この世界の片隅にノート

Vol.5 料理 その2 —

戦前から戦後にかけての広島の家庭料理を、素材から調理法、味に至るまで、できるだけ忠実に再現しています。当コーナーVol.2で節約料理をご紹介しましたが、今回は特別な日のご馳走を中心に、時代考証の山田順子先生に解説していただきました!

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第1話。周作とすずの祝言で出された巻き寿司
「お祝いの席の定番と言えば、お寿司ですね。握り寿司を思い浮かべる方が多いかもしれませんが、握り寿司は江戸前。この時代、広島でお寿司と言えば海苔巻きでした。ドラマは広島市江波で海苔の製造業を営む浦野家が持参したという設定でした。海苔はもちろん自家製で、卵、ほうれん草、えびこ(小エビをそぼろにしたもの)、ニンジン、干しシイタケと広島定番の具材を巻いています。私も子どもの頃、一番の好物が巻き寿司でした」

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第4話。径子が息子・久夫のために作った一皿
「久夫が訪ねて来た時は、夕飯のニンジン雑炊が出来上がったところだったので、凝ったものを作る時間も材料もありませんでした。でも、サンがとっておきの牛肉の大和煮缶を出してくれたので、明日の朝食用にととっておいたトマトとキュウリを合わせ、お花の形にきれいに盛り付けました。息子を喜ばせたいという径子の精一杯の愛情の一皿です!」

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第4話。昭和19年11月、北條家の代用食すいとん
「すいとんは今でこそ郷土料理やレトロなイメージで好んで食べられますが、お米が一番だったこの時代、小麦粉を原料にしたすいとんはあくまで代用食でした。だしをとったいりこ(煮干し)も、そのまま具として食べます。味噌汁や煮物のだしのいりこも同様に食べていました。貴重なタンパク源でもあったんですね」

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第5話。昭和20年お正月の北條家のお雑煮とおせち
「お雑煮は、いりこだしで醤油味のおつゆに丸餅。本当はアナゴかブリかカキのどれか一つ、さらにカマボコが入りますが、魚介類が手に入らないためニンジンと春菊で代用しています。おせちは煮しめ、うずら豆、田作り。あとは紅白なます。砂糖は貴重なため、甘さは少な目です。戦時中の精一杯のお正月のお膳です」

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第6話。昭和20年春のお花見弁当
「いつの時代もお花見は年に一度のお楽しみ。北條家は押し寿司と巻き寿司で少し華やかなお花見弁当を作りました。押し寿司にエビをのせるのが広島流です。本来はえびこ(小エビをそぼろにしたもの)ですが、干しエビで代用しています。実は私の母の実家が呉で、そんな母直伝の押し寿司なんですよ。おかずのお重には色とりどりの野菜が入っています。ただ、タケノコは北條家のそばに生えていますし、レンコンは広島名物なので、材料は特別豪華というわけでもありません。また、お弁当を持って行かない人は出店の雑炊やすいとん、ふかし芋なんかを食べていました」

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第7話。昭和20年7月、ジャガイモの握り飯
「防空壕の中で周作たちが食べていたおにぎり。ご飯ではなくて、茹でてすりつぶしたジャガイモに枝豆とトウモロコシを混ぜたものです。見た目は色鮮やかで夏らしいですが、豆やトウモロコシは今のように品種改良が進んでいませんから、あまりおいしくはないですね」

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時代考証家で広島出身の山田順子先生
「広島の味を知っていただきたくて、毎回素材からこだわって、美術さんや助監督さんと相談しながら作っています。いろいろな資料を読んでいると、この時代の庶民はホントたくましいですよ。食料事情がどんどん悪くなっていっても、工夫をし、ささやかな楽しみを見つけ、そうやって生きて、戦争を乗り切ったんです。そういう匂いを少しでも料理を通して感じていただけたらうれしいですね」。
山田先生は毎回、料理シーンに関わらず台本のチェックや美術スタッフとの打ち合わせ、撮影の立ち合いなどをされています。
これまでTBSでは『JIN-仁-』『天皇の料理番』の時代考証、そして現在放送中の『義母と娘のブルース』の古語監修などもされています。

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