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手作りフリップ

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6月29日放送

“トランプ劇場”で実現したNATO防衛費「5%」目標 見え隠れする各国の思惑「今は同盟の結束を優先」

トランプ大統領がNATO加盟国に対し、GDP比5%の防衛費増額を要求。しかし、これは国の財政に影響しかねない莫大なものです。世界は防衛費増額に動き出すのか。そもそも増額は可能なのでしょうか。

■防衛費目標GDP比5%に合意 “トランプ劇場”の首脳会議

NATO首脳会議を描いた風刺画(Cartoon by Tjeerd Royaards/Trouw)を見ると、王様の玉座に書かれたのは「TRUMP」の文字。ウエイターが持つのは、トランプ氏好物のマクドナルドとコーラ。NATO首脳たちが、いかにトランプ氏に気を遣っていたかを示しています。

今回の首脳会議はまさに“トランプ劇場”。

NATOのルッテ事務総長は、トランプ氏に対し「あなたは、何十年もの間、どのアメリカ大統領もできなかったことを成し遂げるでしょう」と持ち上げて見せました。

そして、加盟国はついに、トランプ氏が求めた、防衛費の目標・GDP比5%(2035年まで)で合意したのです。

しかし、この5%という目標は、加盟国の多くにとって財政的に実現が困難です。

NATOはロシアに対抗する軍事同盟ですが、各国の足並みは揃っていません。

ロシアに近いポーランドなどは従来の目標である2%をはるかに超えていますが、地理的に遠いスペインやイタリアは2%すら下回り、大幅な増額には消極的です。

【主なNATO加盟国の防衛費(GDP比)】
フィンランド:2.41%
エストニア:3.43%
ラトビア:3.15%
イギリス:2.33%
ドイツ:2.12%
ポーランド:4.12%
イタリア:1.49%
スペイン:1.28%

スペインのメディアによると、GTP比5%を達成するには年間13兆円以上の予算が必要で、これは国が負担する医療費に匹敵するといいます。

スペインのサンチェス首相は「我が国にとってロシアは差し迫った脅威ではない」と発言していて、今回、免除を求めましたが、これにトランプ氏は激怒し、「貿易交渉で倍のコストを負担させる」と警告しました。

NATO側もトランプ氏の要求を丸呑みしたわけではなく、粘り強い交渉を続けました。

GDP比5%のうち3.5%分を、戦車やミサイルといった純粋な「防衛費」とし、1.5%分は「防衛関連費」とする枠組みを提案し、合意しました。 「防衛関連費」には、道路や港といったインフラ整備や、サイバー対策なども計上でき、範囲を広げて目標を達成しやすくした形です。

■広瀬教授「財源を先送りにしている国もあるのでは」

こうした中、ホワイトハウスは、日本などアジア太平洋地域の同盟国も、防衛費をGDP比5%に引き上げることが可能だとの認識を示しました。

2024年度、GDP比1.6%、8.9兆円の日本がそれを実現すると、予算は約30兆円に膨らみます。これは社会保障費の8割に相当します。

国際社会はこの高いハードルを越えられるのか。

今回のNATOの合意には、「2029年に見直される」という注目すべき一文が盛り込まれました。これはトランプ大統領が任期を終える年(2029年1月)にあたります。

防衛大学校の広瀬佳一教授は、「加盟国の中には、“トランプ後”に目標が下方修正されることを見越して、今は同盟の結束を優先し、財源を先送りにしている国もあるのではないか」と指摘します。

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