報道の魂
ホウタマ日記
2006年03月02日 結yui〜大合併の真実〜編集後記 (岩城浩幸)
2月26日放送、「結yui〜大合併の真実」をご覧いただき、ありがとうございました。本編は、3月3日のCSニュースバード『ニュースの視点』で、私自身の解説を交えて、再放送します。また、CSニュースバードでは、3月11日(土)14時、25日(土)14時、4月9日(日)22時に、本編だけの再放送をする予定です。

放送のための最後の取材に向かう時、あらためてこの場所の現実に直面することになりました。ほくほく線のまつだい駅から高柳に向かうのに、雪のない時期なら車で30分かからないのですが、道路が途中で雪に閉ざされ通行止めになっていました。迂回路も同様で、結局、かなりの遠回りをすることになってしまいました。

通ることが出来たのは「国道」です。この道路は、田中角栄元首相がそれまでの県道を国道に昇格させるという荒業を使い、その結果として本編にも取り上げた小岩トンネルの貫通につながったのです。つまりこうした地域では、道路は死活問題であり、効率の面だけで片付けることは出来ません。

過疎が過疎でなくなる日。「廃村」。つまり住民が一人もいなくなってしまう事態に直面しているのに、山里の人たちの表情は暗くありませんでした。そしてそこにあるのは、この国の原風景といえるものばかりでした。

落葉樹と針葉樹が混在する山。そこに降り積もった3メートルを超える雪。今年はいいコメができるぞ、きのこや山菜など山の幸も豊かだぞと語る人々。車で通り過ぎる時にお辞儀をして、見知らぬ私にも「こんにちは、ご苦労さん」と声がかかります。子供の登下校では「下を向かず胸張って歩きなさい」と目配り…。ここには、都市ではすっかり崩壊してしまったコミュニティ、地域社会がしっかりと生きているのです。

その中心にあるのが学校です。複式学級の学校では、上の学年の子供が下の学年の子供の面倒を見ます。昼休みには、全校生徒17人が一緒に遊びます。今話題の、フィンランドのグループ学習にも似た姿がそこにありました。

去年の秋、再び高柳に足を運び始めた動機は、いわゆる平成の大合併で、柏崎市の一部となった高柳がどうなっているのか、合併の功罪は見えるのかということでした。特に人々が心配していたのは除雪の問題でしたが、この冬の記録的な大雪で、実は、問題の所在が隠れてしまった部分があります。

当初、新柏崎市の方針は、高柳の道路は一車線だけ除雪するということでした。ところがこの大雪で国の予算が投入されることになり、これまで通りに2車線の除雪が行われたというのです。

消防、防災無線、行政の有線放送…。実は多くの課題があります。そして合併の一方でつかんだ地域協議会によって、自治を手に入れたといえるのか、それらの答えを出すには、住民自身、まだ時間がかかるといいます。そうした合併の真実を、今後も引き続きお伝えしていきたいと思います。

日本の原風景ともいうべき山里を歩く中で、ひとつだけ結論めいたものが見えつつあります。それは「コストをかけて過疎を維持する」ということです。合併の背景にある考え方の骨格は、中央から見て効率のいい地方ということでしょう。その結果、過疎から廃村へ、そして都市化ばかりが進んでいった時、この国の姿はどうなるのでしょうか。

かつてギリシャの都市国家に生き、アテナイの民主制を作った人々は、休暇は全て都市の外へ出て生活したと聞きました。都市と地方が共生することは可能であり、例があるのです。

この国の政治では、都市と地方が対立するばかりでした。対立から共生へ、そのためにも国の政策の中に「コストをかけて過疎を維持する」という要素を確立してはどうでしょうか。

折りしも地方制度調査会が、「道州制」の導入、つまり都道府県の合併を答申しました。合併の流れは更に進んでいく中で、失ってはならないものを確認する必要性をますます感じています。
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