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過去の放送 出演者 時事放談「サロン」 テレビプロデューサーの日々
 
 
第二三八回 ('09年2月1日放送)
  「進む不景気。進まぬ政治」
  〜いい加減にしなさい〜
  ゲスト: 野中広務 氏 / 藤井裕久 氏

― 麻生首相の「施政方針演説」に
御厨

「あまり元気がない演説だったかなと・・・」

野中

「やっぱり元気がなかったというのは、私が思うに、言葉遣いと漢字と熟語に、もの凄く、秘書官をはじめ、施政方針演説の原稿をつくる連中が気を使ったのではないかと。麻生弁が出るんじゃなし、勇ましいラッパが鳴るんじゃなし、今までの失敗を繰り返したくないという周辺の人達の配慮で、結果として、静かな迫力のない施政方針演説になったのではないのかなと思いますね」

御厨

「なるほど」

藤井

「基礎的な理念というのが、あの方はないんですね。付け足しの言葉で、しかも、他人が考えた言葉遣いを使うとか。基礎的理念があればこんなことには、ならないはずですね。定額給付金についても、同じです。基礎的理念が、しっかりしておられれば、何の問題も無く、堂々と話すことができたんじゃないかと思います」

御厨

「そうですね」

藤井

「あるテレビ番組で、自民党の野田毅さんと出た時、彼はこう言いましたよ。『給付金に意味がないというのは承知の上で、連立のコストだ』と。これね、本当に事実上の借金です。それを連立のコストのためにやる、公明党さんを残しておくためにやるというのは、本末転倒も甚だしいと思いますよ。もっとオーソドックスな形で連立の絆を持つなら良いですけどね」

野中

「公明党が、はじめから給付金の話をしたわけじゃないです。生活的弱者に対してのなんらかの処置をしてくれと 言ったのが、段々、段々、打合せをしているうちに、ああいう制限の無い給付金制度になったんであって、なんか『連立のコスト』だとか『公明党に押されてやった』とか、そんなことでは絶対に無いし、この10年間の連立の苦労を忘れ去った人達が、そういう事を言うのであって、あの党がどれだけ自民党のような横暴な党に対して本当に辛抱して、耐えてきてくれたか」

御厨

「なるほど」

野中

「今度の消費税の表現の仕方なども含めて、本当に苦労して整合点を目指してくれておるという事を考えていかなくては。やっぱり麻生さんで、この選挙を迎えるのは困難だと思います。森喜朗元首相だって、いくつかの失敗で結果的には、党大会を早めにやって、次のリーダーを選んで、総選挙をやったんですから」

御厨

「要するに森元首相がモデルで、4月の後に総裁選をやって新しい体制で選挙ということですね。藤井さんどうですか?」

藤井

「第一義的には自民党内の問題ですから、あまり申し上げることはございませんが、野中さんが公明党のことを言われて、僕はあの頃を思い出しました。『自・自』から『自・自・公』にした時、野中さんが、一番の中心の方ですよね」

野中

「いやいやいや(笑)」

藤井

「私たちは、その上で踊らされていたわけですから(笑)」

― 誕生!オバマ大統領
野中

「建国から200年以上を経て、初めて黒人の大統領が出たという事は、アメリカの国の生い立ちから考え、リンカーンの黒人解放の宣言以来、画期的な出来事であったと」

御厨

「そうですね」

野中

「ブッシュ大統領の8年は、戦争に明け暮れ、そして最後は、世界に誇ったアメリカ経済が、根底から崩壊した。その中でオバマ大統領が誕生したことは、アメリカの民主主義が、まさしく健全であったということで、感慨深く見ました」

藤井

「やっぱりブッシュさんは、一国至上主義でしたね。20世紀に戦争で何千万という人の命を奪った反省から、国連、あるいはその前の国際連盟をつくった先輩たちのことを全部壊すような、一国至上主義をやった。それから市場経済原理主義をやった」

御厨

「はい」

藤井

「この2つは、間違いなくオバマさんは直すと思います。ただ心配なのは、オバマさんがイスラエル偏重であること。もう1つは、貿易自由化に対して、壁を高くするんじゃないかという心配です。1929年の後に世界が失敗した理由の1つは、関税を高くした話から始まってます。ですから是非そのあたりを注意してやってもらいたいと希望します」

御厨

「アフガンについてどうお考えでしょう?」

野中

「イラクの次は、アフガンと言われているわけですが、ビンラディンを追いかけて、アフガンにアメリカは最初に手をつけた。しかし、アフガンではとても戦いの仕方が難しいということで、イラクに移って、そして多量破壊兵器をありもしないのに、あるかの如く大儀をつけて、無用な戦争と大変な犠牲者を出したわけで、これが結果的に失敗に終わった」

御厨

「そうですね」

野中

「今回、もう1度アフガンにという事でありますけど、これはやはり、オバマさんもイラクから手を引くのに、手順がいると思うんですね。そういう点でアフガンというのが出てきたのであって、そんなに長期戦になって、また過酷な戦争に突っ込むような事はないのではないかと思います。早く終息への道を図って欲しいなと思います」

御厨

「なるほど。一方で日本国内では本格的な議論の無いままに、ソマリア沖の海賊対策のために、海上自衛隊派遣の準備が、正式に始まりました」

藤井

「これは警備行動であることは間違いないから、まず『保安庁だ』という話になるんですが、とても保安庁に能力がないということも事実だろうと思うんですね。それじゃ『自衛隊か?』ということですが、自衛隊の場合は、シビリアンコントロールを非常に厳格に考えないといけません。吉田茂は、シビリアンコントロール無き自衛隊は駄目だ、と昭和29年から言っています」

御厨

「そうですね」

藤井

「だから、しっかりとけじめを持って行動しないといけない。ところが法律もないままに、海上警備行動でやろうというのでは、なし崩しになるんですね。自衛隊、軍隊というものは、なし崩しを絶対にしちゃいけないというのが戦前の反省だと思うんです。そういう意味から言って、私は、法律を作らないで、海上警備行動でやることは反対です」

野中

「護衛のために自衛隊が出て行くというのは、私は大きな間違いだし、法律を作っても、限定したものでなくてはいけないと思います。こんな事をしていたら、海上警備活動で地球の裏まで行くことになってしまう。今度のこの行動については、慎重にして欲しいし、やっぱり日本の艦船が、非常に危険だというなら、そのために日米安保条約があるんです」

御厨

「なるほど」

野中

「そのために条約を結んで、基地を提供し、今じゃ日本列島で制空権を入れたら、日本の領土の半分は、アメリカの制空権にあるわけです。また、国連の負担金は一番の負担金を支払っています。そういう意味で、こういう時ほど、アメリカに協力を要請できると。無理に、法律を作ったりして自衛隊が出て行く話ではないと思います」