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第七一三回('18年9月16日 放送)
「『動く世界』の中で」

ゲスト: 丹羽宇一郎 氏/田中均 氏

御厨

「さあ田中さん。今回の発言について、北方領土を巡りどんな意味があるのでしょうか。そして田中さんはなぜプーチン大統領がこのような発言をしたとご覧になりますか」

田中

「私自身もロシアと領土交渉をやったんですけどね、2年くらいですかね。この方針、すなわち4島の帰属を明確にして平和条約を結ぶっていうのは、もう数十年前からの日本政府の基本方針なんですよね。

で、少なくともこの安倍さんは22回首脳会談をやられてね、その首脳会談をやられる前には必ず言われるわけですよ、北方領土問題を前進させて平和条約に至りたいということを言われて。で、22回やってですね、明らかに今のプーチンが言ったことはドーッと昔に戻っちゃってる。前進どころか明らかな後退なわけですよね。要するに4島の帰属を明確にして平和条約という、真っ向からそれに反するということですね。

なんでこういうことやるのかって言うとね、私はそもそも、今ロシアが北方領土問題についてなんらかの妥協するようなことは難しいということなんじゃないかと思うんですよね。っていうのは、アメリカとの関係が悪くなり中国にダーッと依存しているわけでね。今、中国とロシアの関係っていうのは極めて良いと言われてるんですよね。だからある意味あんまり日本に気を遣う必要もないという意識なのかね。

ただね、私は少なくともね、こういう一種のちゃぶ台返しをやった時に、やっぱり日本は、それじゃあ、そういう事にも関わらず粛々と経済協力ということで良いのかね。やっぱり説明をされる必要はあると思うんですよね、国民に対してね。一体これからの対ロ交渉の方針はどういう事にするんだというね。こんなことをやっても粛々と経済協力をやりますということは、私はよくないと思いますよ。やっぱり言われっぱなしっていうのは良くないと思う」

御厨

「丹羽さんはどう見てらっしゃる」

丹羽

「なぜね、『思いついたように言った』という嘘をおっしゃるのかね。こんなもの、思いつきで発言できることじゃないです。22回も首脳会談、一体何をやって来たんだろう、両首脳は。で、元に戻ったということなんですけども。

私、外から見てましてですね、もう当然の帰結だろうと思うんですよ。元々彼らはね、平和条約の締結後にですね、初めてこの歯舞・色丹、2島の実際の引き渡しをするというようなことは共同宣言で声明で出してるわけでね、1956年ですか。だけど実際問題として、国後・択捉はですね、もう軍事基地を着々と整えてですね。それで日本のですね、国民の墓参とか色々なものについても色んなことを言ってるわけでしてね。最初からですね、こういう結論を、そういう宣言を変える気持ちは全くロシアにはないと、というふうに私は思ってまして。それで個人的な付き合いでですね、プーチンと安倍さんがですね、なんとかこれを乗り切ろうというね、考えが非常に甘いと思うんですね。

それから、日露関係はですね、日露だけ見ててはダメなんで、やっぱりロシアを巡るですね、中国とあれだけ長い国境を接してる国はですね、簡単には上手くいかない。しかしながら、たまたま今は良い方向に進んでると。そうすると日本の位置はですね、プーチンさんにしてもね、それほどの重要性を持たなくなってくる。ということを考えないといけないわけですね。

だから、外交というのはやはりね、その国を相手にするだけではなくて周辺諸国のですね、関係を頭に入れながら対応してく必要があるだろうと。そういう意味で明らかにですね、私はこのロシア問題について外交上のね、やはり戦略と言いますか、ある意味はですね、非常にまずい結果が出てきたんじゃないかと思いますね」

御厨

「今もちょっと出ましたけど、これ田中さん。安倍総理はこれまで22回プーチンさんと会談をして来てそして今回みんなの前でこの発言。こういう状態になったっていうのはどういうふうにご覧になってます」

田中

「私はよくわかりません。だけどね、少なくとも北方領土問題を前へ進めようとして、例えば共同経済活動とか、そういう事をやってるわけですね。だけど、共同経済活動ってのは今に始まったことではない。私が領土交渉してる時もね、それをやってはどうかと。だけどね、大事なのは領土問題を進めなきゃいけないという観点から共同経済活動をやると。そうするとね、ロシアの法律の下でやっても何の意味も無いんですね。ですから、何らかの双方が乗り入れるような法律の下でやってこう、特区とかね。だから恐らく私が思うにはね、日本政府はそういう交渉もされてるんだと思うんですよ。全部ロシアの法律に従ってやりますよっていう事じゃないと思うんですね。

ところが、丹羽さんおっしゃったようにね、ロシアにはたぶんその気がないってことなんでしょうね。日本の法律なりなんなりを認めて領土を前に進めるという状況ではないということなのかもしれないし、それはある意味この数年明らかになってきてるわけですよね。だから、私はね、ロシアが中国に依存しすぎるから日本との関係で日本との関係を前に進めたいという気持ちがたぶん幾分あったんだろうと思うんですが。今はかなりそうではなくなってきてる。

だから、私が大事だと思うのは、やっぱりロシアとの関係の見直しをしなきゃいかんと。少なくとも国民に説明しなきゃいけないと。こういうことまで言われてね。ただこれを何事もなかったように粛々と、次の首脳会談でっていうのはおかしくないですか」

御厨

「そうするとね、この場面、田中さんはどうすべきだったとお考えです」

田中

「少なくともね、今まで話してきた事とは反していますよね、ということを言われるべきだしね。それからその、どうなんでしょう。次の交渉っていうのがどういう形でやられるのかね。通常は外務省の次官レベルの協議を通じて詳細を詰めていくということだし。一方でこの共同経済活動っていうのは、5項目で合意したっていう事なんですよね。これから要するに調査団を送りますっていうことになって、これ粛々とやるんですかっていうことなんですね。外交っていうのはね、公にそう言われたら、それに言い返すっていうプロセスがないといけないんですよ。でないとそれが既成事実として進んでいっちゃうんでね」