報道の魂

2008年10月24日　「63年目の沖縄」取材・編集後記（岩城浩幸）

今年、「報道の魂」では、沖縄戦を検証する番組を3本放送しました。#30「『生きろ…』と知事は言った～島守たちの沖縄戦」（3月16日放送）、#36「あした天気にしておくれ～沖縄戦…知事の目指した道」（9月21日放送）、#37「10･10空襲を知っていますか～」（10月19日放送）。

3本を縦軸で貫いているのは、「島田叡」という人物の存在です。私がその名を知ったのは、25年ほど前のことでした。6月23日、摩文仁で行われた慰霊式の時のこと。式典会場のすぐ裏に、静かなたたずまいの碑があるのが目に入りました。戦没県庁職員の慰霊碑、島守の塔でした。しかもその碑には、知事島田叡の名前が刻まれていたのです。

戦前の知事は、いまのように選挙で選ばれるわけではありません。沖縄の人たちの意志とは関係なく、中央から派遣される官選知事でした。沖縄戦で亡くなったとはいえ、その名前が語り継がれているのはなぜだろうか。沖縄を地上戦に巻き込んだ側の象徴的な一人と位置づけられるどころか、戦没職員の碑に名前を特筆されているのはなぜだろうか。当時の素朴な疑問でした。

島田叡の名前が再び私の前に現れたのは、高校野球を通じてでした。沖縄の高校野球が強くなった背景には兵庫県との関係がある、その背景には島田叡の存在がある…。何人かの指摘が一致した時、私の中でばらばらに存在していたものが一本の糸でつながって、今回の取材に入っていくことになりました。

島田叡を取り上げた作品は、活字、映像ともに少なくありません。それにもかかわらず、あえて島田叡と向き合おうと考えた理由はいくつかあります。四半世紀前の疑問は解けていません。そして、何より島田の最後は誰も確認していません。島田叡本人にインタビューすることはできなくても、そのラストデイズに迫ることで、実像とともに身を挺したメッセージに触れることができるのではないかと思ったのです。

島田叡の人物像の一端は、こんなところにも見られます。大正10年1月6日に行われた旧制一高と三高の野球の試合。島田叡は三高の一番センターで出場し、4打数3安打、4盗塁。延長11回に決勝のホームを踏み、4対3で勝利しました。そこには、常に本塁への「生還」を目指した姿が、浮き彫りになって見えてきます。それは「生きろ」と言った知事・島田叡と、重なって見えます。

「生きろ」と言われた山里和枝さんは、「自決は軍人のやり方。長官（知事）が軍人の方法を取ることなどありえない」と言います。長田紀春さんの証言は、これを裏付けるものでした。「後で会おう」と言って、摩文仁北方の森に向かった島田叡はこう言いたかったのではないでしょうか。「私は県庁解散を宣言した。しかし、私自身は知事を解任されたわけではない。生あるかぎり沖縄県知事であり、県民保護の使命を果たす」。

島田叡は、本塁生還を考え続けて、今も摩文仁付近にいるはずです。それ以上に人々の心に生き続けています。そして、「島田叡」を解明する作業は終わっていません。内務官僚としての島田叡は、沖縄以前の各地に、実に多くのエピソードを残しています。官僚のモラルや資質が問題になることの多い昨今、「官吏の亀鑑」と言われた島田叡が住民目線で生き続けた姿を、更に検証していきたいと思います。

TBS報道局解説委員岩城浩幸

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