バックナンバー:バース・デイ

BACK NUMBER #604 2018.1.27 O.A.

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ボディビル界の生ける伝説・合戸孝二 (56)
日本が世界に誇る「生ける伝説」たち。そんな男がボディビル界にもいる。極限まで鍛え上げた肉体。合戸孝二(56)。過去4度、全て最年長で優勝。前人未到の偉業を成し遂げて来た。しかし、最大の試練が襲いかかる。筋肉が動かない。選手生命の危機に直面した時、男は何を思ったのか?ボディビルに人生のすべてを捧げる壮絶な生きざまを追った。
20歳からボディビルにのめり込み今年37年目を迎えた。その傍らに立つ女性は、12歳年下の妻・真理子さん。21歳で結婚して以来、23年に渡り夫を支えてきた。自らも重りとなり、夫の筋肉に負荷をかける。56歳になった今も、こうしたハードトレーニングを続けている。合戸の鍛え上げた鋼の肉体は、夫婦二人三脚の結晶だ。人生の全てをボディビルに捧げてきた。しかし、一方で合戸は、大きな代償を払ってきた。実は左目が全く見えない。そこにはある決断があった。今から19年前、合戸が38歳の時、世界選手権に向け、ハードなトレーニング中、極限まで負荷をかけるあまり、眼球内の血管が圧迫され出血を起こした。このまま続ければ左目は失明する。医師はトレーニングを直ちにやめ、治療に専念することを進めた。しかしそこには、ある問題が。その治療にはステロイドを使用する。すると、薬の影響を恐れた合戸は、自らの意志で治療を拒み、ボディビルを続けることを決断。世界選手権で4位入賞。しかしその後、左目の視力を失った。それから6年後の2005年。44歳になった合戸は、史上最年長で日本選手権初制覇。更に2007年から3連覇を果たし、いずれも最年長優勝という前人未到の大記録を打ち立てた。その後、50歳を超えてもなお、表彰台に上り続け、合戸は再び頂点を目指すと決めた。しかし2016年、14年連続、出場してきた日本選手権を欠場。ボディビル界に衝撃が走った。いったい何があったのか?実は合戸の体に異変が起きていた。日本選手権を2か月後に控えた8月、いつものようにトレーニングを始めようとウォーミングアップ用の60キロのバーベルを上げようとしたが、全く持ち上がらない。左腕に力が入らなくなっていた。体が思うように動かない。それは35年に渡るボディビル人生で初めての経験だった。自分の体に何が起きているのか?地元の整形外科に診てもらったが、原因は分からなかった。合戸は日体大で体の仕組みを研究するボディビル仲間の岡田ものもとを訪ねた。すると、人間の体は脳が発する指令が神経を通じ、筋肉に伝わることで動く。筋肉に損傷がないにも関わらず、力が入らない合戸の症状は、神経の問題ではないか?実は岡田もよく似た症状を経験していた。3年前、右腕に力が入らなくなった岡田は、1年以上のリハビリを経て克服。この話を聞いた合戸は、リハビリの一環としてまず電気刺激療法を始めた。動かない筋肉を外からの電気刺激で動かし、神経にも働きかける効果が期待できるという。その後もトレーニングを続けていた合戸のある症状が。長時間正座した後の痺れに似た症状が、左の手の先から肩まで1日中続いた。さらに夜になると、左の背中に激しい痛みを感じることが増えた。人生で初めて体験する痺れや痛みに合戸は戸惑い苦しんでいた。その影響で、トレーニングが出来ない日もあった。35年、1日も休まず、全てを捧げてきたトレーニングが出来ない。これは合戸にとって死の宣告に等しかった。妻はこれほどうちひしがれた夫の姿を初めて見たという。トレーニング出来なければ筋肉は衰える。14年連続で出場した日本選手権は欠場するしかなかった。引退…。初めてその2文字が脳裏に浮かんだ。しかし合戸が諦めることはなかった。
2017年2月。トレーニングジムには以前とは別人の合戸の姿があった。2か月前、持ち上げるのが精一杯だった60キロのバーベルを難なく持ち上げた。続いて90キロも。ここで一気に140キロに。補助はありながらも上げた。続いてこの日最大の160キロ。痺れや痛みは、まだ続いていたが、左腕に力が入らなくなって半年、合戸はここまで自分の体を取り戻していた。このままボディビル人生を終わらせたくない。ボディビルこそがまさに生きる意味だった。2017年4月、前の年、欠場した日本選手権に出場すると決めた合戸は、衰えた筋肉を鍛え理想の肉体美を作り上げるべく、妻と共に更なるハードなトレーニングを続けた。
2017年10月、東京で行われた日本選手権。1500人を超える観客が詰めかけた。そのほとんどがあの男を待っていた。番号順に選手たちが壇上へ。合戸の名が呼ばれた瞬間、建物が揺れる程の歓声が。まず35人から12人に絞られる。筋肉の厚み、溝の深さ、全体のバランス、そして表現力が審査のポイントだ。審査員は前年欠場した合戸が、どこまで仕上げてきたか注目していた。体重69キロ。4か月で14キロ絞り、体脂肪率7%は、故障する前とほぼ同じ状態。そんな自信が全身にみなぎっていた。審査の結果、合戸は12人に選ばれた。12人による決勝。合戸にとってここからが、復活をアピールする本当の戦いだ。優勝争いは大会連覇中の王者・鈴木、過去4度の優勝を誇る田代など合戸を含む5人に絞られた。合戸の渾身のポーズに会場から声が。そして運命の結果発表。1年のブランクを乗り越え4位。復活を高らかに宣言した。実はこの大会で、復活すると決めていた合戸は、トレーニングを中断されない様、病院での精密検査を、まだ受けていなかった。一区切り着いたところで、地元・静岡の病院へ。筋肉・神経の状態を調べる針筋電図検査など2日かけ、徹底的に検査した結果、驚くべき事実が判明した。合戸を襲っていたのは、腕の神経叢が圧迫され、前腕に痺れ・脱力などを引き起こす、胸郭出口症候群というものだった。原因は、筋肉の異常な発達と過度なトレーニングを長年続けたことだが、医師を驚かせたのは今の状態で合戸がトレーニングを続けていること。神経は治るまで通常2年はかかる。わずか1年でここまで動くように戻ったのは、執念としか言いようがないという。しかし更に悪化する可能性もあり、合戸は医師に釘を刺されたが答えは決まっていた。
人生を筋肉にかけた男・合戸孝二。56歳を迎えたボディビル界のレジェンドは、これからも己のからだの限界に挑み続ける。
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