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JNN50周年記念 スペシャルドラマ「天国で君に逢えたら」

9月24日(木) 21:00〜23:04

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原作紹介

『原点を思い出させてくれた一冊』
(文庫本「神様がくれた涙」の解説ページから引用)

 これほど優しさに溢れた小説に、僕はこれまで出逢ったことがありません。
物語の設定上、常に「死」というものに向き合うとてもシリアスなシチュエーションを描いているにもかかわらず、そこで葛藤する登場人物たちを、茶目っ気たっぷりなユーモアを交えながら、とても温かく愛情を持って描いていく――その優しく包み込むような空気感が、僕は堪らなく好きです。
文章の端々に夏樹さんの人生観や人柄がにじみ出ているし、間違いなく、様々な経験をされてきた夏樹さんにしか生み出せない世界だと思います。

夏樹さんの処女作「天国で君に逢えたら」を読んで、いっぺんに夏樹ワールドの大ファンになった僕は、「テンキミ」のその後の物語を心待ちにしていました。
そんなファンの期待に応えて登場した続編が、この「神様がくれた涙」です。「テンキミ」から2年後の世界を描いた今回の作品でも、夏樹さんならではの優しい世界観が存分に展開されていて、前作同様、心温まる素敵な物語が描かれています。

「手紙屋Heaven」の3人のメンバー ―――
患者さんの悩みを聞いてその思いを手紙に代筆する、ちょっと気弱な、でも優しさたっぷりの若き精神科医・野々上純一。
カウンセリングのキャリアも人生経験も純一よりはるかに豊富で頼りになるみずほさん。
小児ガンを患っていながらとても前向きに生きていて、時に大人では思いも寄らない言動で周囲を元気づけてくれる小学生の愛ちゃん。
――― も、そろって健在です。
2年前、右も左もわからず、不安いっぱいで出航した「手紙屋Heaven」号は、「きっと、その年月の分だけ経験を重ね、彼らなりに一歩一歩成長してきたんだろうな」と想像させる姿を見せてくれ、チームワークにも磨きがかかっています。

夏樹さんならではの世界観という意味で言うと、今回物語の中心を担うノブさんには、夏樹さんそのもの、あるいは夏樹さんがそういう男でありたい、と願った理想の姿が投影されているのではないかと感じました。

男気あふれる海の男であること。
普段は明るく、ひたむきで、前向き。でも実は、気弱で繊細で、人の言葉に傷つきやすく、我が儘なところもたくさんあって…、だけどいつも人を励ますことには熱心で、そんな複雑な性格を併せ持つ、不思議な魅力溢れる人であること。
抗ガン剤治療を続けた場合に良くなる可能性は1パーセントだと聞かされても、そのわずかな可能性に希望を持って最期の日まで生きようと戦い続けたこと(その際引用されていた「もし明日、この世の終わりがやってこようとも、私は今日リンゴの木を植えよう」という詩の一節は、本当に素敵な、心に沁みる言葉でした)。
しかし、「1パーセント」という可能性すら実は親友がついた大きなウソで、そのことを知っていながら、最期までその“優しいウソ”に騙されたフリを続けたこと。
そして、死にゆく自分のことより、残される家族のことを常に思いやっていたこと。
etc……

また、ポイントで出てくる登場人物たちにまでも書き手としての愛情が存分に注がれています。
憧れのプロ自転車選手として描かれているビンス・マッカーシーには、同じプロスポーツ選手としての理想の矜持というか、あるべき姿が託されていると思いましたし、ノブさんを命の恩人と慕う銀行員の佐藤さんに至っても、背負っているバックボーンがきちんと構築されていて、それが絶妙なスパイスとなって効いています。また、前作でその後の行く末が心配だった板前の清水さんが途中でやってきて、その後の葛藤と心の成長がとても温かい救いのあるエピソードとして描かれていたのも、「テンキミ」ファンには嬉しい展開でした。
「物語上たとえ少ししか登場しなくても、どんな人にも、その人それぞれの人生があるんだ」そんな夏樹さんの思いがひしひしと伝わってくる描かれ方だと思います。

さらに、「患者の側だけではなく、残される側の人々の心情をも、決して綺麗ごとではなく、とてもリアルに、でもどこか清々しく描いている」点も、夏樹さんの作品の大きな特徴と言えるのではないでしょうか。
全編を通して描かれる親友の二宮先生しかり、最後の手紙にその思いをしたためたノブさんの奥さん・友子さんしかり…。
夏樹さんご自身は患者さんという立場にありながら、これほどまでに相手側の心境を描けるということは、夏樹さんがどれほどご家族や周囲の皆さんの心情に思いを馳せ、思いやりを持って過ごしていたか、ということの表れだと思います。

そんな中、前作と大きく変わったなと感じる部分もありました。それは、「物語の構成」です。
「テンキミ」は、純一と最愛の妻・夏子の出会いと、“手紙屋・Heaven”が誕生するまでのエピソードが物語の前半部分を占め、後半部分に3人の患者さんとのエピソードが、言わばオムニバス形式で描かれていました。

それに対して今回の「神様〜」は、「1パーセントの希望を信じて、病いと闘い続ける伝説のヨットマン・石丸延彦(通称 ノブさん)」のエピソードを大きな縦軸に据えた上で、「手紙屋Heaven」の3人に加え、「ノブさんの親友で日本屈指のガンの名医ながら、自らの無力を嘆く二宮先生」と「不治の病の影に怯え、自分を見失ってしまった天才サッカー少年・雄治くん」のエピソードを実に巧みに絡ませ、大きなうねりの一つの物語として描きこんでいるのです。

“点”だった小説が“線”になったと言うか、それぞれの登場人物のセリフや伏線となるエピソードがとても有機的に紡がれていて、見事な長編小説として結実しています。

しかも、(物語上の時間設定は2年後になっていますが、)実際の執筆時期は、夏樹さんご自身の「余命宣告」を挟んで、前作からわずか6ヵ月後とのこと。
ご自身の体験を元に、「自分は生かされている」と体感し、偶然出逢った執筆活動に生き甲斐を見出し、思いつくままに書き綴ったのが「テンキミ」そしてこの「神様〜」とのことですが、この短期間でこれだけスタイルを進化させて二つの物語を生み出したということに、本当に驚かされました。

「人生、長さじゃあないんだよ」
夏樹さんが、物語の一番最後に二宮先生に呟かせたこのセリフには、夏樹さんの思いがギュウっと凝縮されているのではないかと感じましたが、誰より夏樹さん自身がそのことを実践して、日々濃密に生きたからこそ、これだけの作品を生み出せたのではないかと思います。

このように、夏樹さんの物語の中には心に沁み込んでくる素敵なセリフが本当にたくさん散りばめられていているのですが、前作の中に、夏樹さんが“小説”を書くに思い至ったと思われる、僕が大好きな言葉があります。
「結局自分が死んでからも残るものって、“人に与えたもの”それだけだ。その中でも大事なことは“目に見えないもの”だってことに気がついたんだ」
さり気なく綴られたこの一節には、夏樹さんがご自身の人生を通じてたどり着き、伝えたかった思いが集約されている様に感じられ、胸にズシンと響きました。それと同時に、僕自身の原点ともいうべき昔のある想いを、思い出したのです。

実は僕は高校入学直後、出身中学卒業生が集団結核にかかっているという出来事に巻き込まれたことがあります。卒業生の9割近くが結核に感染しており、発病者も出たため、感染していなかった僕らも含め、1年間の運動停止・部活禁止になってしまいました。
当時の僕は、とにかく部活=バスケットのことしか頭になかったのですが、3年生が引退していよいよ本格的な練習に参加できる矢先に、その大好きなバスケを突然奪われ、僕は人生のドン底に突き落とされた気持ちになりました。
それまで同級生の中心的なポジションにいて、率先して練習していたのに、その輪から引き離されて体育館の外から練習を眺めた時、「自分がいなくても部活はまわっていくんだ」というシビアな現実を突き付けられ、「人生って何なんだろう」と哲学的に思い悩んだのです。
そうして長いこと思い悩んだ結果、「世の中の単なる歯車として一生を終えるのではなく、ちっぽけでもいいから何か自分が生きた証を残したい」という思いに至ったのです。
一方で、そんなドン底の僕を救ってくれたのは、大好きだったテレビドラマでした。「こんな鹿児島の田舎の少年の心を癒して、救ってくれるテレビって凄い」その時、心の底からそう思いました。
そんな体験から、いつしか僕は「いつか自分でテレビドラマを作って、世の中の誰かを癒したり、何かを感じてもらえるような、“思い”を伝える仕事をしたい」という夢を抱くようになったのです。

その後、いくつもの幸運が重なって夢が叶い、現在ドラマのプロデューサーをやらせてもらっているのですが、夏樹さんの小説を読んだ瞬間、忘れかけていたそんな少年時代の熱い想いが、鮮明に蘇りました。
「あの頃の想いを忘れずに、“目に見えない大事なもの”がつまった作品を、気持ちを込めて作っていこう」
そんな大切なことに気付かせてくれたという意味でも、夏樹さんの小説は僕にとって、忘れられない作品になりました。

 僕は夏樹さんの小説に出逢い、“目に見えない”素敵なものをたくさん与えてもらえたことに感謝しています。
「いつかこの世界を映像化することで、より多くの人に同じ想いを伝えられたら」そんな思いを抱かずにはいられない程、心惹かれた作品です。
夏樹さん、本当にありがとうございました。

そして、最後にみなさんにご報告があります。
たくさんの方々の応援のお陰で、「映像化したい」という夢が、ついに実現できることになりました。僕が心から信頼している仲間と一緒に、夏樹さんが生み出した素敵な世界に、精一杯向き合ってみたいと思います。
夏樹さんにも、天国でぜひ見てもらいたいなぁ。

2009年1月
TBSテレビ・ドラマプロデューサー 瀬戸口克陽