コラム|TBSヴィンテージクラシックス:TBSテレビ

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日本最古のテレビ映画『ぽんぽこ物語 』修復版 Paravi(パラビ)初配信記念コラム(3)2022.2.7

テレビ・アナリスト 吉田正和

■私感3【影絵】
山の情景を影絵で表現する演出はとても斬新だ。

国産初のフィルム撮影テレビドラマ。「テレビ映画」という名称からもテレビで映画のようなクオリティーを目指していたであろう。本来ならば山にロケに行って情景撮影をしてきてもいいはずだ。実際、スタジオだけでなくロケに出て撮影しているシーンは多数ある。しかし影絵が使われる。あえて影絵にしたということは明白だ。
テレビ放送と影絵の関係は面白い。放送開始からNHKもNTVもTBSも影絵劇場の編成を行っている。

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(写真:「ぽんぽこ物語」第一話より)

映画はスクリーンに光を投射して映像を映し出す。それに対して「テレビ」は画面の後ろから光を投射している。反射光と直接光の違いがある。影絵も光を当ててシルエットをスクリーンに映すものと後方から光を当てるものがある。後方から光の当たる影絵は「影絵箱」と呼ばれるアイテムも存在する。「影絵箱」は「テレビ」を模してつくられたものなのか、それとも「影絵箱」に構造が似ている「テレビ」のドラマにあえて影絵を用いたのか。

現在の液晶テレビも原理は影絵である。放送創世期の「ブラウン管テレビ」は光の明るさを変更して映像を映している。現在主流の「液晶テレビ」は光の明るさを調整するのではなく、影絵と同じく、光を遮ることによって映像を映している。

現在のカラー映像と影絵の親和性は低い。カラーでなかった当時のテレビ放送はより影絵との親和性が高かったのではないか。影絵はその名前の通り、光と影の芸術だ。濃淡の表現はなく白と黒のみ。それはある意味“0”と“1”だけのデジタルの世界といってもいい。アナログからデジタルへ移行したテレビ放送。その創成期にアナログなのにデジタルともいえる影絵が多用されていたことは何かの回りあわせのようにも感じられる。人々の心に訴えるものは時代が変わっても何も変わっていないのかもしれない。そんなことに思いを馳せるのは単なる個人的な懐古なのか。

光と影の芸術はテレビ創成期から現代まで続くノスタルジーなのか。



■私感4【物語】 につづく

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