バックナンバー:バース・デイ

BACK NUMBER #639 2018.10.13 O.A.

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かど番大関・栃ノ心 知られざる涙の舞台裏
東京・両国にある春日野部屋。9月場所を4日後に控え、大関・栃ノ心は稽古に励んでいた。しかし、苛立ちや焦りを隠しきれない様子。いったいどうしたというのか?彼が終始気にしていたのは右足の親指。2か月前、新大関として挑んだ7月場所で、右足親指の付け根のじん帯を損傷し、全治1か月。途中休場を強いられた。大関は2場所連続負け越すと関脇に陥落する。ケガは考慮されず、休場することも許されない。栃ノ心は、力士にとって生命線とも言える足の指の状態が思わしくないまま、9月場所を迎えようとしていた。相撲は、立ち合いで勝敗の8割が決まるが、今の足の状態では踏ん張ることが出来ない。負け越せば大関陥落というかど番で、最悪の状況だった。伸しかかる途轍もないプレッシャー。この4日前には大関昇進を祝うパーティーが行われ1300人以上の列席者に祝福してもらったばかり。さらに、栃ノ心の母国ジョージアでは大関昇進直後に帰国した際、国を挙げての祝福を受け、日本の国民栄誉賞に当たる名誉勲章を大統領から手渡された。それから、わずか3か月後、大関陥落は相撲人生の終わりに等しかった。栃ノ心にとって、この1年は、まさに天国から地獄へ突き落された土俵生活を送っていた。
2018年1月場所。初土俵から苦節12年、やっと初優勝を掴んだ栃ノ心。更に5月場所でも13勝をあげ、見事大関昇進を決めた。そして綱取りを目指し、新大関で迎えた7月場所。序盤に3横綱が揃って休場するという追い風になり栃ノ心は燃えた。圧倒的な力相撲で初日から5連勝。綱取りはもう間違いない。誰もがそう信じ始めた6日目、小結・玉鷲との取り組みで小手投げを受けた瞬間、体重170キロの全てが右足親指に伸しかかり、付け根のじん帯を損傷してしまった。診断結果は全治1か月。まさかの途中休場となり、綱取りの夢は泡と消えた。
右足親指のケガから2か月、9月場所初日の朝稽古。運命を決する場所は7時間後に迫っていた。しかし、ケガの悪化を恐れてか、足が前に出ない。そして栃ノ心が抱えていたのは、ケガ以上に精神面の不安だった。どんな状況であれ、勝ち越さなければ大関陥落は免れない。これまで感じたことのない緊張感に包まれていた。大関の地位を守る条件は全15番で8勝以上。場所後半には、3横綱2大関との対戦が想定されるため、特に序盤の取りこぼしは許されない。初日は前頭2枚目・千代大龍。見事圧勝で白星発進。翌2日目も勝ち2連勝。そして3日目の相手は小結・貴景勝。対戦成績は、栃ノ心の1勝3敗と苦手にしており前半の山場だ。重心の低い貴景勝に対し、右足親指を無意識にかばってしまった栃ノ心は敗戦。痛すぎる黒星となってしまった。その後、5日目、8日目も敗れてしまい5勝3敗。黒星が増えるに連れ、伸しかかるプレッシャー。すると栃ノ心は極度の緊張のために取組中に過呼吸に。13年の力士人生で初めての体験だった。10日目を終えて6勝4敗。勝ち越しまであと2勝だが、このあとは2横綱1大関との対戦。厳しい状況に追い込まれた。11日目、相手は全勝の横綱・鶴竜。負ければ6勝5敗。勝てば7勝4敗と、かど番脱出に王手がかかる。栃ノ心は覚悟を決め、相撲人生の全てをかけて挑む。すると見事、勝利。これで勝ち越しまであと1勝。しかしその1勝が遠かった。12日目、横綱・白鵬に敗れると、13日目には格下の正代にも敗戦。再び、大関陥落の文字が頭にちらつく。そして迎えた運命の一番。この日の相手は前頭4枚目の阿比。ケガを恐れず、右足親指を使った本来の相撲ができるのか?すると、闘争心みなぎる相撲を見せ、最後は栃ノ心らしい豪快な上手投げ。14日目でついにかど番脱出。栃ノ心は大関の座を死に物狂いで守りきった。重く伸しかかっていたプレッシャーからようやく解放され、大関の目には涙がこみ上げていた。
わずか1年の間に天国から地獄へ。相撲人生最大の危機を乗り越えた大関・栃ノ心は、再び横綱を目指し戦うことを誓った。その不屈の闘志をこれからも追いかける。
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