御厨 |
「中曽根さん、こういう解散の告知は、あり得るんでしょうか?」 |
中曽根 |
「あり得ますね。任期が9月10日までですから、その間に解散をしなければならんという、そうすると解散を決まってるんですよね。いつやるかの選択が総理大臣に任せられてる。そういう意味で目を凝らしながら時代の流れ、世論の顔色の変化を見ながら、総理大臣が決めると」 |
御厨 |
「カーティスさんは、麻生さんの動きをどうご覧になりました?」 |
カーティス |
「解散権を持ってるから、タイミングを自分で選べる。でも、タイミングが無いんですよ。どうせ9月10日までにやらなくちゃないし、早くやらないと『麻生降ろし』がどうなるか分からない。それで決めたと思うんだけど〜」 |
御厨 |
「思うんだけど〜」 |
カーティス |
「麻生さんの行動よりも、麻生さんに反対する自民党の人達の行動の分かり難さというか、勇気の無さ。『麻生さんに反対だ』と言いながら、内閣不信任案の時に、麻生さんを支持したでしょ」 |
御厨 |
「そうですね。非常にわかりにくい」 |
カーティス |
「自民党結党以来、一番の困難な時期だというけど、昔もあったんですよ。しかし、その時には『自民党の生き残る本能』が働いたんですよ。色んな意味で、政治家が動いた。今は動かない。動かないで文句ばっかり言っている、そういう感じですね」 |
御厨 |
「中曽根さんから見て、一連の『麻生降ろし』の動き、どうご覧になりますか?」 |
中曽根 |
「今の話のように、言葉はあっても行動が無い。そういう状況では、行動がないと駄目ですね。ですから20人でも30人でもたむろして、実際の行動で見せる。言葉だけじゃ国民が信用しませんね」 |
御厨 |
「そうですね」 |
中曽根 |
「昔も、総裁の考えと逆の方に投票する場合もあった。みんな決心してやるわけですよ。自分が次の選挙で、当選するかしないか、選挙民がどう思ってるか考えながら自分の将来の運命を賭して、自分の行動を決める。大変な決心をして、みんなやった」 |
御厨 |
「そうすると、中曽根さんからご覧になると、今の人達は、決心の度合いが薄いということですね」 |
中曽根 |
「昔よりは行動が伴わない。言葉はあるけれども、行動が不十分だと思いますね」 |
カーティス |
「自民党は、今、パニック状態で、どうしたら良いかも分からなくて、やる事、やる事が、自分たちの人気を落とし、国民の反感を呼ぶようなことばっかりをやってるのを見ていると『呆れる』としか言いようがないですね」 |
中曽根 |
「今のところ後継者が見えないですね。ですから色々集団が出てきたり、議論してたりしてますけど『誰が良いんだ』と、答えが出てない。だから迫力が無い」 |
御厨 |
「ですから『麻生降ろし』も、不発に終わる。どうして自民党は、リーダー不在で、数で固まって動くことが出来なくなったのでしょうか?」 |
中曽根 |
「これは自民党のみならず、今の時代というものが、そういう時代で。昔はやっぱり政治でも、経済でも他のなんでも、皆たむろしたもんですよ。今、たむろしないですね」 |
御厨 |
「交通や通信が便利になった。やっぱり人間が、人間臭く固まる習性がなくなって、合理主義になって、それでテレビでも何でも、物事が早く過ぎ去っていく。そういう時間帯の変化もあって変わってきたんですね」 |
御厨 |
「ということは、自民党だけでなくて、日本の社会そのもののリーダーを選び出す時の素地が変わったということですか。いかがですか、カーティスさん?」 |
カーティス |
「そのとおりだと思うのですが、自民党のリーダーとか、政治家らしい政治家が少なくなったのは、僕は小選挙区制の影響が非常に大きいと思います」 |
御厨 |
「なるほど」 |
カーティス |
「昔の中選挙区制度だったら、自民党内でも3人ぐらい候補者が出て、同じ選挙区で、争いがあった。自分が上手くやらなければ、新人に負ける。そういう緊張感があった」 |
御厨 |
「はい」 |
カーティス |
「でも、小選挙区制になってから、公認されれば、選挙区に、自民党の候補者は、自分一人。公認さえとれば、選挙は大丈夫だろうと、緊張感が全く無くなって、勉強もしない。国民に耳を貸すようなこともしない」 |
御厨 |
「なるほど」 |
カーティス |
「その間に、日本の社会は非常に変わってきて、組織票は動かない。票をまとめる力のある人がその力を失う。今度、自民党が惨敗する可能性が出てきたのは、そういうことじゃないかなと思うんですね」 |