさりと切り返している。先のインタビュー記事でも「事態の変化に対応してきちんと判断し、国民の理解を得るよう努力することが政治家の責任ではないか」とその思いを答えていた。ひょうひょうと修羅場を乗りこえていった村山さんらしい「現実論」だった。そして、それを決めたわけだ。
●「算数ができないのか」 浜矩子氏(3月18日放送)
相当、たまっているのだろう、電話口で村山さんはしゃべり続けた。話は、総理大臣就任(94年6月)直後の、当時の社会党内では反対論が根強かった「自衛隊合憲論」の決断になった。「憲法の枠を守るのが前提で、海外に出て戦争に一役買う行為は駄目だと言っている。今のような自衛隊なら国民の多数が認めている。よく働いている。国民の7、8割の世論が認めるなら合憲でいいじゃないか。それをどうするかが政治じゃ」と力をこめた。そして「今の政治はそれができていないんじゃ」と付け加えた。受話器を握りながら、経済に詳しい知人が一緒に飲んでいたときに「自衛隊が合憲であるのと同じように、消費税を10%にしなければいけないのは現実だ」と語っていたのを思い出した。そう、野田総理はそれができないでいるのだ。「決められない政治」に、このごろは司会の御厨貴氏も苛立ちを見せる。
●「民主党A民主党B、自民党A自民党B」 御厨貴氏(3月18日放送)
「決められない政治」。村山氏の話は、今度は「3・11」からのことに移った。こちらはもう受話器を握り続ける手が汗ばんでいるのに、止まらない。「そもそも大震災だって1年が過ぎているのに、一つだって解決した問題はないじゃろ」。そして、阪神・淡路大震災のあの時、翌日に後藤田正晴元副総理が官邸に訪れて、「総理、地震は天災だから防ぎようがない。しかし、これからはまかり間違うと人災になる。しっかりやってくれ」と励まされたことをひとしきり語り、「これじゃあ人災じゃ」と、苛立たしげに語った。タイミングを見ての番組出演と、東京に来た際の再会を約束して電話を切った。30分以上も経っていた。机の脇にあるテレビでは夕方のニュースが始まり、さっきの党首討論での野田総理と谷垣総裁の言い合いをやっていた。村山さんの興奮が移ったのか、思わずテレビに向かって「とにかく決めろ。話はそれからだ」と話しかけていた。
※本原稿は調査情報5〜6月号に掲載されています。
◆石塚 博久 (いしづか ひろひさ)
'62 東京都足立区生まれ。早稲田大学卒業後、'86日本経済新聞社に入社。大阪、名古屋、仙台支局(このとき、「みちのく温泉なんとか殺人事件」に出るような温泉はほとんど行った“温泉研究家”でもある)に。
東京本社政治部で政治取材の厳しい(「虎の穴」のような)指導を受け、新聞協会賞(「閣僚企画」共著)も。
'96TBS入社後は、報道局政治部記者、「NEWS23」のディレクターを経て、「時事放談」制作プロデューサー。

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でも、後は野田政権の手続きとか、やり方とか、マニフェストの関係とか、形式論で批判ばっかりしてるわけですね。だから本質論に入らない。それはちょっと谷垣さん、説得力がありませんよと申し上げたいですね。せっかく『トップ会談』をしたのに、あれだって別に否定しなくたっていいじゃないですか。大事な問題で、2つの党のトップが真剣に話をするということはあっていいことですから。