報道の魂
ホウタマ日記
2008年04月25日 「光市母子殺害事件 〜もうひとつの視点」編集後記 (秋山浩之)
「罪を憎んで人を憎まず」という言葉があります。

罪人のみを憎むのでなく、罪を取り巻く状況全体を見据え社会の教訓とせよ、という意味だと私は解釈しています。

人間は過ちを犯すもの。罪と向き合ってきた人類が、ひとつの知恵としてこの言葉を生んだのだとすれば、ヒトも捨てたものではありません。動物的野蛮さから抜け出た誇りのようなものを感じます。

さて今回取り上げた「光市母子殺害事件」ですが、放送の2日後、被告元少年に死刑の判決が下りました。判決を受けての私の感想を記します。

上記の箴言をもじるなら、今回の判決は「人を憎んで見せしめに」といったところでしょうか。社会が野蛮な方向に逆戻りしたようなイヤーな気分がしました。

これでは北朝鮮やアフガンのタリバンがやっていた“公開処刑”と同じ発想では…と感じました。被害者遺族の雄弁な言葉を支えているのは死刑「見せしめ論」の考えですが、私は共感できませんでした。

多くのひとは北朝鮮やタリバンの公開処刑の実態を知ったとき「なんて野蛮な国」と感じたはずです。恐怖をかざしての秩序維持は、一見平和そうに見えても実は不幸な社会だと感じるからです。少年犯罪者を死刑にして「これで犯罪が防止できる」というのは確かにそうかもしれませんが「そんな社会が幸福かどうか」は別の問題です。死刑にせずに済む知恵の発見を断念してしまった今回の判決に、私はがっかりしました。そしてあのような判決文を書く裁判官の心が恐ろしかった。

ただ、あの判決を導いたのは裁判官個人というより社会そのものです。社会の形成はメディアによるところが大です。真に恐ろしかったのはわが職場、メディアでは…。

バランスを欠いた報道の行き着いた先の問題として、この事件、いましばらくこだわりたいと思っています。

(TBS報道局 秋山浩之)
TBSトップページサイトマップ Copyright(C) 1995-2024, Tokyo Broadcasting System Television, Inc. All Rights Reserved.