バックナンバー:バース・デイ

BACK NUMBER #607 2018.2.24 O.A.

バックナンバー
相撲史に残る奇跡の復活劇 支えた妻との結婚式/千代の国
「番付が一枚違えば、家来同然、一段違えば虫けら同然」
そう語られる過酷な大相撲の世界で、男は幕内から一転、幕下以下の三段目に大きく転落する地獄を味わった。しかし、再び幕内に返り咲いた者は、明治以降わずか2人という過酷で茨の道。それでも男を信じ、支え続けた一人の女性がいた。そして、ずっと待ち続けた結婚式を目前に控え、男は勝負の場所に挑む。どん底を支えてくれた彼女のために。奇跡の復活を遂げた男と支え続けた妻の知られざる激闘を追った。
三重県にある、お寺の次男として生まれた千代の国は、住職だった父に厳しく躾けられ、幼い頃から打ち込んだ空手で全国優勝を果たした。そんな空手少年が、初めて相撲の魅力に目覚めたのも父がきっかけだった。小学4年生のとき、横綱・千代の富士のファンだった父に連れられ九重部屋を訪れた。中学卒業後、九重部屋に入門。20歳で十両となり、わずか3場所、21歳の若さで幕内昇進を果たした。このとき、千代の国は部屋の中で最も番付が上の部屋頭。当時の親方、元横綱・千代の富士も手放しで喜んだ。しかし、その2年後、23歳の時、相撲人生が一変するアクシデントに襲われる。2014年5月場所初日。この時、土俵下に落ちた衝撃で、右足のかかとの骨を骨折。2日目から休場し、十両に転落した。更に4か月後、今度は両膝の持病が悪化。手術を余儀なくされ、またも休場。番付は幕下にまで落ちた。そして待っていたのは相撲界の厳しい現実だった。十両と幕下、そこには凄まじいまでの格差が存在する。十両より上は関取と呼ばれ、月100万円以上支給されるが、幕下以下は力士養成員と呼ばれ給料はゼロ。それだけではない。関取は個室を与えられるのに対し、幕下以下は大部屋生活。その上、服装も番付によって細かく取り決められている。更に食事作り、洗濯、掃除なども幕下以下の役目。幕内経験者も例外ではない。かつて部屋頭だった千代の国も、すべて従わなければならなかった。しかも付け人として世話することになったのは後輩の関取だった。ケガで稽古も出来ず、精神的にも追い詰められた。体重は13キロも減り、幕内の頃に比べ、まるで別人のようだった。そんな苦境の中、更なる悲劇が。相撲の世界に導いてくれた父が食道がんのため56歳の若さでこの世を去った。亡き父へ復活を誓った千代の国。しかしこの頃、番付は幕下の更に下、三段目にまで落ちていた。幕内復帰には120人がひしめく幕下、更にその上の十両を勝ち抜かねばならない。三段目まで転落して再び幕内に復帰出来た力士は、明治以降たったの2人しかいなかった。2015年3月場所。奇跡を起こす戦いが始まった。三段目に転落して初めて迎えたこの場所で千代の国は全勝優勝。次の場所で幕下に上がると、4場所続けて勝ち越しを重ね、2015年12月、十両に昇進、関取の地位を取り戻した。そして十両3場所目の2016年5月場所。勝ち星を積み上げ、十両優勝をかけた大一番を迎えた。対するは、後の小結・貴景勝。幕内転落から2年、千代の国は明治以来3人目となる三段目からの幕内復帰を果たした。
千代の国には支え続けてくれる人がいる。同い年の妻・愛さん(27)。19歳で出会った2人は、早くから結婚を考えていた。だが23歳のとき、千代の国が幕下に転落。相撲界では結婚は十両以上という慣習があるため2人の結婚は一度立ち消えた。それでも愛さんは復活を信じ待ち続けた。ケガの多い彼のためにスポーツ選手をケアするトレーナーの資格を取り側で支えた。そして幕内復帰から1年が経った2017年4月、7年の交際を経て結婚。2人は2018年、大切なイベントを控えていた。一月場所を前に夫婦が訪れたのは結婚式場。場所が終わる2月17日に結婚式を挙げることになっていた。しかし千代の国は、体に或る問題を抱えていた。2017年の11月場所で、右足首の軟骨とじん帯を傷めていたのだ。医師の診断は全治3か月。一月場所を休場しても、おかしくない状態だった。それでも千代の国は絶対に休まないと決めていた。故障を抱え、千代の国が特に取り組んだのは、相撲以外のトレーニング。総合格闘技界のカリスマ、桜井マッハ速人のもと足首に負担がかからないメニューを徹底的に行った。そして迎えた2018年の一月場所。初日の相手は元関脇、前頭8枚目の栃煌山。足首に故障を抱える千代の国。どんな取り組みを見せるのか?立会いから痛めた右足を前に出せず終始押される展開。最後は押し出しで黒星を喫した。2日目以降も勝てず初日から4連敗。それでも土俵に立ち続けた。そして迎えた5日目。この日の相手は幕内最年長、39歳の安美錦。序盤から攻撃の手を緩めない積極的な責めに出た。最後は絶妙なタイミングで引き落とし。初白星をつかんだ。その後、徐々に持ち直し、最後は3連勝で6勝9敗。千代の国は一月場所を勤めあげた。
2018年2月17日。念願の結婚披露宴が行われた。多くの相撲関係者をはじめ450人を越える列席者が2人を祝福した。三段目転落から3年、妻と共にようやく辿り着いた晴れの日だった。披露宴が終焉を迎えたそのとき、千代の国は溢れる思いを抑え切れなかった。厳しい相撲界で苦しみを乗り越えてきた男は最後に感謝の言葉を語った。
明治以来3人目となる奇跡を不屈の闘志でなし遂げた千代の国。土俵に命をかけ続けるこれからの相撲人生に注目したい。
[BACKNUMBER]
banner_AD
Loading…

SNS

TBSトップページサイトマップ Copyright© 1995-2021, Tokyo Broadcasting System Television, Inc. All Rights Reserved.