時事放談 トップページ 毎週日曜あさ6:00〜6:45
過去の放送 出演者 時事放談「サロン」 テレビプロデューサーの日々
 
 
第二三七回 ('09年1月25日放送)
  「日本政治に喝」
  〜えらい違いで。比べるなと言われても〜
  ゲスト: 武村正義 氏 / ジェラルド・カーティス 氏

― 誕生!オバマ大統領
御厨

「カーティスさんは、選挙戦の参謀の1人だったと伺っていますが、オバマさんはどんな人ですか?」

カーティス

「オバマさんの魅力は、難しい事を誰が聞いても分るように、非常に分りやすく、正直に丁寧に喋ること。国民に顔を向けて喋る。説得力がある。それでいて、冷静なんですね。今は不況で、戦争を2つもやってるし、パニック状態になりやすいんですが、その中でもオバマさんは、非常にクールで落ち着いている」

御厨

「武村さんは、どこに注目を?」

武村

「彼は、白人と黒人の両親から生まれたし、インドネシアというアジアの一角でも子供時代過ごしている。色んな事を彼は経験してきて、そこから学ぼうというか、そこから彼の新しい考え方が浮かび上がってきているようだ。合衆国は1つだ、と盛んに強調しましたが、今度の演説でもアラブの事を言ったり、貧しい国の事を言ったりしている。世界は1つだと、そういう考えでやってくれるかなぁと期待を持ちます」

御厨

「就任演説なのですが、カーティスさん、どこがポイントでしたか?」

カーティス

「まず、この演説は歴史に残るような名演説ではありません。しかし、特別なキャッチフレーズを使ったりする必要はなかった。黒人が大統領になったのを見るだけでも歴史的にものすごい事だということです。また、大変な時だからとにかく真剣に真面目にやりましょうと。その中で非常に重要だと思ったのは、今、アメリカがこういう風な状況になっているのは、我々みな国民にも責任がある。厳しい選択をしなかった、その失敗のつけが回ってきた、 と言ったこと」

御厨

「なるほど」

カーティス

「もう1つは、小さな政府か、大きな政府かの問題ではなく、政府が適切な仕事をして、機能を果たすかどうかだと言ったこと。この8年間のブッシュ政権では、あまりにもその事をしなかったから、これからやるべき事をやる。それでみんなが責任をとって、やらなければならない、というメッセージが大きかったと思います」

武村

「選挙の時は、Yes We Canとか、Changeとか、盛んにおっしゃって、みんなを引き惹き付ける演説の上手い人だなという見方をしていたんですが、今回はそういう意味では落ち着いた、格調の高い、深みのある演説なんで、あれ?と思いました」

御厨

「そうですね」

武村

「自己犠牲とか、どこかケネディの演説に似ている内容が、強調されていて、共通の目標に向かってアメリカを再生していこうと呼びかけている。また、建国以来のアメリカを振り返って、我々は大きな危機を乗り越えてきた。だから今、目の前にある危機も国民と一緒に乗り越えていけるし、いこう、と呼びかけているなと思いました」

御厨

「黒人の大統領ですが、白人の支持率はどうなのでしょう?」

カーティス

「それも圧倒的に高いですね。今は共和党の人からも支持があります。僕の感じでは、今、アメリカ人の多くは、オバマさんを見るときに顔の色なんか意識しない。彼が大統領になった意義は、黒人がなった意義ではなくて、21世紀にふさわしい問題意識があって、説得力があることだと。彼は、国民に『大変だよ』と言いながら安心感と希望を与える」

御厨

「なるほど」

カーティス

「ですから、どこまで上手くやれるか分りませんけど、白人も黒人も、ヒスパニックもアジア系アメリカ人もみんな応援しているんですね。成功して欲しいと」

武村

「私個人としても、非常に期待しています。アメリカはブッシュ政権の時に、京都議定書をはじめとして、地球温暖化に対しては世界にブレーキをかけてきた。全然前向きじゃなかったですね。そういう意味では、環境問題にアメリカがポジティブになって基本的な姿勢がチェンジすることを期待します」

― 一方、日本では
御厨

「オバマ大統領の演説に、答えが、Yes の施策は継続する。Noの施策は廃止する。公金を預かる我々は説明責任を果たさなければならない、というくだりがあるんですよね」

武村

「なんか日本の政治に、皮肉を言われている感じがしますね(笑)給付金は、国民の圧倒的多数が『No』と言っているのに、全然、逆ですよね」

御厨

「これを麻生さんは、どうしてもやると言っている。カーティスさんはどうご覧になります?」

カーティス

「それは日本にとって、どうしてもやる必要があると思えば、国民を説得することですね。意地でやるならば、これは政治のやるべき事ではない」

御厨

「武村さんは、どうですか?」

武村

「私は貰わないでおこうと思っているんです。金が余ってるからではありません。法律が通って、全国の市町村が配ると言った時に、ほとんどの国民の皆さんがもらわれるのは至極当然で、それは常識的だと思うんです。でも、私は財政の仕事をやらせて頂いた1人として、この国の台所が真っ赤っ赤の火の車で800兆円の借金を背負っていて、そこへまた2兆円の新たな借金をして、国民にバラマクのは、もってのほかだなと」

御厨

「なるほど」

武村

「しかも特別会計で準備金で貯めていてですね。これは借金の返済にまわす金なんですね。それをわざわざ法律改正をして、国民にばらまくのですから、単純な借金よりも、2重に悪いと。そんな性質の悪いものを1人でも貰わんでおこうと思っているんです」

― 自民党へ、民主党へ
カーティス

「遅かれ、早かれ選挙が年内にありますよね。選挙の結果は分りませんけど、大きな大きな変化が起こりうる事は、十分考えられます。要するに55年体制と言われた、自民党がやってきたこの制度そのものが、賞味期限が切れたというか、何か行き詰っている。3年間で3人の総理大臣でしょ。これは何か構造的な変化の結果であると思うんです」

武村

「今、カーティスさんがおっしゃったように大きな事が起こる前夜なのにも関わらず、給付金もそうだけど、消費税をめぐる騒ぎも、変な妥協をして。ガソリン税の一般税源も福田さんがあんなに明快に方針転換をしたのに、今はどうなってるかと言うと、ほとんどを道路に使うんですからね」

御厨

「そうですね」

武村

「自民党に言いたいのは『野党になる覚悟が出来てないぞ』と。野党の間に党を改革して、再出発をする。先進国は皆そうですよね。日本は自民党が万年与党だから、与党でないのは恐ろしい、絶対困るという思いがあるんですね。でも、それじゃ選挙になりませんよね。だから野党になるときは覚悟してなって、勿論、相手を批判しながら自分を磨くと。こういう度胸を、自民党が持ってほしいですね」

カーティス

「あのね、問題は自民党が野党になる心の準備をしてないだけじゃなくてね。要するに、与党でなくなって野党になれば、党が駄目になるという気持ちでしょ。でも野党も、与党が負けるから自分が政権を取るという考えだけだったら、何も国民に希望を与えないと思う。自分たちが政権を取れば、どうやって国民を喜ばせることが出来るか、という事が足りないと思う。自民党に不満があるから、次の選挙で民主党が勝つかもしれない、ということだったら、上手くいかないと思いますね」