このほどTBSホールディングスは、三島由紀夫原作の幻のオペラ「あやめ」の初演録音テープの音源を55年ぶりに発見いたしました。テープは幅6ミリ直径10インチのオープンリール用で、劣化なく保存されていました。TBSのプロデューサーが、1960年にこのオペラを制作したCBC中部日本放送に問い合わせをする中でCBCラジオ社内にあったデータ未登録のテープ群の中から発見、確認したものです。
オペラは、バリトンの友竹正則、立川澄人、ソプラノの池田弘子といった一流独唱者たちが三島らしい妖艶な愛の世界を歌いあげています。演奏には女性能楽師平井澄子の琴や笛、鼓が加わり、時代設定された平安末の中世王朝を感じさせる響きとなっています。オペラの原作は、三島由紀夫が終戦直後に発表した「菖蒲前(あやめのまへ)」(注)で、三島自身が戯曲化した戯曲「あやめ」をもとに、当時の中部日本放送が昭和35年(1960年)にラジオオペラ化し、録音・放送したものです。 この発見について三島由紀夫文学館の山中剛史研究員は、「三島文学の埋もれていた一面を改めて照らし出す快挙」と話しています。またCBCラジオ 升家誠司社長は、「放送は一会一期が前提です。それが甦るのは当時の制作者達の『熱』が55年の時を経てもいまだに冷めていないことの表れだと思います。」とコメントしています。
このテープは、TBSホールディングスが埋もれた文化遺産を発掘確認するヘリテージ事業を進める中で幻のオペラ「あやめ」の録音テープのコピーを発見し、制作したCBC中部日本放送に連絡し調査を依頼していました。なお、この音源は12月16日に日本コロムビアから発売される「戦後作曲家発掘集成〜TBS VINTAGE J CLASSICS〜」に収録されます。
注)「菖蒲前(あやめのまへ)」は、三島由紀夫が終戦二ヵ月後、雑誌「現代」に短編小説として発表しました。当時まだ20歳で東京帝国大学法学部在学中だった三島が戦後に書いた初めての小説です。三島の処女作は戦前の昭和16年(三島16歳)に発表した「花ざかりの森」ですが、「菖蒲前」は、戦後を生きていく出発点となった小説と位置づけられています。
※ 一部端末では動画がうまく再生できない場合がございます