報道の魂
ホウタマ日記
2008年09月09日 #35「白雲にのりて君還りませ」編集後記 (石川瑞紀)
白雲にのりて君還りませ−学徒出陣と最後の早慶戦−
(2008年8月17日放送 編集後記)

「最後の早慶戦」から65年。試合に出場した選手で現在もご存命の方は、早稲田2名、慶應3名のみ。(2008年8月現在、番組調べ)しかも、その半数の方の体調がすぐれず、カメラを前にしての取材は叶いませんでした。当時の証言者がわずかとなり、試合中の選手たちのプレーする写真も1枚しか発見されていない中、どうやってあの試合の真実を探り、どのようにして後世に引き継いでいくのか…。関係者も含めて、大きな課題となっていました。

しかし、当時の関係者の周辺をくまなく取材していくと、未だ陽の目を見ていなかった多くの資料や写真、そしてエピソードが浮き彫りとなってきたのです。


■試合を観戦していた浅沼幸一さんが付けていた「スコアブック」と「観戦記」

当時、中学2年生だった野球少年浅沼さんが、試合の夜に書いた観戦記。それを、浅沼さん本人に読んでもらいました。目を閉じるれば、まるで自分が今は無き戸塚球場にタイムスリップしたかのようです。写真でしか見たことのない選手たちが、たちまち動き出した思いでした。 

その浅沼さんのスコアブックですが、試合後60年を経て初めて、選手や当時の関係者の目に触れたものです。公式な試合でないため、正式なデータが残されていなかった「最後の早慶戦」。決して記録が意味を持つ試合ではないとはいうものの、これまでに伝えられてきた試合の記録と多くの点で食い違っていたのは、注目すべきことでした。


■慶応義塾の平井新野球部長の「未発表原稿」

「この早慶戦は出征学生の心情をいたわり励ますため、当時の塾長小泉信三先生が、催された餞別試合であったと語り伝えられている。しかし、これは事実ではない。学生までも戦場にかり出される程、切迫した時局下、対抗試合の如きは厳に許されなかったのである」

当時の應義塾野球部長だった平井新氏が、戦後書いた原稿。これを、平井部長の教え子である慶應義塾の白井厚名誉教授が、保管されていました。これは、慶應義塾の機関紙「三田評論」のために執筆したものでしたが、掲載されないままになっていたものです。

「最後の早慶戦」は、月日が経つにつれ、いくつかのエピソードがドラマチックに演出されて語り告がれています。今も多くの信奉者を持つ当時の慶応義塾塾長小泉信三氏が、「戦場へと赴く学生たちへのはなむけ」として試合を発案し、自ら交渉したという定説もその一つでしょう。

ところが、試合開催に向けて早稲田側と直接交渉に当たった平井部長の未発表原稿は、改めて試合開催の経緯や当時の様子を今に伝えるとともに、これまでと異なる事実も明らかにしています。今回の放送には収容できませんでしたが、この原稿の中には、一方的に破れた試合結果について「試合翌日、小泉塾長が平井部長を激しく叱責した」との興味深い内容も記されていました。


■新たに発掘された写真

VTR編集作業の最終日前日(放送のわずか4日前)に、慶應義塾大学福澤研究センターから届いた4枚の写真がありました。観戦していた慶應の学生のアルバムから、今になって見つかったもので、その中には、選手たちの回顧録等で伝えられていた「試合終了後、学生たちが帽子を振り別れを惜しむシーン」が収められていました。


さて、あの「最後の早慶戦」とは一体なんだったのでしょうか?『一億総戦闘配置に付け』という戦争モードの中で、学生にとっては最後に灯った平和モードの残照』という白井教授の言葉が、心に残っています。

今と変わるはずのない若者たちが、どのように思い、感じて生きていったのでしょうか?

終戦から63年、いまでは、戦争体験者から直接話を聞くことのない若い世代が増えています。戦争体験者との想いを繋げるパイプ役として、歴史的事実を記録にとどめ、いささかでも平和への資となったであろうことを願うばかりです。

「白雲にのりて君還りませ」−学徒出陣と最後の早慶戦−は、CSで放送しているTBSニュースバードで、以下の日程で再放送します。

2008年9月13日(土)14:00、9月28(日)22:00、10月12日(日)22:00

また、同じTBSニュースバードの「ニュースの視点」のコーナーでも、改めて「最後の早慶戦」を特集します。

取材リポーターを務めた曽根純恵キャスターの司会で、10月に教育評論社より出版予定の書籍「1943年晩秋 最後の早慶戦」を執筆した早慶両校の担当者をスタジオに招き、65年を経て判明した事実やエピソード、今回「報道の魂」で放送できなかった関係者のインタビューなどをじっくりとお伝えする予定です。

放送は10月下旬を予定しています。詳しくは、TBSニュース−バードの番組HPをご覧ください。


TBS報道局デジタル編集部 石川瑞紀
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