2019年4月スタート

用語解説

第6話

【 遺伝子ドーピング 】

遺伝子治療の原理を応用したドーピング方法。一例として、特定の遺伝子を筋肉細胞などに注入して、局所的なホルモン産生等を引き起こすことにより、筋肉の増強等を促進し、アスリートの能力を高めることが可能であろうとされている。まだ理論の段階で、実際に人体への適用例は知られていない。
この遺伝子ドーピングは、自己の細胞に様々な因子を作らせるため、一般的な血液や尿の分析によるドーピング検査では発覚しづらく、証拠も残りにくい。世界アンチ・ドーピング機構は、2018年に、ゲノム編集を使ったドーピングを禁止事項に追加した。現時点において遺伝子ドーピングを行なった選手は確認されていない、とされている。

【 C.エレガンス 】

線形動物である線虫の一種で、学名はCaenorhabditis elegans。。C.エレガンスの体長は1mm前後で、色は透明。脳、神経、消化器官、生殖器を持っているが、目と耳はない。その代わり嗅覚が発達しいる。餌は大腸菌などの菌類が主である。ほとんどの個体が雄雌同体のため、同じ遺伝子を持った個体を増やすのが容易で、全ての細胞が生きたまま顕微鏡で観察できる。このような特徴から、モデル生物として、生命現象の研究で幅広く使われている。

【 蠕虫 】

蠕虫(ぜんちゅう)は、体が細長く蠕動により移動する虫(小動物)の総称。脚は持たず、骨格・外骨格・貝殻のような硬い構造も持たない。また左右相称ではあるがあまりはっきりとはそれが現れない。ミミズなど野外で見られるものもあるが、寄生虫も多い。医学的には,単細胞の原虫に対して多細胞の寄生虫群を意味する名称として使われる。一部の寄生性蠕虫は、自己免疫疾患やアレルギーなどに有効な効果を持つと報告されている。

【 アニサキス 】

哺乳類に寄生する線虫の一種。その幼虫は、長さ2~3cm、幅は0.5~1mmくらいで、白色の少し太い糸のように見える。アニサキス幼虫は、サバ、アジ、サンマ、カツオ、イワシ、サケ、イカなど様々な魚介類に寄生する。アニサキスの幼虫が寄生している生鮮魚介類を生(不十分な冷凍又は加熱のものを含む)で食べることで、 アニサキスの幼虫が胃壁や腸壁に刺入し、アニサキス症を引き起こすことがある。

【 強迫性障害 】

不安障害の一種で、行き過ぎた不安やこだわりによって日常に支障が出る病気。汚染への恐怖からやたら清潔にこだわり、何度も手洗いしたり消毒を繰り返すなど、過剰な行為を伴う。他にも、加害恐怖、確認行為、儀式行為、数字へのこだわり、物の配置や対称性などへのこだわりなど多彩である。病気だと気付かない患者も多い。世界保健機関は、生活上の機能障害を引き起こす10大疾患のひとつに挙げている。

【 ゲノム編集 】

ゲノムとは、遺伝子(DNAからなる)とそれを有する染色体から構成され、ある生物種を規定する遺伝情報全体のことを指す。そのゲノムを、部位特異的ヌクレアーゼ(核酸分解酵素)を利用して、自由に加工、編集、または書き換えをする技術のことをゲノム編集と呼ぶ。2010年以降、遺伝子治療や農畜産物の育種への応用を目指して、ゲノム編集の研究が急速に進められている。

【 CRISPR-Cas9(クリスパー・キャスナイン) 】

ゲノム編集技術のひとつ。他のゲノム編集の方法よりもより簡便で確実であると言われている。Cas9は、DNAを切断するハサミの役割をする酵素(部位特異的ヌクレアーゼ)の一種である。加工する遺伝子配列の居場所を探し出すガイドRNAを自在に設計し、Cas9と一緒に細胞の核に注入すると、ガイドRNAがDNAの遺伝子情報を見つけだし、Cas9がその場所のDNAを切断する。切断されたDNAは、細胞により修復されるが、その際に遺伝子配列の一部が欠けたり、新たな断片を取り込んだりすることがある。それを利用することで、遺伝子を動かなくしたり、遺伝子情報を書き換えたりすることができる。

【 オフターゲット効果 】

ゲノム編集において、標的とする配列(=編集を加えたい場所)以外のゲノムの場所に、意図しない編集が行われてしまうこと。その結果、目的以外の遺伝子にDNAの欠損や挿入などの変異が導入されてしまうことがある。

【 悪性リンパ腫 】

血液のガンの一種。造血細胞が、より複雑な細胞に分化していく途中で、悪性化(=ガン化)したもの。ガン化した白血球が血液内で増殖した場合は「白血病」に、ガン化したリンパ球がリンパ節やリンパ管で増殖した場合は「悪性リンパ腫」になる。治療は主に、化学療法と放射線治療。治療効果が十分でない場合は、さらに強い化学療法や、造血幹細胞細胞移植等が行われる。

【 造血幹細胞 】

「血」を「造る」細胞のこと。血球系細胞に分化可能な、幹細胞である。主に骨の内側にある骨髄の中にある。造血幹細胞は、細胞分裂を繰り返し、自身を複製し続ける。そのうちいくつかの造血幹細胞が、「赤血球(=酸素を運搬)」、「白血球(=病原体と戦う)」、「血小板(=出血を止める)」それぞれを生み出しすことで、血液成分が作られる。

【 造血幹細胞移植 】

病気になった造血幹細胞を、健康な造血幹細胞に入れ替える治療法の一種。造血幹細胞は人工的に作ることができないため、健康な人からの移植となる。時に、非常に強い副作用や合併症を生じることもある。造血幹細胞移植では、化学療法や全身への放射線治療などからなる移植前処置のあとに、自分またはドナーから事前に採取した造血幹細胞を点滴で投与する。移植された造血幹細胞が、患者の骨髄に定着することで、正常な造血機能が回復する。

【 HLA 】

HLA(Human leukocyte antigen)は、白血球の型の一種である。赤血球にはA型、B型、AB型、O型などの血液型があるように、白血球をはじめとする全身の細胞にも型がある。このHLA型には、驚くほどの種類があるため、同じHLA型の人間に出会うのは数百から数万分の1の確率である。HLA型は両親から半分ずつ遺伝的に受け継ぐため、兄弟姉妹の中ではHLA型は4通り。つまり、兄弟姉妹間でも、一致する確率は1/4となる。移植を必要とする人の多くは、家族の中で同じHLA型を見つけることができない。その場合は、骨髄バンクもしくは臍帯血バンクで非血縁ドナーを探すことになる。

【 かもめのジョナサン 】

1970年にアメリカで発表され、全世界で4000万部以上売れた大ベストセラー。より速く、より自在に、とただひたすらに飛ぶことを追求し工夫と訓練を重ねるカモメのジョナサンを主人公にした物語。群れから追放されても、ストイックなジョナサンは強い意志と勇気をもってスピードの限界に挑戦する。

監修

嘉糠 洋陸(Hirotaka Kanuka)

東京慈恵会医科大学教授。1997年東京大学農学部獣医学科卒業、2001年大阪大学大学院医学系研究科修了、2011年から現職。専門は寄生虫学、衛生動物学。

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