8月4日開幕

世界陸上で生まれた世界記録27

地元ハイドラーの挑戦を退けたヴォダルチク、亡き先輩金メダリストに捧げた世界記録

2回目の試技で77m96の世界新を投げたアニタ・ヴォダルチク(ポーランド)は、喜びを爆発させて走り出したところ、左足首をくじいてしまった。3投目以降をパスして結果を待たざるを得ない痛恨の負傷だったが、そのくらい喜ぶ理由が、ヴォダルチクにはあったということか。

8月上旬に77m20のポーランド新記録を投げたが、世界記録の77m80には60cm届かなかった。
「世界陸上で世界新を投げる自信はあった」と言うが、大会1週間前に腰を痛めて3日間ほど練習を休んでいる。一抹の不安も持って臨んでいたはずだが、それを一気に払拭した投てきだったのだ。
また、ディフェンディング・チャンピオンのB.ハイドラー(ドイツ)が地元選手ということで、スタンドが熱気を帯びていた。
「ハイドラーが大声援に押されて2連覇を目指していましたが、世界記録を出したら抜かれないと思いました」

何より、尊敬するポーランドの先輩選手、K.スコリモフスカさんへ誓った金メダルでもあった。
スコリモフスカさんはこの種目の初代五輪金メダリスト(2000年シドニー五輪)だが、ベルリン世界陸上開催の2009年2月のポルトガル合宿中に、26歳の若さで客死してしまった。
ただ、ヴォダルチクに悲壮感はなく、世界記録を出せたことを純粋に喜んだ。患部に氷を当てて競技が進むのを待ちながらも、大会のヒーローだったウサイン・ボルト(ジャマイカ)の走る男子4×100mリレーなどを見て「楽しんで過ごしました」と言う。
ハイドラーの6回目が伸びてヒヤリとしたが(77m12)、自身の記録に届かなかったことを確認すると、満足なターンはできなかったが6回目を投げて締めくくった。
「来季以降も、世界記録を更新する自信はあるわ」。そうベルリンで宣言したとおり、翌2010年に78m30と世界記録を更新した。

しかし11年に、ハイドラーに79m42と世界記録を奪われると、直接対決でもヴォダルチクは、10年後半から12年前半までの約2年間、ハイドラーに負け続けた。ヴォダルチクが完全に復調したのは、78m46の自己新を投げた2013年モスクワ世界陸上から。銀メダルではあったが、宿敵のハイドラーには勝利を収めた。
2人の対決は今後も、この種目のレベルアップの原動力になっていくだろう。当面は80m一番乗りが焦点になる。
そして昨年8月、79m58とヴォダルチクが世界記録を奪い返した。場所は2009年世界陸上と同じベルリンだった。

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