拘置所で面会した青年は、一見ごく普通に見えた。
障害者施設で45人を殺傷した植松聖被告は、障害を持つ長男がいるRKB神戸記者に対し、「子供がかわいいのは当然ですが、いつまで生かしておくのですか」と突き付けた。
一方的な憎悪にたじろぎ、「なぜ？」と戸惑いながら、「これが、差別を受けている人々の気持ちなのか」と、神戸記者は初めて理解する。

川崎市のコリアンタウンでは選挙活動を装った差別的言動が繰り広げられ、住民は涙をこらえられない。
排外主義に立ち向かおうとする地元紙の記者さえ、個人攻撃の対象とされていく。

関東大震災で起きた朝鮮人虐殺という、歴史的な事実を否定する動きも出てきている。韓国を不当な貶める雑誌やワイドショーに抗議しようと集まった集会で、在日3世の女性は「いつ殺されるかわからないと覚悟している」と、震える手でマイクを握った。

しかし、この「不寛容＝イントレランス」は、誰の心の中にも潜んでいるのではないか。神戸記者も長男が幼いころ、「障害がなかったらよかったのに」と考えていた。
無声映画の傑作「イントレランス」は、「憎悪と不寛容は、人間愛と慈愛を妨げる」と、100年も前から訴えていた。
パンデミックがさらにイントレランスを広げる中、番組は様々な不寛容を映し出し、問いかける。

復興事業として宮城県の海岸に整備される防潮堤の総延長は、
233.1キロメートル。総事業費は、7000億円を超える。
その巨大な壁は、百数十年先まで人々を津波から守るという。
だが、ある場所では砂浜が失われ、ある場所では港と作業場が壁でさえぎられた。
建物が一軒もない場所に建設された場所もある。
東日本大震災の発生から10年余り。被災地の海岸にはコンクリートの景色が広がっている。
「これが本当に住民が望んだ復興の姿なのか」
過去に例がない規模で整備が進む巨大防潮堤を検証した。

大分県由布市湯布院町 湯平山間の美しい自然と、町のシンボル石畳が旅情を誘い、旅人の心と体を癒す湯治場として愛されてきた。
しかし、去年7月の記録的豪雨で町並みは一変してしまった。
猛烈な雨の影響で中心部を流れる花合野（かごの）川が氾濫し、
川沿いの旅館や住宅が損壊。公衆トイレや共同浴場が流され
避難所に向かっていた4人が乗った車も、濁流にのみこまれてしまい命を失った。復旧作業は長期化の見通しで、町の至るところに水害の爪痕が残っている。
そして、新型コロナウイルスの影響による観光客の大幅な減少。
観光業で生計を立てている人が、多く暮らす湯平温泉は厳しい状況に追い込まれている。
かつては西日本有数の温泉地として、その名を全国に轟かせた湯平温泉はこのまま衰退の一途をたどってしまうのか？
町の存続をかけて、新たな取り組みを模索する老舗旅館や
アートの力で、湯平の復興を目指すアーティストに迫る。

小谷村にたった一軒、茅葺屋根を専門とする屋根屋さんがいる。豪雪に耐え、1度葺き替えたら60年は持つという強い屋根づくりが自慢の「小谷屋根」。その3代目が「とうちゃん」こと松澤朋典さん、茅葺師だ。ドライブ中クマにぶつかり、車が大破。助けたことをきっかけに結婚したという妻・彩子さんとの間に3人の子どもがいて、みんな「とうちゃん」と呼ぶ。
茅葺屋根は、細木を縄で組み上げ、カヤを厚く葺いていくという、昔ながらのやり方を貫いていて、頑丈。カヤ刈りや、材料の準備、屋根上の仕事まで、ほぼ全て手作業のため、手のひらは人間のものとは思えない程、厚くて硬い。その手が作り出す小谷流茅葺屋根のつくり方とこだわりを、佐久市の寺の屋根修理や、神奈川県藤沢市の民家の屋根の葺き替えなどを通して拝見する。
小谷には今でもカヤ場がある。春、地元住民総出で火入れをし、秋にはカヤ刈りをして、カヤ場を維持している。四季の営みと茅葺師の仕事の他、夏はハチの巣を取ったり、冬はどんどん焼きに参加したりと「とうちゃん」としての素顔にも迫る。