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「西新橋」にて〜2012年、春よ来い 【2012年3〜4月号】


ムダな時間

午後になっても、底冷えのする日だった。時折、小雨も降ったりして、それでも、JR新橋駅前の蒸気機関車のある広場は、何を待っているのかサラリーマン風の男性で人だかりができていて、テントの下に古着のならぶ「リサイクルバザー」にも人が出ていた。路地を入っていくと、台湾エステ「とも」やら、何の店やら「平成女学院」との店やら、看板のネオンも昼から艶あでやかに営業中だった。そんな店には脇目もふらずに(うん、ここは強調しておきたい)、歩いて15分ほどにある西新橋の事務所に私は急いでいた。そんな道すがらさっきまでの国会の様子を思い出していた。

そもそも、国会の廊下を参議院の委員会室に向かっているときから、もうだめな感じだったのだ。古い知り合いのNHKの記者にエレベーターで乗り合わせ、「なんだか人生の時間のムダな感じだよなあ」と水を向けると、予算委員会を担当するその記者は「感じじゃないですよう。ムダそのものですよ」と語気を強めた。

確かに、去年の「素人発言」などで混乱を招き、参院の問責決議を受けた一川保夫防衛大臣の後任はまさかの田中直紀氏。国会では「更なる素人発言」を連発し、加えて委員会室を無断でふらふらと15分間中座し、その間、薬を飲みに行ったとの釈明の後、同時に食堂でコーヒーを飲んでいたことが発覚したりしていた。委員会室ではさっそく野党の追及を受け、田中大臣は脂汗をにじませた苦しい表情で答弁を重ね、挙げ句、「……今後、在籍期間は国会内ではコーヒーを飲むことはしないという決意で……」などと訳の分からぬ話をしていた。すかさず、「どういう精神なんですかっ」などと野次が飛び、質問者も「朝鮮半島からミサイルが飛んでくるのはわずか8分でありますよっ」と声を張り上げた。「なるほど、これは『人生のムダな時間』そのものだわい」とうんざりした。


「学習効果がない…」 片山善博氏(2月5日放送)

片山:これはやっぱり、任命権者の責任は問われてしかるべきですね。学習効果がないですね。やっぱり一国の大臣でその組織の総元締めですから、相当な専門的知見、リーダーシップがなければいけないですよね。しかし考えさせられるのは、野党も、何かクイズ番組みたいに追及して、『ほらできないじゃないか』っていうのが多いんですよね

しかし、「悲劇」(もちろん私たち国民の「悲劇」で)はこれだけではなかった。米軍沖縄基地問題で、アメリカが普天間基地移転と切り離してグアム移転を先行させるとの「歴史的大転換」をこの田中大臣は、協議に関与していなかったし、前大臣からの引き継ぎもなかったと、軽々に発言してしまうのだ。

自民党議員が「外務大臣は昨年12月から、向こうの国防長官とやっていたと。その間一度も防衛大臣との話はないのですか」と質問すると、「私が大臣に着任した以降(米側とのやりとり)はございません。前大臣がですね、どういう形で接触があったか、確認していません」と明言。日米安全保障の重要事項を知らないで平気な言い振りに、逆に自民党の質問者(林芳正元防衛相)が慌てて、「前の大臣が何やってたかを知らないというのは……、ちょっと、取り消されたほうがいいと思いますけど」と、助け舟(?)を出し、「確認をしておらなかったというのは間違いでございます。訂正をいたします」という調子なのだ。25メートルプールほどの広さの委員会室で自民党の山本一太参院予算委筆頭理事やら、「やじ将軍」の異名を持つ西田昌司委員や、あの片山さつき委員やらの荒れること荒れること……。

そして、私は早々に国会を後にしたというわけだ。「学習」しない民主党野田政権。いや、自民党の追及だって揚げ足をとるようなものが多く、「大事な話」が進んでいかない。こないだも司会の御厨貴氏は「最近の政治はなんだかうんざりする」とぼやいていた。そうなのだ、同じ「失敗」を続けているから、なんだか論点も同じで、議論はもう尽くされている感じにため息が出てしまうのだ。そんななか、番組立ち上げのころが懐かしくなって、その人に会おうと、今、急いでいるのだ。良い番組をつくれば良い社会が来るはずだとまじめに信じていたあの頃が、妙に懐かしいのだ。

エレベーターを降りると、フロアーには部屋の中からの元気な声が響いていた。「相当良くなってるな」と、うれしくなった。ドアをあけるとブドウ色の品の良いセーター姿の主は「おおおっ。久しぶりやなあ」と満面の笑顔で迎えてくれた。そう、国民的な人気のあったあの「塩爺」の笑顔だ。大きなテーブルを挟んで、向かいに座るよう誘い、「朝はよう見てるで。非常にまじめにやってるなあ」などと、番組をほめてくれた。

「塩爺」こと塩川正十郎元財務大臣は8年前の番組立ち上げ以来のレギュラーメンバーで文字通り「歯に衣着せぬ」物言いは、視聴者の多くの支持を集めた。しかし、一昨年の夏に病に倒れ、その後は出演を見合わせているのだ。秘書によると、「まだ、質問に臨機応変に答えるのが難しく、すばやい応答はできないことがある」と聞かされていたが、目の前の「塩爺」はそんな様子はなかった。

「22年の8月24日やったなあ。脳出血やった。これでまいったんや。それで失語症やろ。リハビリは1年間やったぞ。1週間に1遍。京都の病院に50回行ったわぁ。ふふ」

そうなのだ、暑い夏だった。精を付けろと肉をごちそうしてくれ、遅くまで孫やら親戚一同で近く中国に旅行する計画をうれしそうに話していたのを思い出した。その後、旅行中に、応用化学の研究者で仲の良かった弟が急死。とんぼ返りして間もなく今度はご自身が倒れたのだと聞いて、びっくりしたのだ。古くから事務所で働く秘書は「自慢の弟だったし。ショックだったみたいなの……」と教えてくれたのだった。あの「夏の肉」の思い出などを話して、「肉は大丈夫なのですか」と聞くと、「肉はいかんのや。酒もいかん。もう怖いんや」と少し寂しそうにつぶやいた。

何をしているかと聞くと「国会も見てるでぇ。もう国債が1000兆や。早く返さないと危ないでぇ。利率がぱっと上がったら大変だからな」と言う。そして、「言葉不自由になったから字にすると……」と、メモ用紙を取り出してさまざま細かい数字を書きながら、「日本の危機」を訴えた。書くだけでなく熱く語る姿は、大変なリハビリの努力をうかがわせ、その、国を思う情熱に打たれた。

しかし、その消費税論議は国会では全然与野党の話し合いが進んでいないのだ。今年の内閣改造の目玉であったはずの岡田克也副総理が突然、「今回5%引き上げての10%には、年金の抜本改革は入っていない」と言ったことで、議論は一気に広がりすぎてしまっていた。消費税に詳しい片山前総務大臣は、細川内閣の「国民福祉税構想」と同じだと手厳しい。そもそも、今回の5%の引き上げは、マニフェスト段階では「ムダの削減」でまかなう考えで、「年金の抜本改革」の方に、消費税の引き上げを充てるはずだったというのだ。もう「ウソ」が盛り込まれていたという舞台裏だった。


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