この世界の片隅にノート

Vol.6 広島弁 —

このドラマで広島弁の方言指導を担当しているのが、小豆畑雅一(あずはたまさかず)さんと沖田愛(おきたあい)さん!お2人とも呉市出身の俳優さんです。
ナチュラルな広島弁の日常会話を、どんなふうにして俳優さんたちに覚えてもらっているのか? その辺のコツや現場のエピソードなどを聞きました!

■小豆畑雅一さん

Q:方言指導の内容と、沖田さんとの役割分担を教えてください。
セリフを広島弁にするなどの台本チェックは僕が担当しています。そのセリフを事前に吹き込んで役者さんに聞いてもらいますが、女性パートの吹き込みを沖田さん、男性パートの吹き込みを僕がやっています。現場には2人で行って、役者さんのセリフを確認しながら撮影していくというのが主な流れです。

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Q:台本チェックや吹き込みで意識していることは?
台本は最初に「準備稿」が上がってきて、さまざまな修正や調整を加えて「決定稿」が出来上がります。その2段階で正しい方言にするのが仕事ですが、準備稿の段階では、「この方言を使うとより伝わるのでは?」と思った表現や、広島の人がドラマを見た時に「あ、これ使ってくれてる!」と思うコアな広島弁を提案することもあります。それが決定稿で採用されていると、すごくうれしいですね。
セリフの吹き込みも準備稿と決定稿の2回行っていて、基本的に感情はあまり入れないで、抑揚がわかるくらいの読み方をしています。でも、感情的なシーンやケンカのシーンなんかは、気が付くとつい力が入ってしまっていて(笑)。できるだけ抑えるようにしています。

Q:現場で俳優さんに伝える時のコツはありますか?
例えば「ありがとう」は、広島では“が”を強く発音します。それって「角砂糖」と同じアクセントなんですね。そういう別の単語で例を挙げて説明することはよくあります。「早く」という意味の「はよー」も、“は”にアクセントが来ますが、“よ”に入れる人が意外と多いんですよ。そういう時は「“太郎”と一緒です」と説明したり。
あと、現場で役者さんに話しかけるタイミングはすごく考えますね。撮影前にドライ(カメラなしのリハーサル)が2回あって、役者さんのなかには1回目は感情重視で、2回目で方言を意識される方もいるので、そういう場合は1回目が終わった後に声をかけます。ドライが始まる前に全体のセリフを合わせる方もいます。一人一人違うので、杓子定規ではなく、その人がやりやすいスタイルを見極めることが大事ですね。

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Q:松坂桃李さんとは常に広島弁でお話されてますね?
桃李くんとは、映画『孤狼の血』に続いて2回目なんです。映画の時に「ここをもうちょっと広島弁で言うとどうなりますか?」とか、わりと仕掛けてくるタイプの役者さんで面白いなって思ったんです。ご本人の人柄もあると思いますが、心地よく一緒に居させてくれる役者さんですね。今回もきっちり予習をされて現場に入って、入ったら2人でその日のセリフを一通り合わせるという流れが早くに出来上がりました。相性、いいと思います!
広島弁で「〇〇しとる」は、呉弁だと「〇〇しちょる」って言うんですね。もちろん呉の人が「〇〇しとる」を使っても問題はないんですが、台本が「〇〇しとる」になっていた時に、桃李くんが「ここ、しちょるでいいですか?」って。先に気付かれました(笑)。少しでも呉の人に近づこうとする姿勢が、本当に素晴らしいと思います。

Q:小豆畑さんは出演もされていますよね?
1話で幼いリンを連れていく人買いの男。3話でヤミ市ですずに砂糖を相場の数十倍の値段で売る男。8話は現代シーンで、荷物を運ぶ善良な呉市民。この8話の役は、3話のヤミ市の男の子孫というサブストーリーを自分のなかで勝手に組み立てて楽しみました(笑)。同じ作品に全く違う役で出演するのはすごく面白いし、どの役もその時代やその世界観の人として溶け込むことを心掛けています。ちなみにヒゲも微妙に変えました(笑)。

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Q:なぜ役者をしながら方言指導の仕事を?
広島弁というのは、僕が努力して覚えたものではなく、広島で生まれ育ってきたなかで自然に身に付いたもの。それが仕事になっているわけですから、親や兄弟、近所の人や友達、みんなに感謝です。今回このドラマを通して、あらためてそのことを強く感じて、地元に感謝してるんですよね。で、自分はどうやったらお返しができるだろうかと考えると、やっぱりこのドラマを一生懸命やることだなと。方言指導の立場から良いドラマにしたいと思っていますし、ドラマを通して少しでも広島や呉に貢献したいという気持ちでいます。

■沖田愛さん

Q:方言指導で心掛けていることは?
役者さんに寄り添うことをまず考えています。最初の頃は広島弁に馴染んでいただくために、普段から広島弁でお話したり、重いシーンや感情的なシーンの前はあまり話しかけないようにしたりしました。役者さんによってセリフを確認されたいタイミングや覚え方はさまざまなので、できるだけ合わせるように努力しています。

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Q:すずの「呉」の発音が、最初の頃と変わりましたね?
最初は「呉」の“く”を強く発音していましたが、途中から“れ”を強くする言い方に変えました。一般的に「呉」の発音は“く”にアクセントがありますよね?でも、地元の呉では“れ”にアクセントがあるんです。すずは広島市江波で生まれて呉にお嫁に来たので、途中で土井監督に「どうしましょう?」とご相談したところ、「お嫁に来てしばらく経つから、そろそろ変えよう」ということになって、3話くらいから松本さんに“れ”にアクセントを置いていただくようにお伝えしました。

Q:撮影現場で印象的なことは?
特に印象に残っているのが、4話で径子さんの長男の久夫くんが訪ねて来た時のことです。カメラが回っていないところで、尾野さんが久夫役の大山蓮人くんとずっと一緒にセリフ合わせをしてくださったんです。蓮人くんにとっては初めて来る現場ですし、広島弁のセリフがたくさんあって大変だったと思います。そういうことを考えて、自ら一緒にセリフ合わせをしてくださった尾野さんって、本当にお優しい方だなと思いました。

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Q:ずばり広島の魅力は?
何があっても前を向く熱い魂かなと私は感じています。原爆があって「もう復興は無理だろう」と言われていたなか、今の広島の町を再興することができました。ずっと負け続けていたカープも、優勝するチームになりました。それと、この夏の豪雨災害で私の実家も被災しましたが、母から届いたLINEには「こんな事ぐらいで負けないぞ!」って。地元の友達もみんな大変ななか前を向いているんですよね。そういう姿を見ると、「こっちも負けとられんな。頑張らんといけん」って、本当に思います。

『この世界の片隅に』の広島弁のベースにあるのは、この熱いお2人の、お芝居と故郷への深い愛!
ドラマもラスト1話となりました。一言一言お聞き逃しのないように、じっくり楽しんでくださいね。

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