「ドラマのTBS」のご先祖さまです!
ドラマファンにはぜひご覧いただきたいレア番組です!
「月光仮面」より前に同じ川内康範が書き下ろした「元祖超能力ヒーロー」ものです
「天下の美少女」小鳩くるみが、かわいくて強い妹キャラを演じています
少年マガジンの表紙モデルだった栗原眞一少年の美形ぶりも見ものです
次から次にやってくる悪者たちにたぬきの超能力で立ち向かい、謎の仮面の助っ人も登場するはらはらどきどきの楽しい冒険時代劇です
☆日本のドラマで、シリーズ全体が現存するもっとも古い番組が「ぽんぽこ物語」です。
☆ドラマといえばスタジオからの生放送だった時代に、日本の放送界で初めて収録して放送した連続ドラマです。
☆当時はフィルムでの収録でしたので、テレビ用の映画、「テレビ映画」と言われていました。
☆このやり方は当時、すでにアメリカなどでは一般的で、日本のテレビ草創期に人気だった「スーパーマン」(KRテレビ=現TBS)や「アイラブルーシー」(NHK)はアメリカ製の「テレビ映画」でした。
☆「ぽんぽこ物語」は日本の放送史を切り拓いた番組でしたが、1958年(昭和33年)2月の最終回(第73話)以降、フィルムの存在は知られていませんでした。番組も幻の元祖昨作品となっていましたが、60年後の2018年、倉庫の棚卸の際、片隅の段ボール箱から奇跡的に発見されました。
☆「幻の元祖テレビドラマ」のフィルム原盤は、いくつか欠番がありました。また60数年という経年によって、音声フィルムはかなりぼろぼろになっていました。
☆時間をかけて、フィルムの補修をしました。修復不能のものも多かったのですが、なんとか60数年を経て、初めてみなさまに35本をまとめてご覧いただけることになりました。☆それでも73話中の35話で半分ほどなのですが、「ぽんぽこ物語」という歴史的作品のはっちゃけた面白さは十分に感じていただけると思います。
飛んでいる回につきましては詳細な全話リストをつくりましたので、ご参照ください。
「ぽんぽこ物語」全話リスト(PDF:544KB)
出演者ぽん子(初夢姫): 小鳩くるみ
ぽん吉(松木源之助):栗原眞一
鶴のおばさん:若水ヤエ子
黒野八回:里井茂
土佐精助:久野四郎
魚徳:大塚周夫
お政:宇野良子
大殿:浜口庫之助
奥方:若原春江
弓矢折太郎:根本嘉也
道田角兵衛:坂本由英
狐和尚:小林重四郎
六馬新左エ門:佐藤一郎
弱井剣之助:鈴村一郎
スタッフ企画:大垣三郎(KRテレビ=現TBS)
原作:宮崎博史
脚本:川内康範
音楽:小川寛興
撮影:古山三郎(東京テレビ映画=現TBSスパークル)
監督:真弓典正
あらすじぽんぽこ山の森の中。子ダヌキの兄妹ぽん吉(栗原眞一)、ぽん子(小鳩くるみ)はよい子で心やさしいご褒美に人間に生まれ変わります。神さまの使い「鶴のおばさん」(若水ヤエ子)は「お話の都合上」、二人を別々の場所に運びます。ぽん子はお姫さまに生まれ変わりました。陸奥、白妙城の跡取り娘「初夢姫」です。ぽん吉(栗原眞一)は江戸の貧乏浪人、弓矢折太郎(根元嘉也)の子です。ぽん吉が生まれる時に母は死んでしまいました。気を落とした弓矢は貧しさのあまりぽん吉を捨ててしまいます。ぽん吉は人の善い魚屋に拾われました。魚徳夫婦(大塚周夫、宇野良子)はぽん吉を自分の子として育てます。それから七年。ぽん子ぽん吉は素直に成長しました。ぽん子は心優しいと城下でも慕われています。ぽん吉は育ての親を助け「感心な孝行息子」と評判です。魚屋は大繁盛となりますが、それを妬む人たちがいました。魚徳夫婦が危ない目に遭うとぽん吉はたぬきの秘術を使い、二人を救います。さらに数年たちました。姫は江戸にいる兄ぽん吉のことを思います。江戸は遠く、白妙城から80里。兄に会いたい一心が募りますが、江戸に行くこともできません。姫は病に伏せてしまいます。一方、江戸のぽん吉は、ある時、弓矢折太郎が決闘を挑まれる場面に出くわします。その腕前を見て、ぽん吉は弟子入りを願います。弓矢が実の父であるとも知らず。一方、弓矢は身の上話を聞き、ぽん吉が捨てた息子であると勘づきます。一方、姫は病が癒えません。行者は「江戸にいけば病は治る」と告げました。大殿(浜口庫之助)と奥方(若原春江)は江戸行きを認めます。姫は町娘に姿を変え、お伴を連れ旅に出ます。八回(里井茂)、精助(久野四郎)はあわて者の二人です。一方、ぽん吉ある時、幕臣の娘を助けたことがきっかけで、松木家の養子「源之助」となりました。時は幕末。幕府は東北諸藩が結ばぬよう密書を白妙城に送ることにしました。その密命が源之助に託されました。姫は陸奥から江戸へ。ぽん吉は江戸から陸奥へ。姫の行く手には山賊、人さらいが現れます。ぽん吉の密書を狙って悪党が後を追います。二人に襲いかかる危機の数々。ぽん子は機転によって、ぽん吉は弓矢直伝の剣術で立ち向かいます。それでも絶体絶命の危機が。突然、謎の鬼面菩薩が現れます。
果たして、二人は再会を果たすことができるのでしょうか。
予告編はこちら
※ 一部端末では動画がうまく再生できない場合がございます
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■「ぽんぽこ物語」の奇跡の物語のこと〜ご覧くださいます皆様へ
「ぽんぽこ物語 ―”テレビの原点” 秘蔵フィルム復刻レストア特別配信セレクション―」
本配信には長いサブタイトルがつきました。その意味を少しだけお話させてください。
☆テレビの原点
「ぽんぽこ物語」は“テレビの原点” です。TBSがまだ「ラジオ東京テレビ」といっていた昭和32年、初めて開発された収録の連続テレビドラマです。その頃のTVドラマはスタジオからの生中継でした。まだビデオが実用化していませんでした。ロケでのびのびと収録し、巧みに編集し、構成し、さまざまな効果を施すという現代のようなドラマは日本の放送では手の届かないものでした。アメリカの「テレビ映画」が日本の生ドラマとは質とおもしろさで圧倒していました。「スーパーマン」「アイラブルーシー」といった人気の外国ドラマは、映画と同じようにフィルムを使ってテレビ用に製作するため「テレビ映画」と呼ばれました。そんな中で放送の未来のために、放送界ではじめてラジオ東京テレビ(現TBS)が国産のテレビ映画づくりに挑んだ作品が本作です。「日本沈没」のような現代のドラマの原点がここにあります。
☆「ドラマのTBS」のDNA
TBSといえばドラマ、「ドラマのTBS」といわれますが、そんな評判はいつ、どのようにして生まれていったのでしょうか。
かつて「課長サンの厄年」(93年)など「日曜劇場」の大ヒットドラマを創った市川哲夫さん(1949年生まれ。元中央大学特任教授)がこんなふうに説明しています。
(放送ライブラリー公開セミナー 「ぽんぽこ物語」に見るTBS ドラマのDNA2020.12.19)
……1955年、TBS の前身のラジオ東京が「ラジオ東京テレビ」としてテレビ放送を開始しました。テレビではNHK、NTVについで第三番目のテレビ局として放送を開始したのです。
これがTBS がドラマをひとつの看板とする理由となるのですが、先行しているNHK と日本テレビが放送のおいしいところを先にやっているのですね。例えば力道山のプロレスとか、ジャイアンツの後楽園球場のナイターとか、キラーコンテンツは日本テレビにもっていかれていたわけです。それでTBS は一計を案じまして、民間放送として安定して放送を継続していくためにどうしたらいいのかという時に、テレビドラマを一生懸命つくるのが社業に安定するのではないかと。これは経営戦略で明確に打ち出したわけです。そのことによって他局に比べてドラマに力を注ぐテレビ局がTBS だったのですね。
テレビ草創期の歴史に詳しい元フジテレビの能村庸一さん(1941年生まれ)はこう記しています。
……1956年、テレビはいまだ「電気紙芝居」の域を出ない。NTVのプロレス中継に客が群がっている。大宅壮一の「テレビによる一億総白痴化論」が国民に共感をもってうけとめられていた。そんな中でラジオ東京テレビ(TBS)の今道潤三編成局長(後の社長)が「格調ある番組の実現」が焦眉の急だとして、本格的なドラマによってプレステージを高める方針を決めた。(「実録テレビ時代劇史」p30)
そして、「一億総白痴化論」の一か月後、
……12月(1956年)「東芝日曜劇場」がラジオ東京テレビのドラマの中核としてはじまった。
その後、芸術祭参加ドラマの連続受賞があり、「ドラマのTBS」は世間に受け入れられていった。(「テレビの青春 今野勉」p61)
テレビマンユニオンの名プロデューサー今野勉さんは「ドラマのTBS」という評判の誕生をテレビ蔑視の時代に、他局との明確な差別化戦略をとったTBSの方針によって生み出されていたものとしています。「日曜劇場」は生のスタジオドラマでしたが、TBSはその翌年、日本ではじめてフィルムによるドラマ創りに挑戦することを会社として決定しました。
それが今回の配信の「ぽんぽこ物語」です。収録ドラマの歴史はここから始まりました。
こうしたドラマ制作への取り組みが現在に続く「ドラマのTBS」をつくっていきました。
そして、「ドラマのTBS」に若者たちが憧れを抱くようになります。さきほどの市川哲夫さんのドラマ志望の弁です。
……1971年にTBSの「冬の雲」というドラマを見て、ぜひドラマをつくりたい、それも
TBS でつくりたいと思って1974年に入社しました。古い人たちの仕事、先輩たちの仕事に目を向けなければいけないと常々考えてきました。30 年間、つくってきましたけれど先輩たち、すぐれた先達たちとお仕事をする機会があり、まあ知らず知らずのうちにTBS ドラマの伝統を体得してきました…
市川さんは「ドラマのTBS」に惹かれ入社し、先輩たちとの仕事の中で「ドラマのTBS」のDNAを受け継いでいきます。先人たちが積み重ね、後輩たちが受け継ぎ、ドラマづくりの、TBSならではの味を秘伝のタレのように継ぎ足してきたのが現在にいたるTBSドラマの歴史です。
「ぽんぽこ物語」から受け継がれてきた秘伝の味はなんでしょうか。そのひとつは死に物狂いの制作と、徹底した面白さの追求です。「当時、不可能といわれていた連続ドラマでした。しかも時代劇です。人も物もない。ないない尽くしのなかで、死に物狂いで面白いものをとつくりました。」(古郷正男 TBS社報 1980)
当時の制作者の証言が残っています。こういった制作者魂は現在の制作者たちに確実に受け継がれています。
2020年、「半沢直樹」で32.7%の視聴率をとった福澤克維ディレクターは「面白くしたいという思い。僕がやるからには絶対に面白いものにしますよ」(スポーツニッポン 2020.12.21)と語っています。
☆秘蔵フィルム
放送の歴史を切り開いた本作は、1957年11月11日から1958年2月22日まで全73話が
放送されました。視聴率は16%を超えた記録が残り(電通調査)、「子どもたちに人気がありました」(宮坂栄一,1926- 95歳,「漫画ぽんぽこ物語」漫画家)という回想(2020年、TBSヴィンテージクラシックスのインタビュー)があります。しかし、まだテレビは契約者が50万件ほどの時代で「ぽんぽこ物語」を実際に見ることができた人は限られていましたし、その後、1959年の皇太子御成婚をきっかけにテレビが一般に普及し、様々なテレビ番組が花盛りとなると「ぽんぽこ物語」は忘れ去られていきました。
番組は再放送されることはなく、原盤フィルムは制作した東京テレビ映画社(現TBSスパークル)の倉庫の片隅で段ボール箱に詰め込まれ眠り続けることになりました。世間的には「幻の第一号作品」と目され、フィルムが残っていることさえ、知る者もいなくなっていました。
☆復刻レストア
2018年11月、放送から60年を経て、フィルムが奇跡的に発掘されました。制作した会社が倉庫の棚卸しをしている過程で「ぽんぽこ山」と書かれたフィルムが多数、出てきました。
ブリキのフィルム缶からはつーんと酢酸のにおいが立ち込め、フィルムは60年を経てかなり腐敗が進んでいました。残っていたのは全73話のうち、68話でした。中身を確認しますと「ぽんぽこ物語」のタイトルがあり、まぎれもなく歴史を創ったパイオニア作品そのものでした。
フィルムは映像と音声とそれぞれ別でした。映像フィルムは概して状態がよかったのですが、音声フィルムはボロボロで、なんとか再生が可能なのは52本でした。それから一年間かけて、ゆがみ、しわくちゃになったフィルムをなんとか広げ、めちゃくちゃの音声を音効職人が手作業で直していきました。こうして復刻とレストアを進めました。
この修復を進めた西村寿生さん(TBSスパークル)の証言です。
……フィルムがカチカチに固まってくっついたりするんですね。酸化が激しいと酸が出てくるわけで、それが乾いてくると固まってしまうのです。それを引き剥がさなきゃいけないんですが無理に引き剥がすとあの映像が「転写」っていうか前のフィルムの所に付いてっちゃうから結果的にあのそのボロボロになってしまいます。それを引き剥がすのに「スプライサー」っていう形のもので空気入れながら何回も巻き取り、巻き直し、巻き取り、巻き直しを延々とずーっと何十回もやってとりあえず空気、酸のあのいわゆる粘っこいのがちょっとついてるのを全部取っていくと。それを1巻1巻やって、50年何巻かを全部やって、とりあえずそのやってる間に引っ張ると切れちゃうのを切れそうなのは全部その「スプライサー」というそのテープを止める機械なんですけどそれで止めていくという作業ですね。だからワンカットワンカット止めるっていう回もありました。
(放送ライブラリー公開セミナー 「ぽんぽこ物語」に見るTBS ドラマのDNA第二回 2021.1.16)
☆特別配信セレクション
かちかちに固まっていたり、ぼろぼろになっていたフィルムなど古代の遺跡のような作品です。それをなんとかみなさんにご覧いただけるところまで蘇生させることができましたのは今回の35話です。60数年前の放送から、本邦初配信となる35話のセレクションです。お話が飛び飛びになってしまいますことは大変残念でありますが、お話とお話の間のあらすじをなるべくわかりやすいように書きました。
なお、35話は、67話と72話をお話のおしまいがわかりやすいように編集し、「特別ディレクターズカット完結編」としたものです。
◎本作品は日本が元気に復興していく時代の元気さとテレビが生まれたての勢いに満ちた番組です。月光仮面をはじめ「正義の味方」の作家として有名な川内康範(1920-2006)が江戸下町の人情や親子、兄妹の愛情、謎の仮面やちゃんばら時代劇の醍醐味を盛り込んだ作品です。当時、当時、「少女スタア」として人気絶頂だった小鳩くるみ(1948―)が愛くるしい演技と天才といわれた歌唱を披露しています。兄ぽん吉役は原節子とも共演し、少年マガジンの表紙モデルにもなった美形少年、栗原眞一(1949―)が演じています。二人を支えるのは後に「ねずみ男」のキャラクターで有名になる大塚周夫や、「女エノケン」といわれた人気コメディエンヌ、若水ヤエ子など実力者たちです。明るくたのしい愉快な冒険時代劇をどうぞお楽しみください。
TBSヴィンテージクラシックス 発掘プロデューサー 小島英人