8月4日開幕

世界陸上で生まれた世界記録27

女子三段跳び初代王者と女子初の15m突破
2つの称号を同時に得た無名選手

五輪&世界陸上を通じ、女子三段跳びが初めて実施されたのがシュツットガルト大会だった。
アンナ・ビリュコワ(ロシア)が初代世界チャンピオンと、女子選手初の15m台の称号の2つを同時に得た。無名選手の快挙に世界が驚いた1日になった。

優勝候補筆頭はヨランダ・チェン(ロシア)で、衆目の見方は一致していた。その年6月のロシア選手権で14m97の世界新をマークし、走り幅跳びでも7m16と、世界トップレベルの記録を持っていた選手だ。ビリュコワとチェンは同じモスクワのクラブチームに所属し、同じコーチに師事する関係だった。
実績十分のチェンに対しビリュコワは、大きな大会で目立った結果は残していない。走り幅跳びの記録は6m89で、チェンとは20cm近い差があった。三段跳びは1993年から始めたばかりで、世界陸上前の自己記録は14m68に過ぎなかったし、チェンが世界記録を跳んだロシア選手権では3位に終わっていた。

そのビリュコワがシュツットガルトでは1回目に14m62を跳んでトップに立つと、2回目に14m77と記録を伸ばした。チェンは優勝候補筆頭ということや、後輩のビリュコワを意識しすぎたのか、前半はファウル-13m78-ファウルとリズムに乗れない。
それでもビリュコワの15m台までは予想できなかった。ライバルが伸び悩むなか、5回目に15m09と一気に30cm以上記録を伸ばしたのだ。女子選手初の15m台は、意外な選手が実現させた。
「歴史の浅いこの種目で、歴史の扉を開くことができてハッピーです」

チェンは5回目にやっと14m台に乗せると、最終6回目に14m70を跳んでV候補筆頭の面目を守ったが、内心穏やかではなかっただろう。
ビリュコワの6回の試技の、ホップ・ステップ・ジャンプ各跳躍の距離が公表されていた。前半3回目まではホップを抑えめに跳び、後半は前半よりも10cm程度、ホップの距離を大きくしている。さらに特徴が見て取れるのは、ステップが大きく伸びていること。4回目は4m13だが、世界記録の5回目のときは4m47と30cm以上も大きくなった。

それに対してチェンは、ホップの距離が大きい選手。14m70だった6回目の試技でも、ホップは5m77とビリュコワより20cmも大きかったのだ。ホップで稼ぐチェンに対し、ビリュコワはステップとジャンプで距離を大きくしていた。

対照的な跳躍をする2人だが、競技終了後はそろって笑顔を見せた。特に千載一遇のチャンスを逃したはずのチェンが、夜遅くまで記者たちの質問に丁寧に答えていたのが印象に残っている。

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