8月4日開幕

世界陸上で生まれた世界記録27

人類最速男の驚異的なパフォーマンス 時代を10年先取りしたボルトの9秒58

陸上界には“信じられない記録”といわれる記録がいくつかある。ウサイン・ボルト(ジャマイカ)のベルリン大会男子100m、9秒58の世界記録が近年では代表格だ。

196cmの長身がスタート後20mで、わずかだが前に出る。中盤からは肩を左右に揺らす独特のフォームで2位以下を一気に引き離した。2年前の世界陸上2冠のタイソン・ゲイ(米国)が後半で2位争いから抜け出したが、ボルトは1メートル半以上先を悠然とフィニッシュ。速報タイムを見ると、両腕を広げてトラック外周を駆け回り、“ライトニング・ボルト”のポーズなどを披露した。

ボルトは前年の北京五輪でも9秒69の世界新をマーク。当時22歳で将来的に更新の可能性はあったが、次のシーズンで9秒5台まで出してしまうとは誰も予想できなかった。

C・ルイス(米国)が1983年に初めて平地の9秒台を出してから、ルイスが1991年の東京世界陸上で9秒8台を出すまで8年かかった。M・グリーン(米国)が初の9秒7台を出すまでも8年。そしてボルトが9秒6台を出すまでは9年を要した。
記録のレベルが上がるほど、新記録が出にくくなるのは当然のこと。9秒5台が出るまで最低でも10年はかかると思われたが、ボルトという特異な才能の出現で、9秒6台はわずか1年で終止符が打たれた。

当のボルトは「世界記録が出てウォッと思ったけど、北京五輪では最後まで真剣に走らなかったから、比較的簡単に更新できたのかな」と話している。
ただ、「スタートはまったく得意じゃない」と自認するボルトが、2009年はスムーズなダッシュができていたのは間違いない。「スタート練習をよくやったからね」と話したが、それに加えて五輪&世界陸上などのビッグゲームになると、通常のレースよりもスタートが速くなる。ベルリンではスタートの名手である前世界記録保持者のA・パウエル(ジャマイカ)に、10m地点では僅かに後れていたが、20m地点では0.01秒先行した。

ボルトの感覚では当たり前に出した9秒58だが、統計学的に見れば時代を10年先取りしたタイムだった。ボルト自身が更新できなければ、次に9秒5台が出るのは、2018年以降になるかもしれない。

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