報道の魂
ホウタマ日記
2010年08月06日 「ちゃーすが沖縄」番組後記 (佐古忠彦)
政治記者として最初に担当したのが、政権獲りに向かっていた当時の民主党ほか、社民党、共産党、国民新党の野党各党だった。担当になったばかりの頃、民主党議員との間でこんな場面がよくあった。

「佐古さんは、これまでどんなことを取材してきたの?」
「ひとつは沖縄です。沖縄の問題は云々…」
「沖縄かあ…」

で、会話が続かない。特に当時の民主党には、沖縄で話が出来る人が本当に少なかったという印象が、強く残っている。社民党や共産党は熱心に取組んでいるテーマであるし、自民党も当然政権与党であるから、その後担当した防衛省で、石破氏、浜田氏といった防衛大臣をはじめとして、沖縄など安全保障についてよくやり取りした。だから、沖縄と民主党の距離感についての印象は際立っていた。

そんななかで、当時民主党の代表代行だった、菅さんは少し違っていた。2007年に起きた教科書検定問題。沖縄戦での集団強制死に日本軍が関与したとする記述が教科書から削除されたことに抗議する県民大会に、菅さんが出席していた。11万人が集まったとされ、大きな抗議の声を上げた熱のこもった大会だった。大会後、私たち記者団の質問に、菅さんは、半ば興奮気味に、「検定のやり直しが必要。国会決議、(野党が過半数をしめる=当時)参議院においては歴史を捻じ曲げるようなやり方はおかしいという、国会決議も提出することも視野に入れて取組んでいきたい。」と語った。その後、沖縄からは、党本部の菅さんへの陳情が相次いだ。しかし、民主党が決議に動くことは無かった。今思えば、あのときも沖縄は裏切られていた。

今回の番組でも紹介したが、いま総理大臣になった菅さんが、慰霊の日に「この沖縄のご負担がアジア太平洋地域の平和と安定につながってきたことについて、率直にお礼の気持ちも表させていただきたい」と挨拶したことに、金城さんは痛烈に言い放った。「足を踏んでおいて、殴っておいて、相手が怒っているのに、ありがとうねー、なんて言葉が通用するか!」「こんな言葉しか使えない人間がいくら負担軽減と言っても信用できない」と。

これは沖縄のまっとうな感覚だ。そのほかにも相次いだ、民主党議員の無神経な発言などを聞くと、やはり、かつて私が感じた、民主党と沖縄の距離は、あのときと何ら変わっていない、ということに気づく。

その埋まらぬ距離は、この国全体にも通じる。鳩山前総理がよびかけた全国知事会での「応分の負担」も、しらけた反応だけ。結局だれも基地の痛みを共有せず、メディアも日米同盟の危機と煽り立てた。結果、普天間の移設先のパズルと、ぶれ続けた総理の責任論にばかり焦点が当たり、本当の沖縄の思い、問題の本質には程遠い報道ばかりだった。

久しぶりにスタジオからニュースを伝える立場になって、ずっと忸怩たる思いでいた。そして、私がコメントで本質論に近づくと、決まって沖縄以外から批判が来た。一足飛びに「日米安保を否定するのか??」と。

そんな中で、どうしたら「沖縄」を表現できるだろうか…と考えていたとき、総理官邸前に、変わらず「沖縄」の思いを訴え続ける金城さんの姿があった。初めて出会ったのは12年前だが、実は、私にとっては、沖縄と深くかかわって行く原点のような人だった。ここまでどんな思いで沖縄が歴史を背負ってきたか、上げ続ける抗議の声の背景には何があるのか。もう一度この金城さんをみつめることで、「沖縄」を伝えてみようと考えたのだった。

今回、過去の取材テープを改めて見直してみると、当時の訴えと、今の訴えはなんら変わりがないことに愕然とした。大きく伝えられる移設問題の一方で、光が当たらなかった個人の生活に密接する地位協定の問題。金城さんは、そこにこだわっている。その象徴が、弟子になるはずだった鉄平くんの死だった。それはいまも重く金城さんの心に深く刻まれている。

普段は照れ屋の金城さんが、心情を、あそこまで吐露したことは初めてだった。金城さんの闘いは、個人の尊厳を取り戻す闘いでもあるのだ。そのために金城さんは、ヤマトに、そして内なるウチナーにも鋭く問いかける。

形だけの日米合意と社民党の政権離脱、首相交代以降、すべて決着したかのように、普天間基地問題は全くと言っていいほど語られなくなった。民主党は、参院選で沖縄に候補者も立てず、選挙戦を通じて移設について説明することからも逃げた、と批判されている、これはいったい何なのだろう。

国民の生活が第一。自らの言葉を政権政党はもう一度かみ締めるべきではないだろうか。

前述の教科書検定をめぐる県民大会後、菅さんはこうも言っていた。「沖縄について、基地の問題含めて、与党の姿勢は経済的なかたちでフォローするから後は我慢してくれ、という趣旨の行動が多かったが、そういうやり方に対してこの大集会がはっきりとノーといった。私は沖縄県民の気持ちを、全国の皆さんの気持ちと一致させるのは可能だと思う」。

3年前の言葉を、今度こそ行動に移して欲しい。日米は合意したが、沖縄も決めている。今後もしつこく問い続けたい。

佐古忠彦(TBS報道局)
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