時事放談

1年前と同じではないかと腹を立てていた。今日は、臨時国会最終日、つまりは2011年の国会最後の日なのだ（12月9日）。それなのに記者席から覗き込む格好になる目の前の参院本会議場でこれから始まろうというのは一川保夫防衛大臣と山岡賢次消費者担当大臣の問責決議案の採決なのだ。10年の今頃は、菅内閣の走り出した頃で、その発言などをめぐり仙谷由人官房長官と馬淵澄夫国土交通大臣の問責決議案が可決され（10年11月27日）、そのときも私はこの議場にいた。仙谷氏を壇上に座らせて、議場自民党席からの野次は激しく、まるで「公開処刑」を思わせた。あの、後、結局、菅政権は仙谷官房長官を（改造内閣で）退任させ、参謀役を失った政権の迷走が続くことになった。

「ねじれ国会」の中、野党は相変わらず「問責決議」を使い、政府・民主党は相変わらずその「ワンパターン」の手口に負けていた。野田内閣は1年前の出来事から何も学習していなかったわけだ。

●「党内を見た適材適所」　増田寛也氏（11年12月11日放送）

御厨貴：そもそも組閣のときから、いつでも問責が出る可能性があったわけですよね。政権に緊張感がなかったんでしょうか

増田：そこに今回の大きな原因があるのではないかと。適材適所と、野田さんはこの間の国会答弁でも言っていましたけど、私には、党内だけを見た適材適所としか見えない。国民が目に入っていない。任命権者の最終的な判断は重いと思います

本会議のベルが鳴ると、議場にぞろぞろと議員が入ってきた。きらびやかな女性議員に交じって、「参院ファッション番長」の三原順子氏は濃い茶色のスーツに黒のブーツで最前列に座った。遠目に見ても「綺麗」に見えるのはさすが芸能界で鍛えただけあるワイなどと思った。もう、定刻で始まるぞという頃に入ってきたのが「参院のヤジ姫」たる丸川珠代氏なのだが、なんと毛糸で編んだ黄色い大振りのひざ掛けを脇に抱え大きなピンクの柄のスカーフを背中に羽織って、顔にはマスクという、「珍妙」ないでたち。席に着くと周囲の議員に、しきりに顔のマスクを指で指し示し風邪であることを説明しているようであった。

しかし、定刻になっても会議は始まらない。正面で議長は席に着いて待っているのだが、席は半分ほどしか埋まっていないのだ。だらだらだらだらと議員の入場は続き、既に座っているたまりかねた議員からは「早く座れよっ」と野次が飛んだりしていた。「がんっ。がんっ」と議長の木槌の音で始まったのが、3分遅れ。緊張感のなさに「おいおい、これが今年の最後の国会かい」と思った。そもそも、この国会で東日本大震災の復興に向けた第3次補正予算が成立したのは、3・11から9カ月の遅さ。しかも、野田佳彦総理が復興財源に充てるとともに、消費税増税の理解を得るために成立させると大見得を切っていた公務員給与の削減法案は先送り。国会議員の定数削減も先送りしたのだ。

●「民間より高い公務員給与」　増田寛也氏（11年12月11日放送）

増田：後で消費税増税のことがありますので、なおさら、身を切る法案というのは大事だと政治的に思うんです。それ以前に、震災復興なりがあるわけですから、当然ながら公務員給与はもっと大幅に引き下げるべきですね。今のままですと、民間より高い給与を公務員がもらうわけです。国会議員の歳費も、震災の後はカットしていたわけですが、この10月から戻ってますし、議員定数削減も数字は出ていましたが進まない。〝震災後の日本.への認識が決定的に違うのではないか

正面右の扉から一川大臣が入場してひな壇の定められた位置に着席し、指名されて自民党議員が問責決議の提案理由を壇上で叫び始めた。「一川大臣は認証式前に『私は安全保障の素人だがそれが本当のシビリアンコントロールだ』と発言しました。全くの大間違い。文民の政治家が実力組織を統制するという意味であり、文民と素人は同義ではありませんっ」と叫ぶと、自民党席からは「そうだっ」との掛け声。一川大臣は、悲しげに発言者を見たり、資料になにやら書き込んだり、腕を組んでうつむいたりと落ち着きない様子で、さらされていた。

確かに、一川大臣は、出だしの「つまずき」だけならまだしも、その後も「ねじれ国会」の緊張感を欠き、ブータン国王の晩餐会に行かずに同僚議員のパーティーで「こっちのほうが大事だ」と挨拶の中で言ったりとの「失敗」を重ねた。しかも、それをいちいち「言い訳」するものだからさらに野党の攻撃材料を作っていった。最後に、発言者が、問責の理由を列挙したらああだこうだと8項目にのぼっていた。

これに対し、民主党議員が登壇し、問責決議の反対の理由は「私は素人とおっしゃったのは、もの静かで穏やかで、けっして自己顕示をしない一川大臣の謙虚さの現れです」などと叫ぶものだから、自民党席では名前の札を机にがんがん打ち付けて抗議。マスクをしていた丸川氏は、マスクを手ではずして叫び出し、その後咳き込んだりしていた。

問責をめぐるやりとりにウンザリしながら、この1年間を思った。資料の束中にあった、震災直後の論文が目に留まった。震災13日後のもので、行き詰まって「変わるべき」だった「戦後政治」が、暴力的に「変わらざるを得なくなった」と指摘していた。そして「変われ」と熱く訴えていた。「国土流出の事態はこの国全体に、『災後』としてのレベルの異なる難題をつきつけている」とあった（『読売新聞』11年3月24日付、御厨貴「災後政治の時代」）。

しかし、思えばあれから、「危機」の中で、この国の政治は復活を目指すのではなく、国会での議論は菅直人総理の福島原発事故の初期対応を糾弾する方向に向かい、6月にはなんと民主党の中から、小沢一郎元代表を支持する議員らが、野党自民党の提出する内閣不信任案に賛成する騒動へと展開。これに菅総理が「辞任」を表明して回避するものの、なんと、その後もああだこうだと「延命」。今度はそれをめぐって、党内、与野党入り乱れて非難しあい、やっと9月には新しい野田総理が誕生したものの、その後も与野党は非難しあい、復興予算ができあがったのは11月。そして、今、眼前には、1年前にもまして「劣化」した政治の姿だった。この国の政治は、あれほどの大きな歴史的な曲がり角の出来事があっても変われていなかった。