1月19日放送
漂う漁師

鹿児島県本土から45キロ南にある種子島。そのすぐ傍に浮かぶ小さな島、馬毛島では米軍の施設移転をともなう自衛隊基地建設が進められている。種子島漁協は漁業補償と引き換えに漁業権の一部放棄と漁業制限に合意。組合員も基地の賛否を口にしなくなった。

能野勇さん(69)は基地建設の作業員を送迎する海上タクシーを請け負う。「魚がとていれば基地に賛成する人はいない…」と、心境は複雑だ。30年以上、トコブシ漁を生業にしてきた。トコブシはアワビに似た貝で島の特産品。しかし、主要な漁場が基地建設で消滅し、水揚量は8割落ちた。それでも能野さんは馬毛島の海に潜り続ける。

江戸時代から種子島の漁師は馬毛島に渡り、特殊な漁労文化を築いてきた。まだ丸木舟だった時代、馬毛島に漁業基地を築き、漁の期間だけ季節移住を行った。トビウオ、キビナゴ、イセエビ、トコブシ。種子島の漁師たちは馬毛島を「宝の島」と呼んだ。

馬毛島の基地建設によって、種子島の漁師たちが受け継いできた自然、文化、歴史が消えつつある。先祖から守ってきた漁場へ思いと基地建設との狭間で葛藤する漁師たちの日々を追った。

製作:MBC
ディレクター:武藤久