●「代表選再選が難しい状態」 渡部恒三氏(12月11日放送)
そうなのだ、もう、「変える」「変えない」が党幹部の口から出るようになってしまっているのだ。野田内閣の命運をかけた消費税増税も、小沢元代表を先頭に、足下の民主党内の多くがあからさまに反対を表明し続けており、とても実現はおぼつかない情勢となっているのだ。そして、TPP(環太平洋経済協定)の「玉虫色決着」だった。野田総理がいくらやると言って「アクセル」を踏んでも、自ら「党内融和」を掲げて起用した輿石東幹事長は小沢元代表のほうを向き「ブレーキ」をかけるのだ。「アクセル」と「ブレーキ」を一生懸命踏み続け、大きな音を出してエンジンは熱くなるものの、進まないのだ。そんな姿に支持率は低下し始め、12月には「不支持」が「支持」を上回る事態となった。このままでは、12 年9月の代表選挙では、後に控える衆院解散・総選挙の顔が期待され、野田総理の再選はおぼつかない。かといって、それまでに解散しても、「勝利」はおぼつかない。理屈の上では、いわばもう「どん詰まって」しまっているのだ。
気づいたのだが、本会議場では、なんだか野次にも力がないのだ。仙谷官房長官への問責の時には、場内に延々と罵声が飛び続けたのだが、あれから1年、発言者が「本来であれば素人発言があった時に野田総理は一川大臣を更迭すべきだった」と言うと、みんなで「そうだあ」、「総理はより襟を正して職務をしっかり果たしてほしい」と擁護したが、ない袖は振れないのと同様、「ない襟は正せないのです」と言うと、みんなで「そうだあ」という按配なのだ。なんか、昼の番組でタモリ氏がオープニングでお客に呼びかけて、お客が応えるという、あの感じなのだ。なんだか、攻めるほうもこれでいいのかと「迷い」が生じて本気でないのだ。1年前と同じではなかった。1年前以下なのだ。あの、歴史的な大震災という出来事でも変われなかった、目の前の政治はつくづく情けなかった。
●「個利個略が…」 野中広務氏(12月4日放送)
あの人ならどう言うだろうか。翌日、思い立って電車で埼玉・所沢に向かった。乗り継いだバスから降りると、なだらかな丘の黄色や赤の紅葉が昼下がりの日差しの中で迎えてくれた。しばらく、きれいに掃除の行き届いた坂道を上っていくと、品の良いグレーの墓石に「筑紫家之墓」とあった。「おお、どうした」。筑紫さんに話しかけられて、不覚にも落涙した。駅前で買った、赤ワインをそっと供えて、そこにあぐらをかいて本を開いた。かつて『NEWS23』でイラク戦争に反対する年末スペシャル(03年)の私のVTRで筑紫さんが読んだくだりをさがした。
〈刑務所の中の場面がありました。そこでは男が今やまさに処刑されようとしている。男は恨めしそうに、同じ部屋の囚人たちに対してさかんに言うわけです。「自分は何もしなかったのにこういう目にあった、抵抗運動もしたことはない、それなのにこんなひどい目にあういわれはない、私は何もしなかった、なにもしなかった」。それに対して元銀行員のレジスタンスの指導者が静かにこう言います。「私は貴方の言うことを信ずる。しかしまさに何もしなかったということがあなたの罪なのだ。なぜあなたは何もしなかったのか。5年も前から戦争が行われている。その中であなたは何もしなかったのです」〉(丸山眞男著『現代政治の思想と行動』56年初版、未來社)
別のページにはこうもあった。
〈政治行動を何か普通人の手の届かない雲の上の特殊なサークルで行われる仕事と考えないで、私たちのごく平凡な毎日毎日の仕事の中にほんの一部であっても持続的に座を占める仕事として考える習慣、それがデモクラシーの本当の基礎です〉(同前)
そうなのだ。あの本会議場の人たちに任せて、嘆いている場合ではないのだ。ここまできたら、これから新しい年こそ頑張らねばならないのだ。お線香の香りが広がる中、しばらくそこですごした。丘陵地の空からはさんさんと光が降り注いでいた。
※本原稿は調査情報1〜2月号に掲載されています。
◆石塚 博久 (いしづか ひろひさ)
'62 東京都足立区生まれ。早稲田大学卒業後、'86日本経済新聞社に入社。大阪、名古屋、仙台支局(このとき、「みちのく温泉なんとか殺人事件」に出るような温泉はほとんど行った“温泉研究家”でもある)に。
東京本社政治部で政治取材の厳しい(「虎の穴」のような)指導を受け、新聞協会賞(「閣僚企画」共著)も。
'96TBS入社後は、報道局政治部記者、「NEWS23」のディレクターを経て、「時事放談」制作プロデューサー。

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御厨:こうなってくると、野田総理は2012年9月の代表選挙の再選は難しいということになりませんか
渡部:うん、それはなかなか難しい状態ですけれどね。ただ、鳩山(由紀夫)君の場合は、これはもう言い訳できない。沖縄の皆さんに長い間苦労して頑張ってもらったのを、残念ながら帳消しにしちゃった。それから菅君の場合は、本人にもあったけど、やっぱり小沢君。その子分たちが不信任案に賛成するという党内事情では辞めざるをえない。2年前、国民の皆さんから政権交代という期待で、政権を与えて頂いたのに、鳩山君も菅君もその期待に応えられなかった。本当に残念でなりません。だから、なんとかこの野田君でいきたいと思って、国民にも理解いただきたい。ここでまた野田君を取り替えたなんていったら、世界の人から一体日本は何をやっているんだと。5年間で既に総理大臣6人ですからね