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第二六四回 ('09年8月9日放送)
 「政権交代なら」
 〜鳩山政権が、気を付けなければならないこと〜
 ゲスト: 渡部恒三 氏 / 武村正義 氏

― 世論調査では、民主・優勢で…
御厨

「渡部さん、民主への期待が高まっているようですが?」

渡部

「非常にありがたい。この間も選挙区に帰ったら、農家のおばあちゃんが、飛び出してきて『政権交代、政権交代』って言うんです。長い間選挙をやりましたが、初めてですね」

御厨

「そうですか」

渡部

「昔は個人の選挙だった。『あの代議士に橋をかけてもらった』『俺はあの代議士と親戚だ』とか、人間関係の選挙だね」

御厨

「なるほど」

渡部

「それが今回は、党と党の選挙、天下分け目の戦い。自民党政権が居座るか、民主党政権に変わるか。それを国民の皆さんが選ぶということは、素晴らしいことです」

御厨

「期待は民主党に集まってますが、しかし結果を出さないと、その期待もしぼんでしまう。武村さん、民主党が気を付けないといけない事は、何でしょう?」

武村

「やっぱり選挙は、最後まで気を引き締めて。もし政権が出来たら出来たで、一層引き締めて。謙虚に、着実に、一歩一歩スタートして欲しい。私は、話題になっているマニフェストの事が心配なんです」

御厨

「と、言いますと?」

武村

「一気に勢いよく走るよりは、この大きな国には矛盾が沢山ひしめいて、その責任を背負うわけですから、その重さを感じながら、歩みだして欲しいです」

御厨

「民主党に期待されるのは『天下り』を繰り返す官僚をなくす、そして『無駄』をなくす事。そのために、今回の民主党政権の仕組みの目玉は、首相直属の『国家戦略局』と『行政刷新会議』ですが」

武村

「そのようですね」

御厨

「『国家戦略局』は、官民から人材を集め『国家ビジョン』と『予算の骨格』を決める。また『行政刷新会議』は、議員や弁護士、首長らをメンバーとし『ムダや不正』をなくす、ということだそうです」

武村

「なんか名前は凄い名前だと思いますけど、スタッフがまだ明らかになってませんよね」

御厨

「はい」

武村

「小泉さんの時からの『経済財政諮問会議』のようでもなさそうですし、地方の代表を入れるとか、チラッとおっしゃってましたけど、どのクラスの人が入るのか?大臣クラスの人がずらっと並ぶのか?専門家集団が並ぶのか?よく見えてませんから、ちょっと、まだ批評できないですね」

御厨

「渡部さんどうでしょう。上手く機能するようになるんですか?」

渡部

「これはね、戦後65年、ほぼ自民党の一党支配の政治の中で、官僚と与党・自民党が一体になって、しかも知恵はみんな官僚が出す。まぁ極端に言うと、戦後65年の自民党の長期政権は、官僚に自民党の国会議員が使われてきたんですよ」

御厨

「そうですか」

渡部

「私も自民党の時代に政務次官を2度やりましたし、国務大臣4度やりましたから、恥を申し上げるようですけど、官僚に使われたんですよ、大臣も政務次官も」

御厨

「なるほど。それをこれで変えるというわけですね」

渡部

「やっぱり国民を代表する人達が『これからの日本をどうするか』と国家の未来図を描く。素晴らしい事だと思いますよ」

御厨

「大臣が『国家戦略局』の『局長』を務めるという事ですが、政治主導に本当になるのか?財務省の出先機関になってしまうか?ポイントは、やはり人事だという気がするんですが」

武村

「その事を含めて、政治と官僚、行政とのあり方なんですが、一方的に、政治が行政を批判し、否定するのでは、国家は成り立ちません。行政がゼロでは、1日として政権は動きませんから」

御厨

「そうですね」

武村

「勿論、悪い行政官は厳しくとっちめる。天下りのような国民に批判の多き問題は、大胆に改革する。これは率先してやって欲しいと思いますが、どうやって行政を激励し、やる気にさせるか。『多くの公務員、官僚は、やる気を起こすように仕向けなきゃ、民主党政権は進まない』というのが、私の見方なんです」

御厨

「なるほど」

武村

「戦略局にしろ刷新会議にしろ、また特に国会議員が100人内閣に入るのは、イギリスの真似だから、これが悪いとは言いません。今でも数十人は入ってるんだから、それを増やそうという事だから、それは良いんだけど『数じゃないだろう』と」

渡部

「それはその通りです」

武村

「政治家の質じゃないかと。官僚が一目置くような優れた政治家を何人か置けば、官僚は従いますよ。従いたくないような人が、ゾロゾロ入ってくると、違和感ばかりが募ってしまう」

御厨

「なるほど。政治家の質ですね」

武村

「『事務次官会議』も廃止は良いですが、実際に、毎週2回あがってくる、法律とか条約とか予算の分厚い資料をどこでチェックして、判断するのか?」

御厨

「はい」

武村

「大きな問題は、政治が議論して決めたら良いですよ。でも大方の事はやっぱり事務的にキチンと調整しないといけません。だから、廃止しておしまい、というわけにはいかないぞと」

御厨

「その辺のところは、民主党のマニフェストでは見えてこないという事ですね」

渡部

「いや、これは基本的な問題で、35年も昔の話ですが、私が初めて政務次官になった時、エレベーターに乗ろうとしたら、『こっちは大臣の乗るエレベーターだから、あっちに乗ってください』と言われ、見たら『お荷物用』って書いてあった」

御厨

「そうですか」

渡部

「要するに、あの当時は、政務次官なんか役所のものにとっては、お荷物なんですよ。だから大事な問題を事務次官と局長で決める時に、政務次官を入れてくれなかった。今でも実質は『事務次官会議』で閣議の前に決めて、それを大臣が閣議で言うんですから」

御厨

「はい」

渡部

「だから、根本的に役人主導の政治を、民主党政権になったら、国民の皆さんに選ばれた政治家主導の政治にするという事なんです」

御厨

「なるほど」

渡部

「それから誤解が無いように申し上げますが、日本は『三権分立』です。『立法』『司法』『行政』。その行政で働く公務員の方々は大事です。公務員の皆さんがいるから、やっていける。別に我々は役人を苛めるのじゃないですからね」


― もし民主党政権の場合、キーマンは、小沢一郎氏?
御厨

「今度の選挙で、100人の小沢チルドレンが誕生かと言われてますけど、小沢支配が復活するのでは?」

武村

「代表をああいう問題があって引かれた小沢さんも、70歳にダンダン近づいてますから、悪い意味ではなくて、好意を持って、そろそろ引かれたらどうかなと」

御厨

「なるほど」

武村

「この選挙での活躍を見ると、ますます元気で張り切っておられるので、これはこれで小沢さんの本命の舞台だから、頑張っておられるのも分かるのですが、選挙の後、小沢さんが民主党政権なり、民主党の中で、どういう役割を果そうとされているのか」

御厨

「はい」

武村

「あんまり派閥を作って、一大勢力を作って、時の民主党政権をコントロールするなんて事になると、心配ですね」

御厨

「渡部さんは、どういう風に見ておられます?」

渡部

「小沢さんといえば『昨日の敵は、今日の友。昨日の友は、今日の敵』みたいな事を言われてるけど、私はこの40年間、小沢さんの子分にもならず、敵にもならず、全く対等にお付き合いし、しかも、政治行動は、ほぼ同じでしたから」

御厨

「そうですね」

渡部

「小沢さんと、今、2大政党、民主党政権に向けて働けている事を非常に嬉しく思ってます。ただね、性格があるからね」

御厨

「と、言いますと?」

渡部

「かつて経世会の頃でも『演説はナベさんに任せるから』と、言うことは、いかにも私をたててるようだけど、実際のことは、俺がみんな決めてるから、あんまり口だすなって(笑)」

御厨

「そうですか」

渡部

「要するに、小沢くんの得意なのは、根回しだからね。鳩山代表、岡田幹事長、これが民主党の看板。その後ろに、私や小沢さんが、後押ししてあげるという体制は、私は国民の皆さんに必ず理解していただけると思いますし、小沢さんも、最近変わってきた。なかなか素直になってきたよ」