8月4日開幕

世界陸上で生まれた世界記録27

世界記録更新28回の女王が魅せるイシンバエワ劇場、2位との史上最大差は新種目進化過程の証

「世界記録は私の名刺代わり」と言い、女子棒高跳びで屋外15回、室内13回の世界記録をマークしたエレーナ・イシンバエワ(ロシア)。
彼女の世界陸上初優勝が、5m01の世界新に成功したヘルシンキ大会であり、“イシンバエワ劇場”とも言われる戦いぶりが認知され始めたのも、この大会からだった。

最初の高さは4m00で、その後4m20、4m35とバーは上げられた。イシンバエワが跳び始めたのは次の4m50から。その間1時間から1時間半。ピットの脇に自分のポジションを確保し、イシンバエワはじっと出番が来るのを待った。
この日は帽子を目深にかぶっていたが、ウィンドブレーカーのフードを被るなど、自身の視界を狭くして集中するスタイルを好んだ。
大きなタオルをすっぽり被るなどして、自身の気配をフィールドから消すようにして待ち続けることもあったが、観客にとってはイシンバエワの息を潜める様子もまた、注視するに値した。そして彼女が跳ぶ準備を始めるだけで、絵になったのである。

4m50を1回で成功したイシンバエワは、4m60、4m70とすべてノーミスでクリアしていき、次の4m75をパス。M・ピレク(ポーランド)がその高さを失敗して4m60に終わると、イシンバエワの金メダルが決定した。

3週間前に女子選手初の5mの大台に成功していたイシンバエワは、バーを5m01に上げた。観客に手拍子を要求し、ポールを握る位置を何度も確認する。スタンドの最前列に陣取るトロフィモフ・コーチの指示を見る。「私は跳べるわ」と何度もつぶやく。

5m01を2回目に成功。正面からの映像では、ヘルシンキのオリンピックスタジアム名物の塔に沿って上昇していく絵柄が、これ以上ないというくらいにさまになっていた。マットとの上で両手を挙げ、声を上げながら跳びはねて喜びを現すイシンバエワ。最後にはバク宙のサービス。
「世界選手権の初優勝を世界記録で飾れて本当にうれしい」
1~2cm刻みで世界記録を更新していくのは、男子棒高跳びのセルゲイ・ブブカ(ウクライナ)と同じ。尊敬するブブカのスタイルを踏襲していることを、世界陸上でもしっかりと披露した。

その後2007年、13年と3回の世界選手権優勝を果たしたイシンバエワだが、2位との差は五輪も含め、41cmのヘルシンキ大会が最大だった。1999年セビリア大会から採用された新種目で、全体のレベルアップをはるかに上回るスピードでイシンバエワが5mに達したからだ。女子棒高跳びの進化の途中経過が、ヘルシンキ大会に現れた。

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