2018年06月29日放送
#2537「ロヒンギャに迫る危機〜難民キャンプ取材報告」
解説 :フォトジャーナリスト 久保田弘信さん
キャスター:大鋸友紀
【テーマ】
ミャンマーのイスラム教少数民族「ロヒンギャ」が去年8月以降、70万人というかつてない規模で難民として隣国バングラデシュに逃れています。ロヒンギャ難民は不自由な環境での避難生活を強いられていますが、ミャンマーへの帰還は進まず、状況は停滞したままです。難民キャンプが集中するバングラデシュ南東部は6月現在、雨季の真っ只中。大規模な土砂崩れや洪水被害も懸念され、ロヒンギャは新たな危機に直面しています。
【放送後記】
アジア最大の人権侵害と言われる、ロヒンギャ問題。いまだ国籍が認められず、家を焼かれ、虐殺されるという惨状。久保田さんが取材したロヒンギャの現状は、とても民主化が進む国のものとは思えないものでした。私がこのロヒンギャ問題で最も驚いたのは、ミャンマーのリベラルな層でもロヒンギャに対する差別的思想が強いという事です。
軍政が終わり、国民の間ではフェイスブックが急速に普及しているといいます。このロヒンギャ掃討作戦は国際社会からは非難を浴びましたが、仏教徒が大多数を占め、イスラム嫌悪が強い国民からは広く支持されており、フェイスブックではロヒンギャに向けられたヘイトスピーチが後を絶たないそうです。
また、経済発展も目覚ましいミャンマーには、外国企業が次々と進出しています。そのうち300もの企業を送り出しているのが日本です。さらに、日本政府はミャンマーに対する5000億円もの円借款を放棄しています。それだけ経済発展に深く関わっているにもかかわらず、この国際的な大問題に対して無関心でいいはずがありません。この現状を動かすためにも、より多くの人が関心をもち、声をあげることが大きな力になります。特に日本は、大きく関わっている国の一つです。決して他人事ではないということが伝わったらと思います。(大鋸友紀)
2018年06月26日放送
#2536「いま移り住むのはなぜ〜若者のライフスタイルの変化〜」
ゲスト :富山県定住コンシェルジュ 一条るにさん
農家 菅沼祐介さん
キャスター:石川奈津紀
【テーマ】
ここ10年間で都心から地方に移り住む人が増加しており、特に20代〜30代という若い世代が移り住むというケースも数多くなってきているといいます。一体、なぜなのでしょうか。
【放送後記】
「地方への移り住み」。そう聞くと地域おこし協力隊や就職でのUターンを思い出します。
しかし、今回のゲストお二人と話して、実は隠れた魅力が満載だったことに気づかされました。地域の食材でお菓子作りをしたいと、会社員をやめて富山に移り住んだ一条さん。就職活動で得た内定を辞退してまで、山梨で農業に挑戦した菅沼さん。二人とも縁もゆかりもなかった土地です。それでも、今の生活をとても楽しそうにお話してくださいました。
そんな二人に共通していたのは「“地方で”こんなことをしていきたい」という今後への強い希望。働き方が多様化している現代だからこそ、増えた選択肢でもあり、幸いなことに、地方にはそんな若者の「やる気」や「希望」「想い」を後押ししてくれる制度も整ってきています。そして、そんな外から移り住んだ若者の視点こそが、地域に埋もれてしまっている良さに気づき見直すきっかけになるのかもしれません。
(石川奈津紀)
2018年06月23日放送
#2535「ささやかなる追悼 石牟礼道子さんへ〜水俣病と『苦海浄土』〜」
ゲスト :熊本日日新聞社・論説顧問 高峰武さん
解説 :「報道特集」金平茂紀キャスター
キャスター:上野愛奈
【テーマ】
水俣病の患者と家族の苦悩を描いた作品「苦海浄土」などで知られる作家・石牟礼道子さんが今年2月10日に亡くなりました。90歳でした。作品で、言葉をも奪われた患者たちの「声」を表現し、水俣病事件の真実の姿を世に知らしめた石牟礼さん。今も終わらない水俣病について、そして石牟礼さんについて、ささやかな追悼の気持ちを込めてお伝えします。また、2013年に行われた石牟礼さんのインタビューの模様もお送りします。
【放送後記】
水俣病に苦しむ人たちに寄り添い続けた作家・石牟礼道子さんがこの2月に亡くなりました。今回の「ニュースの視点」は、水俣の悲劇を世に問い続けた石牟礼さんの追悼特集でした。原田正純さんが書かれた文庫版『苦海浄土』の解説には、50年以上前、熊本大学の医師として水俣病患者宅を回る原田さんの後ろから、患者の声を聞くべく、ひょこひょこ付いてきた石牟礼さんの姿が紹介されています。原田さんや、社会学者の鶴見和子さんらと共に、水俣病患者に寄り添い、言葉にならない思いを綴ってきたのが石牟礼さんです。石牟礼さんのお仕事は、水俣病の科学的分析ではなく、住民のなかに分け入ること、住民に寄り添うことでした。水俣病に翻弄される水俣の人たちの小さな営みに触れることで浮き彫りになったのは、国家的計画の強行によって生じる人間不在の実態でした。石牟礼さんと長く親交のあった今回のゲスト・熊本日日新聞社・論説顧問の高峰武さんのお話を伺って、人間が淘汰されることへの強い憤りが石牟礼文学の根底にあると、改めて感じました。ご一緒した高峰さんからは、ある日、石牟礼さんが「あわしま堂のお饅頭が食べたい」と言い出し、担当記者があちこち探し回り、ようやく手に入れて帰ってくると、石牟礼さんからは「ご苦労さま」のたった一言で参ったといった石牟礼さんの素顔を感じさせるエピソードも多く伺うことができました。石牟礼さんのそんなお茶目な人柄もまた、人を惹きつけたのだと感じました。(上野愛奈)