8月4日開幕

世界陸上で生まれた世界記録27

鈴木雄介が理想としたフォーム ペレスが絶妙の世界記録“1秒更新”

劇的な世界記録“1秒更新”が世界陸上で見られたのは、パリ大会初日の男子20km競歩。エクアドルの英雄、フェファーソン・ペレスが1時間17分21秒で金メダルを獲得した瞬間だった。

鈴木雄介(富士通)が2015年3月に1時間16分36秒の世界新をマークし、日本でも注目度が増している競歩種目。その競歩の世界記録がパリ大会と、次のヘルシンキ大会と続いて誕生した。それもパリ大会では20kmと50km、2つある男子競歩種目両方で生まれたのである。
大会全般にそれほど暑くならなかったことが、マラソンも含めてロード種目で好タイムが出た理由だろう。だが、その部分を差し引いても、パリで世界記録を出した2人は強かった。

競歩は2kmの周回コースで行われ、男子20km競歩は1周目から当時の世界記録保持者、F・J・フェルナンデス(スペイン)がトップに立った。5km通過時には6秒リードを奪い、10kmを38分38秒で通過したときには、2位のペレスに32秒(約250m)の差をつけていた。
しかしペレスも1996年アトランタ五輪で、全競技を通じてエクアドルに史上初の金メダルをもたらした男である。そこから追い上げを開始し、15kmで16秒差に迫ると、17kmでフェルナンデスを逆転した。

ペレスは後半の10kmを38分11秒と、前半より59秒もペースアップしている。レース後のペレスは「5000km以上も練習で歩いてきたからね」と胸を張った。
世界新を出したときの鈴木がそうだったように、競歩選手はレース中にタイムを細かく計算できる。パリ大会のペレスもレース中のどこかのタイミングで、自身の記録を予測したはずだ。でなければ、ちょうど1秒という、微妙な世界記録更新は難しかった。

審判の歩型ジャッジが厳しくなる世界大会で、強引なスピードアップはできない(特にパリ大会は、日本選手も含めて歩型違反による失格者が多かった)。ペレスはフォームが乱れない範囲で、かつ、世界記録を更新するためのペースの上げ方をした。ペレスが失格の心配が少ない、歩型の安定した選手だからこそ可能になった1秒の世界記録更新だった。

ペレスはその後、記録更新はできなかったものの2005年、07年と世界陸上で3連勝し、20km競歩で一時代を築いた。そして、その頃に競歩を始めたのが鈴木だった(2002年から競歩に本格的に取り組んだ)。「ペレスのフォームを理想として」(鈴木)、現在世界一とも言われるフォームを身につけてきた。

世界記録はその後ロシア選手とY・ディニ(フランス)が更新したが、パリ大会から12年後に、ペレスのフォームを受け継いだ鈴木によって、現在の世界記録は打ち立てられている。

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