コラム

2019年11月24日更新 text by 寺田辰朗

第6回3区に前田、鈴木、福士、高島、上原ら代表経験選手が集結
パナソニック、天満屋、ワコールの3チームが優勝に意欲

内容

大会前日の11月23日に区間エントリーが決定した。2連勝中のパナソニック、前回2位の“マラソンの天満屋”、MGC(マラソングランドチャンピオンシップ。上位2選手が東京五輪マラソン代表に決定)に3人が出場したワコールの3チームが、今年の駅伝クイーンの座に意欲を見せている。
例年より1区に選手が集まり、どのチームも3区までにトップに立ちたい意図が明確になった。その中でも後半の5・6区まで戦力を残せる前述の3チームやヤマダ電機、豊田自動織機、ユニバーサルエンターテインメントなどが優勝争いを展開しそうだ。
各チームの区間配置の狙いとともに、区間毎の見どころを紹介していく。

1区に木村、萩原、一山、渡邊、広中、荘司、萩谷、松崎ら強豪選手が集結

準エース区間は完全に、5区から1区(7.0km)に移った。そのくらい今回の1区には強力な選手が多く起用されている。
2連勝中のパナソニックは、前回3区区間賞の渡邊奈々美(20)を起用。1週間前の日体大長距離競技会3000mでも、渡邊はチームトップの選手だ。「スタートから後れを取らないことを考え、現在一番キレのある選手を1区に置くことにしました」と安養寺俊隆監督。
資生堂は世界陸上5000m代表だった木村友香(25)で、「春先のキレはない」と本人は話すが区間賞候補から外すことはできない。川越学監督は「区間賞を取れなくてもいいから、中盤から集団を引き離してほしい」と要望を出している。木村の動きがレース展開を左右しそうだ。
積水化学は今年2月に3000mの室内日本記録を出した松崎璃子(26)を起用。前回1区の佐藤早也伽(25)が成長して3区に回ったからでもあるが、14年アジア大会5000m代表の底力を再度アピールしたい。
前回3位のダイハツも、「先頭が見える位置で3区の松田瑞生(24)に渡したい」という狙いで、1区に準エースの大森菜月(25)をもってきた。

前回2位の天満屋は谷本観月(24)、同4位のヤマダ電機は清水真帆(24)、同5位のワコールは一山麻緒(22)、同6位の豊田自動織機は萩原歩美(27)、同8位のデンソーは荘司麻衣(25)と、前回と同じ選手を起用した。意外だったのは萩原で、今季の充実ぶりから3区に回ると思われたが、豊田自動織機の長谷川重夫監督は「風が強いと体重の軽い萩原は浮いてしまう」と、起用の理由を説明した。
前回区間2位の荘司も3区に回ると思われていた。10月頭の取材でそう話してくれたデンソーの松元利弘監督は、「新人の小笠原(朱里・19)が急激に力をつけたので3区に起用した」と、戦力の充実が理由であることを明かした
無名選手ながら、プリンセス駅伝5区で区間2位の好走を見せたルートインホテルズの明石伊央(25)が、今大会は1区。どんな走りを見せてくれるか、注目したい選手だ。

JP日本郵政グループの広中璃梨佳(19)とエディオンの萩谷楓(19)の、高卒新人2選手も区間賞候補に名を連ねる。広中は日本選手権5000m3位で、今年1月の全国都道府県対抗女子駅伝1区でも、当時高校生ながら実業団・学生勢を抑えて区間賞を獲得した。萩谷はプリンセス駅伝1区で区間賞。2人とも自分のリズムで突っ走るタイプだけに、今年の1区はルーキーが引っ張る展開になるかもしれない。
2区(3.9km)に名前のある選手を置くことができるチームは限られる。今年は京セラが世界陸上10000m代表だった山ノ内みなみ(26)を起用してきた。戦略的な理由なのか、プリンセス駅伝を欠場した山ノ内の調子が上がらないのか。大塚製薬もリオ五輪マラソン代表だった伊藤舞(35)を起用してきたが、戦略的な理由ではなくチーム内の現在の力関係からの2区起用となった。
2区終了時点で昨年、先頭のパナソニックから2秒差の2位につけていたのがデンソーで、1区の荘司、2区の倉岡奈々(22)と、結果的に昨年と同じ2人になった。
「1・2区を昨年同様トップに近い位置で終え、3区の新人をトップ集団の流れで走らせたい」というのが松元監督の意図するところだ。
積水化学も2区に森智香子(26)と、名前のある選手を配置した。松崎、森の同学年コンビでトップに立つのが狙いだろう。
ネームバリューこそないが、パナソニックの森磨皓(19)も現在、チーム内の評価が急上昇中の選手。1区で渡邊が区間上位でつなげば、その流れを崩さずに3区につなぐだろう。1・2区セットでトップに立つ、という考え方も視野に入れての起用だ。

3区でリードしたい日本郵政、積水化学、第一生命。4区に外国人のいる豊田自動織機、資生堂

3区(10.9km)には文字通り、日本を代表する選手がそろった。コラム[第5回]で紹介したように、天満屋は前田穂南(23)、日本郵政は鈴木亜由子(28)と五輪マラソン代表が走る。ワコールの福士加代子(37)は五輪4大会連続代表のレジェンド的な存在で、16年リオ五輪はマラソン代表だった。パナソニックの堀優花(23)は昨年のアジア大会10000m代表、ダイハツの松田は17年世界陸上10000m代表、第一生命・上原美幸(24)は17年世界陸上とリオ五輪の10000m連続代表。資生堂の高島由香(31)もリオ五輪10000m代表だった。エディオンの石澤ゆかり(31)は18年アジア大会3000m障害に出場した。
ヤマダ電機の筒井咲帆(23)、豊田自動織機の福田有以(24)、積水化学の佐藤、三井住友海上の岡本春美(21)、ユニバーサルの青山瑠衣(30)らも、代表選手に迫る走力を持つ。特にプリンセス駅伝3区区間賞の青山は、今大会でも区間賞候補だ。
パナソニックの堀は競り合う展開より、単独走の方が力を発揮する選手。トップでタスキを受ければ、一昨年、昨年と同様にパナソニックが独走に入る。

優勝狙いを明言しているパナソニックと天満屋、ワコールは5区や6区にも強い選手を残しているが、上記チームはどこも、3区でトップに立ちたいと考えているはずだ。特にダイハツ、日本郵政、第一生命は、後半区間が少し手薄になるだけに、できれば3区でトップに立ちたい。第一生命の上原はプリンセス駅伝5区で、区間2位を38秒も引き離した。久しぶりに“駅伝女”っぷりを見せてくれそうな予感がする。
豊田自動織機の福田は、2年ぶりのクイーンズ駅伝になる。1500mの中学記録保持者で、1500mと5000mの両種目で、小林祐梨子(1500m日本記録保持者)を上回る素材、と長谷川監督が期待する素材だ。昨年5月の米国遠征5000mで15分20秒08と、適用期間前ではあったが世界陸上ドーハ標準記録を上回った。
だが帰国後にホルモンバランスの数値に異常が見つかり、走る練習ができなくなった。ジョグを再開できたのは昨年12月からだ。

しかし、ジョグだけの練習でも今年5月には1500mを4分22秒30で、6月1日には3000mを9分09秒88で走った。6月の日本選手権は1500mで6位に入賞。秋の全日本実業団5000mは日本人トップの3位と復調した。
福田は2年前も3区を走っているし、昨年2月には全日本実業団ハーフマラソンの10kmの部で優勝(32分09秒)しているが、ホルモンの数値に異常が見つかってからは初めての10km以上の距離になる。
完治は難しい病気なので“完全復調”はないのかもしれない。東京五輪も「体調を見ながら狙える状況なら狙う」(長谷川監督)というスタンスになる。そのときどきでできる限りの走りをしていくことが、この病気の選手の宿命でもあり、“最高の走り”でもあるのではないか。福田も注目度の高いクイーンズ駅伝3区で“最高の走り”に挑戦する。
4区(3.6km)は外国人選手の出場が可能な区間。前回区間賞のヘレン・エカラレ(20)を擁する豊田自動織機、メリッサ・ダンカン(29)が加入した資生堂、ナオミ・ムッソーニ(20)が入社したユニバーサルがトップに立つ可能性が高い。デンソーにはゼイトナ・フーサン(20)がいるが、今季はいまひとつの状態。3区の小笠原が踏ん張らないと4区での首位浮上は難しい。
日本人ではパナソニックが、キャプテンの内藤早紀子(25)を自信を持ってこの区間に起用してきた。天満屋の松下菜摘(24)、ヤマダ電機の竹地志帆(29)も力がある。6番目の選手が強いチームは4区以降でも逆転の可能性を持つ。

宮城開催初のアンカー逆転はあるのか?

5区(10.0km)が“つなぎの区間”に変わってきているのは確かだが、5区と6区(6.795km)で勝負に出られるチームが優勝候補でもある。
パナソニックは5区に、2年連続1区区間賞の森田香織(24)を起用してきた。10km区間の実績はないが、スピードではこの区間ナンバーワンだろう。6区は新人の中村優希(19)で、1週間前の日体大長距離3000mで好走している。
天満屋は2〜3年後には「前田とともにチームを引っ張るべき存在」(武冨豊監督)と期待される三宅紗蘭(20)が5区、そして6区にはMGC3位の小原怜(29)を残して来た。アンカー勝負に対応できる布陣だ。
ワコールは5区に初マラソン日本最高記録保持者の安藤友香(25)、6区に前回区間2位の長谷川詩乃(20)を起用。永山忠幸監督は「20回目の指揮をとりますが、今回が一番粒が揃っています。前半で流れをつかめば、後半で勝負できる」と2人に期待する。
ヤマダ電機は石井寿美(24)が5区で、10000mの31分48秒24のタイムは、森田と安藤を上回る。6区は14年、15年の日本選手権10000m優勝者の西原加純(30)だ。西原もホルモン値の異常が出る病気を持ち、2年ぶりのクイーンズ駅伝になる。
6区はヤマダ電機が3年連続区間賞を取っている区間。ヤマダ電機の選手層の厚さが今年も威力を発揮するだろうか。
豊田自動織機は5区がクイーンズ駅伝初出場の川口桃佳(21)だが、9月の全日本実業団陸上10000mB組でトップを取ってから安定した力をつけ、現在は萩原とも遜色ない練習ができるという。そして6区の沼田未知(30)は、マラソンで2時間27分27秒を持つベテランの実力者だ。
ユニバーサルは北海道マラソン優勝の和久夢来(24)の5区起用は予想できたが、篠塚麻衣(26)を6区に残して来たのは意外だった。プリンセス駅伝2区区間2位など、篠塚は今季好調のランナー。アンカー勝負に備えての起用なら、ユニバーサルにも優勝のチャンスがある。
9年ぶりの優勝を狙う天満屋の武冨監督は、「去年よりも上位は激戦」と見ている。アンカーでトップが入れ替われば、08年優勝の豊田自動織機以来11年ぶりだ。宮城県開催となった11年以降では初めてになる。

その一方で2連勝中のパナソニック・安養寺監督は、選手層の厚さに自信を持つ。1週間前の日体大では、「ピークが早く来てしまわないように9分20秒設定で走った」という。それでも6区の中村が9分17秒65で、チーム内5〜6番手が9分20秒台だった。「残り2000mを6分30秒で行ける手応えはあった」(同監督)という内容で、5000mなら7人が「15分台で走れた。チームの総合力はかなり上がった」と自負する。
その状態で過去2年間と同じように1〜3区で先行すれば、例年追い上げられた4区と6区で差を広げられる。今年もパナソニックの独走になる可能性も、否定できない。

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寺田辰朗(てらだ たつお)プロフィール

陸上競技専門のフリーライター。
陸上競技マガジン編集部に12年4カ月勤務後に独立。
専門誌出身の特徴を生かし、陸上競技の詳しい情報を紹介することをライフワークとする。一見、数字の羅列に見えるデータから、その中に潜む人間ドラマを見つけだすことは当代随一。
地道な資料整理など、泥臭い仕事が自身のバックボーンだと言う。選手、指導者たちからの信頼も厚い。
AJPS (日本スポーツプレス協会) 会員。

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