BAKUMATSU

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SPECIAL

アニメ最終回記念インタビュー第3弾
サトウ光敏×野崎久美子
勢いとコメディ職人のこだわり詰めた“面白いもん”ができるまで

サトウ光敏×野崎久美子

「BAKUMATSUクライシス」もついに最終回を迎えました!
そこで3回にわたって本作のこだわりを伝えるインタビューを公開中。
最終回となる今回は「BAKUMATSUクライシス」で監督を務めたサトウ光敏さんと、
スタッフとスケジュールをまとめ上げた制作デスクの野崎久美子さんが対談。
制作現場をリードしたふたりによる裏話をたっぷりとお届けします。

—— 「BAKUMATSUクライシス」の制作に、サトウ監督は脚本が完成した段階から参加されたと伺いました。そのため、まずは和田プロデューサーから1期を終えた段階で、2期の方向性をどう考えていたかお聞かせください。

和田:1期では「BAKUMATSU」という世界におけるキャラクターの立ち位置や関係性は描けた手応えがありました。そこで2期では、より各キャラクターにスポットを当てた話にしたり、1期でできあがったペアをあえて崩したエピソードを入れたりしようと、脚本チームの中で考えていました。

サトウ:僕は1期も少し手伝わせていただきましたが(※サトウ監督は1期で8話、12話の演出を担当)、2期で監督をするにあたって改めて第1期を見直しました。そこでタイムトラベル要素のある世界における幕末志士たちの人間ドラマ、大河ドラマを正攻法で描いていると感じたんですけど、それをするには12話という尺だと難しい部分もあって。だから2期では、よりキャラクターを魅力的に見せる方向にシフトしたんでしょうね。

野崎:1期はわりとアクションが得意なスタッフを起用していました。2期にあたり路線変更を受け、よりキャラクターを描くのが得意な方に入っていただこうと思って。キャラクターを見せる作品やコメディタッチの作品はサトウさんに合うと思いましたのでお願いしました。おかげで、キャラクターをより魅力的に見せられたと思います。

サトウ光敏×野崎久美子

—— 参加したあと、サトウさんはどのように演出したのでしょうか?

サトウ:お話の大筋は変えませんが、例えば、1話で黒船が現れますけど、当初のシナリオでは街が破壊されて「ああ街が!」みたいになってその脅威を表現する予定でした。でも視聴者が「BAKUMATSU」で見たいのは破壊される街の様子ではなく、メインキャラクターの顔や活躍のはずじゃないですか。街が破壊されるシーンより、高杉と桂が面白おかしくやっている様子に尺を割いて。そんな風に、全体的に視聴者に喜んでもらえるようなバランスに変更しました。そもそも黒船だって、突き詰めて考えるとあの中に誰か乗っていなきゃおかしいし、撤退する理由も描かないといけない。でもそこを掘り下げるとまた尺を使うので、そこはあっさりと終わらせました。

野崎:そうした監督の考えもあり、1期とは絵コンテの内容が変わりました。1期では全身が入っているヒキの絵で芝居していましたが、2期では顔のアップが多くて。

サトウ:目元のアップとかね。だから2期では足元まで入っているカットは全編通してたぶん数えるくらいです。それは作業時間や作画カロリーの都合もあるけど、より男前なキャラクターたちの表情と声による演技を楽しんでほしかったから。ただアップを多用しつつもほぼ全カット、カメラを動かして飽きさせないような画面作りをしました。

—— 2期から追加された要素もありますよね。1期では次回予告で聞けた高杉の決め台詞「面白いもん見せてやる」が、2期では本編でかなりの回数出てくるとか。

サトウ:そうですね。フリューさんから「それは最終話で言わせたいので、取っておきましょう」と言われたんですけど、「本編で言い続けて最後に言うのがいいんですよ」と押し通させてもらいました。

サトウ光敏×野崎久美子

—— 逆に、1期で人気だったものを踏襲しようとは思わなかったでしょうか? 例えば毎回誰かが落ちる“落下ノルマ”とか。

野崎:その話は制作側でも話題になっていました。「今回は誰がどこから落ちるか」なんて予想をしながら。

サトウ:1期で毎回誰かが落ちていたのが、人気の要素だったので、僕も2期11話で巨城スサノオから高杉を落下させました。また高杉が落ちて「いてて」と言わせるのではなく、刀を使わせて落下を防ぎましたけど。

野崎:1期では、落下した高杉が起き上がるときはコミカルにするよう言われていました。それで毎回飛び上がって起きていたので、妙に元気な印象が生まれたんですよ。

—— そのシュールな面白さ、ギャグなのかマジなのかわからないところも1期の魅力でした。

サトウ:それはそれで面白いのですが、2期でははっきりとコミカルと分かるように描写するようにしました。

—— 確かに頭身を変えたりギャグ顔になったりするおかげで、シリアスパートとのメリハリが付いた印象です。どこまでコミカルにしていいかのバランスには苦労したのでは?

サトウ:そうですね。まず最初にキャラクター原案の方にお願いして「これくらいのデフォルメだったら大丈夫です」という資料を作っていただきました。

野崎:それでも、1期から入っていたスタッフからは「本当にここまでやっていいんですか?」という戸惑いの声もありました。監督が絵コンテで「ここまでOK」という指標を示してくれてからは迷いなく作業できましたけど。

サトウ:とは言え、たまにギャグに振るとどうしてもアホっぽくなっちゃって、「そこまでアホじゃないです」「はい、すみません」なんてやり取りもありつつ。

和田:みんなイケメンキャラクターなので…(笑)

—— 6話で、刻(とき)が止まった世界で高杉が新撰組の面々に相撲のポーズを取らせます。あれくらいはアリなんですね。

和田:あれがギリギリです。

サトウ:あそこはもっとやったほうが面白いと思って、さらにギャグっぽくしていたんですよ。でも止められちゃって……結果的にはちょうど尺も収まってよかったんですけどね。

—— そうしたコミカルな要素のバランス感覚を掴んだのはどの辺りですか?

サトウ:5話あたりからでしょうか。あと、どちらかと言うと僕は女性キャラに思い入れがあるので、霞と雹をいかにかわいく見せられるかにもこだわりました。特に太もものギリギリのラインをいかに見せられるか……11話でバトルした際の着地シーンとか。本当ならパンチラさせたいくらいでしたが、それは駄目なので断念して。

野崎:そればかり言ってましたよね。

サトウ:・・・でも、実は11話でパンツが見えてる絵があって直したんですよ(笑)

和田:原案ゲームには登場しない霞と雹ですが、アニメの中では空気を変えてくれる重要なキャラクターです。イケメンたちが人気なのはもちろんですが、あの2人は女性陣からも、スタッフからも愛されていました。

野崎:私も、霞と雹が活躍する5話は好きです。作画監督さんも「霞と雹が好きだから、どうしてもこの話数をやらせてほしい」と仰っていました。

サトウ:最後に2人が金平糖を食べて「甘~い」と言うカット、抜群にかわいかったよね。

サトウ光敏×野崎久美子

和田:当時、監督が「帝が呼ぶときは『霞、雹』でなく『雹、霞』にしたい」と言ったのを覚えています。「帝は1期で雹とずっと行動を共にしていたから、呼ぶのは雹が先のはずだ」って。

サトウ:え、そんなこと言ってました?(笑)

—— 深い配慮ですね。2期は、そんなサトウさんの色にかなり染まったことがわかりました。

サトウ:でも僕が「こういうのを求められているんだろうな」と考えてやったことを、和田さんや野崎さんに「いやー、違うんですよ」なんて否定されることも多々ありましたよ。イケメン同士がしばらく見つめ合うカットに「見つめ過ぎ」「そういう作品ではない」と言われるとか。

和田:あくまで原案は乙女ゲームなので、男同士の友情まではいいけどそこから一歩踏み込んでそうな表現は違うんですよね。

野崎:あと無理矢理はだけさせるのは「狙いすぎ」と指摘させてもらった記憶があります。

サトウ:でも山崎が床に臥せっているときに少し胸を見せていたのは大丈夫だったりして。そういった機微はとても勉強になりました。

—— ここからは2シリーズの総決算となった終盤について伺います。まず10話で、スサノオ十二将の残る4人が一気に登場する展開には度肝を抜かれました。

サトウ:びっくりですよね。「北斎? 戦闘要員じゃないじゃん」「急に味方になるんだ!」と僕もシナリオを読んで驚きました。

野崎:しかも二代目無限斎を攻撃したら「役目を果たしたぜ」みたいになって潔く去っていくという。

サトウ:全員、ビームみたいなものを出して戦ってね。1話で、宮本武蔵が刀で衝撃波を出していたので、その延長線上で芦屋道満たちにもビームのような衝撃波のようなものを出させました。

サトウ光敏×野崎久美子

—— 個人的には「晴明と芦屋道満が同じ空間にいるのに、特に会話しないんだ」というファンのツッコミが印象的でした。

サトウ:そう感じると思うんですけど、「BAKUMATSU」における晴明はあくまで晴明なので。

—— なるほど。その後の11話で、スサノオ十二将全員が復活してメインキャラクターたちと戦うシーンも興奮しました。

サトウ:当初のシナリオでは、11話で十二将が出る予定はありませんでした。蘭丸に操られた新撰組のモブ隊士たちと戦って、近藤たちが正気に目覚めさせる大チャンバラ劇みたいな内容だったんです。ただモブ隊士大勢と戦うには作画も大変だし、メインキャラ達の強さも分かりずらいと思って、カッティング(※絵コンテに沿って各カットをつなぎ編集する作業)の2日前、ギリギリのタイミングで野崎さんに「十二将を出したいんだけどどうかな?」と相談しました。

野崎:そうでしたね。アフレコ直前だったので声優さんはお呼びできなかったですけど。

サトウ:声がなくても主題歌を流して、味方全員対十二将みたいな構図を最後にやったら盛り上がるかなと。少年向けアニメのラストみたいで。メインキャラ全員活躍できたと思いますし、霞と雹の太ももも入れられたし(笑)。蘭丸の最後もドラマティックにできたし、11話は「やり尽くしたな」と満足できました。

—— その11話から巨城スサノオが変形した巨神スサノオが登場します。このギミックにも驚きました。

サトウ:高杉役の中村さんが「コンテの絵がラフすぎて笑っちゃった」と言っていたやつですね。僕が描いたコンテの絵なんですけどね(笑)

野崎:力が抜けた感じの顔の絵でした。

サトウ光敏×野崎久美子

—— 公式サイトで「一番最後、2代目無限斎が巨人と同化した時のアフレコ時の絵が、シリアスな雰囲気にそぐわないラフさで、一瞬笑い死にそうになって危なかったです」とコメントされていましたね。
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サトウ:巨神もどんな風にするか、色々と紆余曲折があったんですよ。200メートル以上とあまりに巨大過ぎる設定だったので小さくしてもらって。そうしないと、土方と下にいる高杉たちが会話できないじゃないですか。

—— 仰るとおりです。

サトウ:だから「せめて3階建てくらいの高さかな」なんて指定して、プロップデザインの方に3パターンくらいデザインを作ってもらいました。ロボっぽいのとかドリルとか付いてそうなのとか。その中から、満場一致で選んだのが今のデザインです。

—— 最終話ではその巨神スサノオから土方を救い出し、高杉のピンチも桂や松陰との絆によって一件落着。正しき刻の流れになった世界で原案ゲームにつながるエピローグが描かれました。あのラストは当初から構想にあったものですか?

和田:はい。企画の最初から考えていて、そこだけはブレませんでした。ゲームを未プレイの人の中には「なぜ空が光っているんだろう」と思われた方もいるかもしれませんが、そういう方にこそぜひ、ゲームをプレイしてほしいです。

サトウ:あのエピローグのためだけに、霞と雹の町娘風の着物も作ったんですよ。

野崎:さすがに忍装束でミニスカートだと、街中で浮きますからね。

—— そのエピローグ後のエンディングでは1期からのダイジェストが流れました。

野崎:あれも監督が編集直前に思いついたんです。

サトウ:せっかくの最終話なので。編集さんと2人で手間暇かけて作りました。

—— あの1分半に2シーズン分の名シーンがギュッと詰まっていて、とても感動的でした。

サトウ:満足いただけたならよかったです。

和田:最初はワイプ(小窓)で見せようかという話もありましたが、しっかり映像を観て頂くために全画面にしました。その判断は正解でしたね。

—— 最後に「BAKUMATSUクライシス」の制作を振り返っての気持ちをお聞かせください。

野崎:私がこの制作期間を一言で表すなら“勢い”ですね。私は1期から参加しているのでこの1年、サトウさんは2期になってからなので半年ですが、とにかく走り抜けました。その勢いのおかげで面白くなった部分もあるんじゃないでしょうか。

サトウ:高杉がよく「面白いもん」と言いますけど、それは人によって違うじゃないですか。そこが難しいところだといつも思いますが、「BAKUMATSUクライシス」に関しては僕が思う“面白いもん”を全部突っ込めたと思います。今後も、この経験を糧にさらに“面白いもん”を見せていきたいですね。



インタビュー・文:はるのおと



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