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BACK NUMBER #608 2018.3.3 O.A.

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66年ぶりの五輪連覇!羽生結弦が勝てた理由
2018年2月17日。この日はこの男のためにあった。羽生結弦(23)。五輪2大会連続金メダルという66年ぶりの大偉業をやり遂げた。その演技は日本のみならず、フィギュアスケートの本場ロシアやアメリカのメディアからも最高の言葉で絶賛された。飛躍的な進化が進む男子フィギュアの世界。4年前、ソチ五輪では選手達は2種類の4回転ジャンプしか試みず、成功率も41%と低かった。6種類が認められているジャンプは、難易度による基礎点があり、難しいものにチャレンジすれば高得点が期待できる。平昌五輪では、4回転ジャンプは5種類に増え、成功率も59%に上昇。成績上位8名は2種類以上の4回転ジャンプに挑戦した選手が独占。銀メダリスト・宇野昌磨は3種類、他にも4種類の4回転ジャンプに挑んだ選手もいた。しかしご存じだろうか?王者の滑りとまで実況され、圧倒的な点差で金メダルをとった羽生は、実は4回転ジャンプを2種類しか飛んでいない。いったいなぜなのか?世界を圧倒した羽生の緻密な計算。その真実とは?
かつて、4回転ジャンプを武器に栄光を欲しいままにしたフィギュアスケーターがいた。4回転ジャンプで世界を魅了し、氷上の皇帝と称されたロシアのプルシェンコ。このプルシェンコに憧れたのが、幼き日の羽生だった。トレードマークのマッシュルームカットまで真似し、プルシェンコのようになると心に決めた。中学生時代、ケガをものともせず3回転ジャンプで最も難度の高いトリプルアクセルに挑み続けた。さらに猛練習の末、2010年、15歳になる頃には4回転ジャンプを練習では飛べるようになった。
そして初めて出場したシニアの大会で、見事成功その名を轟かせる。15歳での4回転ループ成功は17歳で決めた本田武史を越え、今も破られていない日本人最年少記録だ。2年後には、世界的指導者、カナダのオーサーコーチの下、4回転サルコウも自分のものにした。トウループとサルコウ、2種類の4回転ジャンプを武器に、ついに2014年、初出場のソチ五輪に挑んだ。1つ前のバンクーバーでは、4回転トウループに成功したのは、わずか3人。しかしソチで争うライバルの中にも、2種類の4回転ジャンプに挑む者もいた。ただ飛んだだけでは勝てない。そのために羽生が狙ったのは、基礎点にプラス点が見込めるジャンプの完成度を示す出来映え点。この出来映え点で点を稼ぎ、ライバルに差をつける。そんな計算の下、羽生は勝負をかけた。初日のショートプログラム、羽生は4回転トウループで出来映え点2.86を獲得。ほぼ完璧な演技でトップに立った。しかし、翌日のフリーでは4回転サルコウを着氷で失敗。転倒したことで出来映え点は最低のマイナス3となった。しかしライバルたちの多くも、4回転ジャンプに失敗。得点が伸びず、羽生は逃げきるような形で金メダリストとなった。その胸中は複雑だった。金メダルなのに悔しい。羽生は、4回転ジャンプにそこまでこだわっていた。ソチの金メダルは胸を張れるものではない。そんな悔しさを秘め、練習に打ち込んだ。そんなストイックな思いが、練習中、自分への怒りとして顔を覗かせることもあった。ソチの翌年、2015年のグランプリファイナルでは、トウループ、サルコウ、2種類の4回転ジャンプを、計4回飛び、その全てで出来映え点3点を獲得。史上最高得点で優勝した。多くの選手は、ジャンプの前に体を安定させようと、ターンや腕の振りを抑え、まるで助走するかの様に飛ぶ。しかし羽生は、ジャンプの前にも腕の振りや細かなターンを繰り出し、助走と思われる様な動きをほとんどすることがない。2種類の4回転ジャンプの質を高め、史上最高得点をマークしたのだ。しかしこの頃から、男子フィギュアの風向きが変わった。2016年、18歳の宇野昌磨が世界で初めて4回転フリップに成功。更にアメリカのネイサン・チェンが、ループ、サルコウ、ルッツを習得。5種類の4回転ジャンプを自分のものにするなど難度の高い技に挑む選手が増えたのだ。羽生も負けじと、2016年、世界で初めて4回転ループに成功。さらに2017年10月には、現状、最も難度の高い4回転ルッツも飛べるようになった。だがピョンチャン五輪本番まで3か月、4回転ルッツの練習中、着氷に失敗し右足首を故障。練習すら満足に出来なくなった。ライバルたちは、難度の高い4回転ジャンプを3本は飛ぶと、予想された。羽生は決断する。トウループとサルコウ。2種類だけで勝負する。難度の高いジャンプは断念、ステップやスピンといった他の技術で補い、ジャンプは完成度に自信のある2種類で得点を稼ごうと。迎えたショートプログラム。勝つためには、2種類の4回転ジャンプを完璧に決めなければならない。まずはソチで転倒した4回転サルコウ。見事に決め、出来映え点は2.71。高い評価を得た。更に完璧な連続ジャンプ。結果は、基礎点ではライバルに下回ったが、出来映え点で大きく差をつけトップに立った。翌日のフリー。 王者にして挑戦者の羽生が圧巻の演技を見せた。出来映え点は、審判全員がどちらも最高の3点をつけた。難しさにこだわらず完成度の高さを目指す緻密な計算で、羽生は納得の金メダルを手にした。
羽生結弦(23)。快挙の余韻に浸ることなく既に未来を見つめている。あまりに劇的な平昌五輪へのストーリーは、既に小さなエピソードに過ぎない。
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