8月4日開幕

世界陸上で生まれた世界記録27

100mフライング失格から立ち直ったボルトが最終種目で期待通りの世界新、3走ブレイクも快走し2位に大会史上最大差

テグ大会は“ボルト・テーブル”と言われる競技日程が初めて実施された。
トラック最終種目は男子4×400mリレーと何10年もの間慣例だったが、それが男子4×100mリレーに変更され、ジャマイカが37秒04の世界新記録で優勝。まさかの100mフライング失格から立ち直ったアンカーのボルトが、期待に応えて大会のトリを飾った。

“超人ボルト”も人の子だった。
2連勝がかかった大会2日目の男子100m決勝で、スタートの号砲が鳴る前に飛び出してしまった。「なんてことだ。こんなイージーなミスで…」と、スタンドの壁を叩きながらトラックを去った。
前年の2010年から国際陸連がルールを変更し、従来の“2回目にフライングを犯した選手が失格”から、“フライングは一発失格”になった。屋外の世界大会ではテグ大会で初めて適用され、よりによって陸上界最大のスーパースターが失格してしまったのだ。

ボルトはかなり落ち込んだというが、5日後の200mには元気な姿を見せた。翌日の決勝に19秒40の自己3番目のタイム(当時)で優勝。「フライングは、スタートへの不安を解消できないまま世界陸上に臨んでしまったからだ」と、前回ベルリン大会との違いを反省する。
そしてアンカーとして登場した最終日の4×100mリレーで、世界記録に挑戦した。

ジャマイカはN.カーター(自己記録9秒78=世界歴代6位)、M.フレーター(9秒88)、Y.ブレイク(9秒89)、そしてボルト(9秒58=世界記録)の走順で、前世界記録(9秒72)保持者のA.パウエルを欠いても超豪華メンバーだった。
3走までにライバルのアメリカを1~2mリード。特に3走のブレイクが、ボルト不在とはいえ100mを制した実力を見せつけた。さらにアメリカの3走のD.パットンがバトンパスの直前に転倒し、勝負はあっけなくついた。

ボルトはホームストレートを、2位を10m以上引き離して独走。「世界記録を出せるかもしれないから頑張ったよ」。スタンドの観衆と、テレビを通じて観戦した世界中の期待に応え、ボルトは37秒04の世界新記録でテグ大会の最後を飾った。
2位フランスに1.16秒の差をつけたが、これは4×100mリレーでは世界陸上史上最大で、五輪を含めても2番目の大差だった。

この世界記録はボルトの超人ぶりと同時に、21歳のブレイクの存在を全世界に示すことになった。ブレイクはその年9月に200mで19秒26、翌12年に100mで9秒69と、ともに世界歴代2位に記録を伸ばす選手。ボルトのライバルに成長した。
ボルト&ブレイクの強力ツートップとなったジャマイカは、12年ロンドン五輪で36秒84という驚異的な世界記録を樹立する。その伏線となったテグ世界陸上での37秒04だった。
世界陸上で生まれた世界記録の意味を読み解くと、陸上界の過去や未来が見えてくる。

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