インタビュー
演じられた稲彦さんに、どのような印象を持っていますか?
三代続いた造り酒屋の息子で、母親に対してコンプレックスがあって、挫折したらすぐに投げ出してしまう甘い人間なのかな、と思います。
セリフにも出てきますが、母親のように優しくしてくれた芸者さんと心中事件を起こしたり、そういう「母」への憧れがあって、夫婦関係の中にも自分の母親を求めていたんでしょう。
テルに対しても「この人なら自分を分かってくれるかも知れない」と思っていたのに、彼女は自分の詩作に夢中になっていて自分のほうに振り向いてくれない。そうしてだんだんイライラが募ってきて、「分かってくれ分かってくれ」という想いが形に出てしまって、破綻したのではないかと思うんです。そういう時代ですから仕方ないのですが、好きとかキライとかいう感情の前に結婚させられていますから、それも不幸の始まりだったのかも知れないですね。
父という部分では、家族に対する憧れが人一倍あったと思うので、自分の血を分けた娘に対しては、ものすごく愛情を注いだと思います。全般的に、家族への思い入れが強い男性なんだと思いますね。
演じるときに気をつけたことはありますか?
このドラマの中では、一番イヤな人間に映っていると思います。情がないように見えますが、撮影が始まる前に石井プロデューサーに「いやな人にしないで欲しい」と言われました。それでどうするか考えて、この時代を懸命に生きた、その結果が不幸になったかも知れないけれど、その時その時を一生懸命生きた人間だった、その部分を自分に言い聞かせて演じました。
上戸さんとの共演は初めてとのことですが…
夫婦役ですが、役の中ではあまり夫婦関係が良くないので、あまり話さないほうが上戸さんもやりやすいかな、と思っていたのですが、上戸さんから気さくに話しかけて下さるんです。あの明るさとかわいらしさで話しかけられたら、受けないわけにいかなくて、役柄を忘れて日常会話を楽しんでしまいました(笑)。
役の上では辛く当たることが多かったのですが、上戸さんも現場に入ると全く違っていて、外でお話していた時のかわいらしさや明るさがとんで、耐える女性になってくださったので、ぼくもやりやすかったです。
2時間のドラマは、出会ってから2週間くらいで撮影を終えてしまうので打ち解けないまま終わることも多い中、今回の現場はとてもアットホームで温かな現場でした。
テルという女性の生き方には、どのような印象を持っていますか?
芯の強い女性ですね。自分の好きなことをまっとうし、最愛の娘を守る手段は何かと言ったら、どこかで死期も悟っていたんでしょうけれど、命を賭して夫に訴えかけることだったんです。つらい決断ですが、それが出来るというのはやはり強くたくましい女性なんだと思います。
「金子みすゞ」の詩についてはどのような感想をお持ちですか?
子どもの気持ちそのままなんだ、という印象を持っています。ある程度、年をいくと子どもの時の、物事を純粋に感じて震えた心が、いろんなものが蓄積されてきて素直に表現出来なくなってきます。ですから彼女は、素直な心を持ちつつ、さらにそれを表現したいという強い意思を持った女性だったと思うんです。その想いの形が詩になっていて、女性の詩というより、小さいお子さんの書いた詩のような気もしますね。
メッセージをお願いします。
ガラス細工のように繊細でキレイで、そして強くしなやかな上戸彩さんの魅力いっぱいの金子みすゞです。時代や運命にあらがいながら一生懸命生きた人間の魅力がたくさん出ています。是非ご覧ください。