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まずは「決めよ」 〜続く立ち往生の中で 2012年春 【2012年5〜6月号】


今日はどうだろう。やっぱり、また駄目かなあと思いながらも消費税増税法案を今国会内に成立させるならば、重要な場面になるはずの党首討論(4月11日)なのだ。期待をこめてその日は参議院に足を運び、30分前に委員会室に着いた。

議員はまだいなかったが、すでに、最前列にはテレビ朝日の解説委員が陣取っていて、アルバイトだろうか、マスコミ塾かなにかの答案用紙の束に向かいなにやら忙しそうにしていた。すると、今度は知り合いの毎日新聞の松田喬和編集委員が「おうご無沙汰あ」などと、入場。そして、今度は、朝日新聞の星浩編集委員が入ってきて、日本テレビの若い記者が名刺を置いて最前列4席を確保しているのを見つけ「おべんちゃらで席とってんだろ。こんなにいらねえよ」と、その1つにドスンと着席した。そして、元読売新聞の政治記者だった日テレの大久保好男社長が今でも親しいだけに「大久保の子分か、上司に恵まれてねえなあ」などと、にやにや「いびり」を開始。すると、後ろにいた松田氏も、確保してあったもう一席に座ってきて「大久保は東外大の仏語だったんだよ。でも、飲み会でフランス語の話題になるとあれ、顔が曇るんだよなあ」などと言いたい放題。思わず噴き出すと、星氏が今度はこっちを見て「お前だって上司に恵まれてないから会社変わったんじゃねえか」などと、新聞記者上がりの私の人生になにやら余計なコメント。やれやれなどと思っていると、開始5分前で野田佳彦総理が入場してきた。

議員も集まって回りはガヤガヤ賑やかになっていたが、どうも顔色が悪いのだ。黙って前を見つめ、自民党の谷垣禎一総裁が来るのを待っていた。どうやら相当思いつめているようだ。そりゃそうだ。消費税増税法案を国会に出しただけで29人もの足下民主党の議員が党役職の辞表を提出、4人の副大臣らが辞任したのだからなどと、少し同情した。民主党はいったん大綱として閣議決定した消費税の増税法案を、国会提出前に改めて8日間にわたって議論し、それでもガタガタが収まらないのだ。瀬戸内寂聴氏が怒っていたのを思い出した。


「情けない」 瀬戸内寂聴氏(4月1日放送)

瀬戸内:今だけじゃなくて、時々やるじゃないですか、こういうこと。もう、ほんとに情けないですね。でも、何でこれ、まとまらないんですか。こんなに時間かけてね。

増田寛也:最初からまとめるというより、反対することに凝り固まってる人たちと、ただただ時間かけて議論しましたということだけを言いたい人の議論ですからね。要は、考え方が全然違うので、民主党は2つの党が全然違うことをやってるとしか見えないですけど。

御厨貴:そうですよね。これね、100人以上が、8日間47時間ですよ。それで最終的には納得いかないで椅子を持ち上げて威嚇した議員がいたというね、そこへ行っちゃうという。

瀬戸内:つまり、頭が悪いんじゃないですか。

メモを小脇に谷垣氏が足早に席に着き、党首討論は始まった。近づく法案の衆議院の採決は、「辞任騒動」を思えば小沢グループの造反の可能性は極めて高い。ならば、目の前にいる谷垣氏への話し合いのきっかけをどうしても掴まないとならない。しかし、そんな野田総理の願いは、またたくまに崩れた。

「トップ同士で胸襟を開いて議論をしたい。問題意識を共有する部分はかなりあるのではないかと思っているんです」などと党首会談を提案しても、谷垣氏は「まずは国会の中で、国民の目にはっきりした場で議論をしていくということが先行すべきではないか」と、けんもほろろ。そして、「御党の中で採決がまとまらないと党の中がまとまらない恐れがある、だから議論はゆっくりしようというような議論が聞こえてくる」などと、民主党の亀裂回避に「先送り論」がくすぶる足元を突いたり。たまりかねて、後方に座っていた仙谷由人政調会長代行が「あんたの決意だよ。自民党ちゃんと決意しろー」などと援護射撃に出ても、谷垣氏は2月末に「極秘会談」に応じたとは思えないほど、「手続き論」やら「建前論」を繰り返し、「首相のお願い」を拒否し続けた。これには、野田総理はついにはブチ切れ、「谷垣総裁は早く(法案を閣議決定して)土俵に上がって来いとおっしゃったじゃないですか。我々は土俵に上がったのに、なんで『待った』をかけるのかおかしいっ」と言い放った。これに、谷垣氏が「具体的な日程もやり方も示さないでおいて、待ったをしているのは無礼千万だ。その言葉はのしをつけてお返しをするっ」と、怒り出す始末。双方の議員からの野次の応酬の中、谷垣氏は「うその片棒をかついで増税に賛成するわけにはいかない」とまで言い出すなど、「子供のけんか」のような最悪の展開で30分の「言い合い」を終えた。議員にまじってぞろぞろと委員会室を出るときには、さっきの軽口をたたいていた「ベテラン記者」らもうんざりした表情で、押し黙っていた。


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