報道の魂
ホウタマ日記
2007年12月29日 「ERが拠点 〜最前線で戦う精神科医〜」編集後記 (河賢樹)
寒さが肌をさす冬の夜、病院の一室でカメラマンと視線を合わせる。互いに言葉は発しないが、抱いている思いは同じなのだろう。

「患者さん、運ばれてきませんね…」

当然のように今回、我々もERの現場を踏んだのだが、実は我々が取材を行う日に限って患者が運ばれてこなかった。世の平穏や医師・看護師の負担などを考えると、ここに患者が運ばれてこないほうがいいに決まっている。しかし、全く運ばれてこないと報道することができない。こんなジレンマに悩まされながら取材を進めていたが、気がつけば最初にERに入ってから1年以上が過ぎていた。

放送でも触れたように、現在日本の自殺者数は年間3万人を超えている。自殺する人間の多くが心の問題を抱えていると言われるが、その一方で彼らには、経済や生活上の問題で悩んでいるケースが多い。つまり何が言いたいかというと、心の病が治っても経済・生活上の問題が残ったままでは問題の解決にはならないし、逆の場合でもだめだということ。二つの問題が解決されなければ、前には進まない。実際、取材に応じた山田医師らは、生活苦に悩む患者のために自ら行政の窓口に連絡することもあるという。では、こうしたことを全て現場の医師らがやるべきだろうか。答えはノーである。問題の解決には社会が一丸となって取り組むべきだろう。ここ数年の間で、我々はようやくその事に気がついたのではないだろうか。

記者は現場を踏むことで、書物からは得られない知識と経験を得ることができる。そして、現場から得た知識と経験を社会のために還元していくのは記者の使命でもある。私も今回、現場で得た知識や経験を元に、記者の使命を果たしていきたいと思う。

*この作品は、CS放送TBSニュースバードで、以下の日程で再放送の予定です。
 
2008年1月12日(土)14:00〜
   1月27日(日)22:00〜
   2月10日(日)22:00〜
   2月23日(土)14:00〜


TBS報道局社会部 河 賢樹
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