8月4日開幕

世界陸上で生まれた世界記録27

パリ大会から続いた世界新は3種目連続競歩
前年五輪の雪辱のためのハイペースが記録更新へ

オリンピアーダ・イワノワ(ロシア)の女子20km競歩世界新は、ヘルシンキ大会初日に誕生した。
2003年パリ大会の世界新は男子の20km競歩と50km競歩の2つ。世界陸上での世界記録は、3種目で連続して競歩で誕生したことになる。

しかしイワノワにとっては、前年のアテネ五輪で4秒差2位だったことの雪辱、という意味が大きかった。金メダルを取った地元ギリシャの選手が、関係者の男性と歓喜の抱擁をするシーンを目の前で見せつけられた。自身も同じように、夫でもあるコーチと喜びたかったのかもしれない。
「あそこで勝っていたら、私は引退していたかもしれません」

アテネ五輪はスローペースのため終盤まで混戦となったが、ヘルシンキではハイペースに持ち込んだ。スタート時の気温が16度と涼しかったことにも助けられ、5kmを21分43秒で通過した。イワノワにつくことができたのは、中国選手1人だけ。その中国選手も10km前に失格した。
10km通過は42分54秒で2位を1分05秒、15km通過は1時間04分05秒で2位を1分21秒も引き離していた。金メダルも、世界記録の1時間26分22秒を破るのも間違いない。スタジアムに入るところでロシア関係者から国旗を受け取ると、トラックは国旗を両肩にかけてフィニッシュに向かった。

ただ、ここでちょっとしたハプニングが起こった。
トラックを約300m周回してフィニッシュなのだが、ヘルシンキ大会はゴールテープが張られていなかったため、イワノワはフィニッシュ地点を過ぎても100mあまり歩き続けた。

電気計時が普及して以降、トラック種目はゴールテープを張ることはできない。だが、フィニッシュ地点の数10cm後方に、演出として張る大会もある。シドニー五輪の高橋尚子やアテネ五輪の野口みずきが、大会名や大会シンボルマークの入ったテープを切ったシーンは、我々の印象に強く残っている。
しかしヘルシンキ大会の主催者は、マラソンも競歩もテープを張らなかったのだ。
「ゴール地点がどこかわからずに歩き続けてしまったの。だから、世界記録だったのかどうかもわからなくて…」。レース後の会見でイワノワは苦笑した。

だが、5分後にはタイマーの脇で恒例の新記録記念撮影を行っている。まだ中位以下の選手はフィニッシュしていなかったが、2段表示ができるタイマーだった。ランニングタイムが上段に、イワノワの「1:25:41」は下段に表示された。
その横でロシア国旗をスタンドに向けて、これ以上はないという笑顔で振っていた。特別に喜びを伝えたい人物がいたのかもしれない。

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