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2019年1月6日「カリブ海の世界遺産」

澄んだ水をたたえる泉 マヤ文明を支えたセノーテ

サンゴが積み重なってできた石灰岩がユカタン半島を生み、そこにマヤ文明が繁栄しました。番組の後半では、そんなつながりを紹介しながら3つの世界遺産を巡ります。

──火山の話が続きましたが、次の世界遺産はなんでしょうか。

江夏:次は、ベリーズのバリアリーフです。一年中温暖なカリブ海には北半球最大のサンゴ礁があります。南北250kmも続く、ベリーズのバリアリーフです。番組では空や水中から撮影したバリアリーフの絶景をお見せしますが、広さだけでなく、海底からそそり立つサンゴの積み重なりでできた崖の高さにも注目してください。気の遠くなるような時間をかけてできあがったものなのです。実はサンゴ礁が、この自然遺産だけでなく、このあとにご紹介する陸の世界遺産とも関係があるのです。

北半球最大のサンゴ礁である、ベリーズのバリアリーフ。南北に250kmも続いています。

──それはちょっと意外です。どんな世界遺産と関係があるのでしょうか?

江夏:それは、メキシコのシアン・カアン自然保護区です。ベリーズのバリアリーフからユカタン半島に沿って北上するとある自然遺産なのですが、ここにはセノーテという不思議な天然の井戸がたくさんあるのです。

石灰質の土地にできた鍾乳洞が水没してできた泉がセノーテです。

──天然の井戸とサンゴのつながりを教えてください。

江夏:サンゴの石灰質の固い骨格がつながってくるのです。ユカタン半島は、サンゴの死骸などが堆積した石灰岩の地層が隆起して誕生しました。そして雨が石灰岩を溶かして鍾乳洞ができ、やがて地下水に満たされ水中洞窟になりました。その地下水脈に繋がる大地に空いた穴がセノーテです。セノーテの中の水は、石灰岩を通り抜ける際に濾過されているため、非常に綺麗です。透明度50メートルと高いため、水中洞窟で撮ったダイビング映像は、まるで水がないかのように見えるので非常に不思議な光景です。

水の透明度の高いセノーテの水中洞窟。不思議で美しい光景が広がっています。

──透明度50メートルの水中洞窟の映像は楽しみです。

江夏:セノーテの入り口から差し込む光は、“マヤブルー”と呼ばれ本当に美しいのでぜひご覧ください。さらにセノーテは、マヤ文明の文化遺産、チチェン・イツァにもつながります。チチェン・イツァは、最盛期には3万5000人が暮らしたマヤ文明で最大級の都市でした。普通、文明が発展するには川が近くにあることが条件になるのですが、石灰岩の大地は雨水を吸い込んでしまうのでユカタン半島には大きな川はありません。川に代わって水の供給源となったのがセノーテなのです。チチェン・イツァもそうやって成り立った都市の1つで、神殿であるピラミッドの近くにセノーテがあります。

チチェン・イツァはセノーテを水源として成り立った都市の1つです。神殿であるピラミッドの近くにセノーテがあります。

──石灰岩が生み出した泉が、マヤの人々の暮らしと密接に結びついていたのですね。

江夏:セノーテは水源というだけでなく、宗教儀礼の場でもあったようです。“聖なるセノーテ”と呼ばれる、チチェン・イツァにある泉の底からは黄金の捧げ物が見つかりました。雨乞いの儀式の際に投げ入れられたものと考えられています。この一帯で金は採れないので、黄金の装飾品が出てくるということは当時、カリブ海交易を通じて中米から金が運ばれていたことの証なのです。

水源としてだけでなく、宗教儀礼の場でもあったセノーテ。その底からは、黄金の捧げ物が見つかっています。

──火山からジャングル、美しい海、不思議な洞窟、そして遺跡と金の財宝と実に盛りだくさんな今回の世界遺産ですが、最後にそれらの中でもいち押しの見どころを教えてください。

江夏:さまざまな番組でもよく取り上げられるカリブの世界遺産ですが、今回は今まで見たこともない特別な映像をいろいろ用意しています。特に、沸き立つ湖を真上から見下して水面に迫る映像は迫力満点です。あと、通常メキシコの遺跡はドローン撮影が許されていないのですが、今回チチェン・イツァの撮影が特別に許可されました。上空から見たチチェン・イツァのピラミッドは、貴重な映像ですのでお見逃しなく。

上空から見たピラミッドや沸き立つ湖の水面に迫る絶景映像をお見逃しなく。