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BACK NUMBER #735 2020.10.10 O.A.

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陸上界のニューヒロイン・田中希実 快挙の裏側にあった親子の葛藤
【陸上界のニューヒロイン・田中希実 快挙の裏側にあった親子の葛藤】
2020年。新型コロナウイルスの影響で、オリンピック史上初の延期が決定。多くのアスリートたちが目標を見失う中、日本スポーツ界を明るく照らしたアスリートがいる。
田中希実、21歳。2020年8月、オリンピックが開催されていたはずの新国立競技場で、驚くべき記録が誕生した。女子1500mで先頭を引っ張るのは、153cmとひときわ小柄な選手。前傾姿勢で、身体全体を使う、ダイナミックな走りでトップを走り続けると…。2019年、この種目で日本一になった卜部蘭も全くついていけない。驚異的なラストスパートで、後続を突き放す。実況「残り100m、このラストの強さ、これが来年の東京五輪に繋がるはず。日本記録更新。4分05秒26。2秒以上更新しました。」田中は2020年、長年破られることのなかった2種目で、日本記録を更新。1500mは14年ぶり、3000mではなんと18年ぶりとなる快挙だった。さらに特筆すべきは、田中の置かれた環境。過去のメダリストのように実業団に所属し、実績のある監督に指導を仰いで結果を残するのが通例だが、彼女は大学の陸上部にも実業団にも所属せずに父・カツトシさんの指導の下、親子二人で、日本記録を打ち立てたのだ。親子でありながら、コーチとアスリートでもある2人はどのように練習し、日々を過ごしているのか。2020年9月、岐阜県と長野県の県境に位置する標高1800Mの御嶽山。酸素濃度が薄く、国内では珍しく、高地トレーニングが行える。かつてマラソン日本記録保持者の大迫傑など国内外のアスリートや実業団チームが練習を行ってきた。1ヵ月後に日本選手権を控えた田中もこの地で3週間にも及ぶ強化合宿を行っていた。スポンサーからの支援こそあるが、練習場所の確保や移動、宿の手配などは自分たちで行っている。練習の合間には田中の大好きなアイス屋さんへ連れていく。ひとたびグラウンドを離れれば、どこにでも親子だ。四六時中、2人は共に過ごしている。コーチと選手であり、父と娘。2人の関係性はどのように培われてきたのか。その原点が、田中の実家にある。自宅の玄関には、おびただしい数のランニングシューズが所狭しと並べられているそれもそのハズ、家族全員がランナーなのだ。父・カツトシさんはかつて、全国大会で6位入賞の成績を持つ、実業団ランナーだった。母・チヒロさんも、北海道マラソンで2度の優勝を誇る実力者。地元では田中本人よりも有名人だ。田中本人が陸上の世界に入るのはごく自然なことだった。中学から部活動に入り、本格的に陸上を始めた。すると、両親ゆずりの才能はすぐに開花し、中学生の全国大会で優勝を果たした。そして高校卒業後、陸上の強豪校からたくさんのオファーがあったにも関わらず、田中は大学の陸上部でもなく、実業団でもなく、父のもとで陸上をやる。田中にはどうしても父に指導してほしい理由があった。田中「父が時々してくれるアドバイスのおかげで助けられたことが何回もあったので、指導者として私に1番合っている。私はあんまり人に興味ないんですけど、父の生きてきた経験とかの話には興味があって。」前代未聞の挑戦を父と共に挑むことを決めた。一方で、父・カツトシさんは複雑な感情を抱いていた。親として指導者の立場よりも、応援している方が楽だと。プレッシャーも重くのしかかった。そして、その不安は的中してしまう。新型コロナウイルス拡大により、試合が軒並み中止に。目標を失ったことで、2人の衝突は絶えなかった。目標を見失い、環境に翻弄される娘へ、父・カツトシさんは『どの種目でもいいから名前を残すことにこだわってみないか』と提案を持ちかけた。どんなに過酷な状況であっても腐らずに走ろう。それは、父と母が大切にしてきた信念。もがき苦しんだ先にきっと新しい道が拓ける。そう信じて田中はがむしゃらに走り続けた。そしてついに、1500m・3000mで日本記録更新。父の見守る前で他を寄せ付けない、圧巻の走りを披露し、見事初優勝。日本一の称号を手にした。次なる目標は、東京オリンピックの出場権獲得。親子の活躍に期待したい…。
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