8月4日開幕

世界陸上で生まれた世界記録27

東京の世界新3種目すべてに関わったルイス
宿敵フランスをねじ伏せたドリームチーム

東京大会3個目の世界新記録は、カール・ルイス(米国)が陸上界最大のヒーローであることを全世界に印象づけた。2日目の100mで9秒86と人類初の9秒8台をマーク。7日目の走り幅跳びではパウエルの8m95に敗れたものの、追い風参考ながら8m91と激戦を繰り広げた。そして最終日に4×100mリレーの37秒50と、ルイスは世界記録が誕生した3種目すべてに関わったのだ。

米国は金のルイス(4走)、銀のリロイ・バレル(2走)、銅のデニス・ミッチェル(3走)と、第1回大会に続いて100mのメダリストがそろい踏み。1走のアンドレ・ケーソンも世界陸上10日後に9秒99をマークした選手で、オールスター的なチームだった。
ケーソンが10秒30でリードを奪ったが、2走のバレルへのパスが間延びしてしまい、バレルは一度スピードを緩めてから再加速した。しかし、3走のミッチェルが一気に差を広げると、4走のルイスは右手にバトンを持ってホームストレートを独走。「デニスが快走して来たので気合いが入ったよ」(ルイス)

カーブを走る1走と3走はバトンを右手に持ってレーンの内寄りを走り、直線の2走と4走はバトンを左手で受け取ってレーンの外寄りを走る。ところがルイスは、左手でバトンを受け取ってすぐに右手に持ちかえて走っていた。近年の4走ではU・ボルト(ジャマイカ)も“右手バトン”で走っている。

メンバーの顔ぶれから楽勝だったように思われるが、フランスが打倒米国に執念を見せていた。この種目は米国が1932年以降ずっと世界記録を持ち続けてきたが(五輪の予選・準決勝で一時的に他国が保持したケースはある)、1990年のヨーロッパ選手権でフランスが37秒79と世界記録をマークした。

個々の走力で勝る米国と、2走のD・サングーマというエースはいるものの、バトンパスなどチームワークで勝負をするフランス。東京大会直前に米国が37秒67と、1年弱で世界記録を奪い返していたが、選手同士もお互いを意識するコメントをしていた。
ルイスがレース後に言い放った。
「フランスが、米国は完全なチームじゃない、と言い続けてきたけど、米国のスプリンターたちは最高だと、今日証明することができた」
それでも、最後にはルイスも安堵の表情を見せた。緊張の連続だった8日間の戦いから解放され「やれることはすべてやった。今は(故郷の)ヒューストンに帰って、ゆっくり休みたい」と話した。
ルイスは1996年のアトランタ五輪まで金メダルを取り続けて伝説的な存在になったが、3種目以上に挑戦する最後の五輪&世界陸上が、この東京大会になった。

一覧に戻る

このページのトップへ