コラム

2019年12月31日更新 text by 寺田辰朗

第8回市田兄弟が3・4区でニューイヤー駅伝初のタスキリレー
旭化成4連勝のカギを握る3・6区の新区間配置

内容

30日に区間エントリー(スタートリスト)が発表され、3連勝中の旭化成は双子の市田兄弟の弟の宏(27)が初めて、3区に起用された。兄の孝(27)は4区で、ニューイヤー駅伝では初めて2人のタスキリレーが実現する。
そして宏が3年連続区間賞を取ってきた6区は、ニューイヤー駅伝初出場、高卒2シーズン目の小野知大(20)が走ることになった。
それに対して4区の孝は3回目、5区の村山謙太(26)は4年連続出場の成功パターン。7区の鎧坂哲哉(29)も2年前に、2連勝目のテープを切っている。
新パターンと成功パターンをほどよく合わせ、旭化成が連勝継続に向けてのスタートを元旦の朝9時15分に切る。

弟・宏が初めての前半区間

「1区から順番に発表されていきますが、内心『また6区かな』と気持ちの準備をしていました。でも孝からは『オマエ3区じゃない?』と言われていて…。監督から『3区、宏!』と言われたときはビクッとなりました」
この“ビクッと”には、ビックリしたという意味と、気が引き締まったという意味の、2つの意味があったのだろう。
繰り返すが宏は、3年連続6区の区間賞を獲得し、毎回トップで7区に中継してきた。6区はチームの6〜7番目の選手が走るとされている区間で、選手層の厚さが顕著に現れる区間でもある。
宏は12月1日の甲佐10マイル(約16km)に、前回4区区間賞の井上大仁(MHPS・26)やコニカミノルタ4区の蜂須賀源(25)らを破って優勝したが、練習での不安定さもスタッフから指摘されていた。甲佐の結果で3区起用のゴーサインが出たわけではない。
西監督は「(12月後半の)どの練習も先頭でしっかり走った。今回もゾーンに入った走りができる」と判断した。宏が信頼を勝ち得ての起用となった。
宏は「そろそろ前半区間を走りたいと思っていたのでうれしいです。孝が待っていてくれるのですごく楽しみですし、良い位置でつなぎたい」としながらも、次のようにも話した。
「過去の映像を見ると3区はすごい混戦で、大人数の集団で来ることが考えられます。そのなかでも自分を見失ったりオーバーペースになったりしないで、自分のペースで走りたい。先頭に追いつくか、逃げ切る走りをしたいですね。これまでもチームの優勝のために走って、結果、区間賞も取ることができました。今回も自分の役目を果たして、3区でもまた区間賞を取りたいですね」
2019年最後の日に、兄弟タスキリレーができることと、3区を走ることのうれしさを噛みしめながらも、地に足を付けてしっかり走ることも自身に言い聞かせた。

3・4区の市田兄弟でトップに

孝は3連勝の最初の年に、4区を任されて区間賞を獲得。6人抜きを演じてチームを5位に浮上させ、5区・村山謙太がトップに立つお膳立てをした。大学時代は大きなタイトルのなかった市田兄弟が、入社2年目にニューイヤー駅伝の区間賞をそろって獲得することで、旭化成の18年ぶりのV奪回が実現した。
孝は翌18年大会でも3区の区間賞を取り、2区以降の全中継所トップ中継を演出した。
だが前回の19年大会は4区で区間16位とブレーキに近い走り。2位から3位に順位を落としてしまった。だが5区の村山謙太が追い上げ、6区の宏が逆転し、7区もMHPSとの競り合いになった。大六野秀畝(27)がラストスパート勝負に勝って旭化成の連勝は続いたが、孝としては悔しさも強く残った。
詳しくはコラム第1回で紹介したが、孝は福岡国際マラソン出場後、左脚のすねに軽い痛みがあったのだ。
レース前日の練習(宏と2人で軽めのジョグ)前に孝は、「1年前の元日の借りは、ここでしっかり返さないといけない」と話した。
「宏も緊張していると思いますが、良い位置で持ってきてくれると思います。その流れをさらに良い流れにして、5区の謙太につなげたい。4区の区間賞を取って、2人でチームの4連覇に貢献したいと思います」
市田兄弟がそろって区間賞を取れば3回目になるが、3・4区の連続区間賞ならチームへの貢献度は過去一番といえるのではないか。

6区・小野が「自分が多少やらかしても」という精神状態は?

前回まで宏が3年連続走ってきた6区には、鶴崎工高を卒業して入社2年目の小野が抜擢された。これもコラム第1回で紹介したように、西監督は小野の積極的な走りを評価していた。チーム的には抜擢ではなく、当然の起用に近かったのかもしれない。
小野も31日の練習前に、初の大舞台への気持ちを以下のように話した。
「5区までの先輩たちが強いので、貯金を作って来てくれると思いますし、自分が多少やらかしても、鎧坂さんがなんとかしてくれると思います」
先輩頼みの走りでいい、と考えているのでなく、先輩たちを信頼することで自身の気持ちを落ち着かせ、本来の走りをしたい。その気持ちがこの言葉になったのだろう。
旭化成最大の敵となると見られているトヨタ自動車の6区は、5000mで13分22秒72の今季日本最高記録を出した田中秀幸(29)だ。向かい風の強さには定評があり。宏の前に2年連続6区区間賞を取り、トヨタ自動車の2連勝に貢献した選手だ。
「(ロードなので)トラックの記録は気にしません。それに僕も、練習の10000mでは28分40秒で楽に走れます。旭化成のグラウンドも風が強いので、それと同じように我慢します。タスキをもらう位置にもよりますが、自分のペースを貫けば大丈夫です」
なんとも頼もしい20歳だ。
「鎧坂さんからは、練習通りに走れば区間賞も取れると、言っていただきました。初出場区間賞も狙って行きます」

旭化成のアンカーは12月中旬に発熱で練習が中断したとはいえ、5000m、10000mとも日本歴代2位を持つ鎧坂だ。西監督は20秒以内の差で鎧坂にタスキが渡れば、逆転が可能と見ている。
新パターンの3区・宏と6区・小野が機能したとき、令和でも旭化成の連勝が続くことになる。

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寺田辰朗(てらだ たつお)プロフィール

陸上競技専門のフリーライター。
陸上競技マガジン編集部に12年4カ月勤務後に独立。
専門誌出身の特徴を生かし、陸上競技の詳しい情報を紹介することをライフワークとする。一見、数字の羅列に見えるデータから、その中に潜む人間ドラマを見つけだすことは当代随一。
地道な資料整理など、泥臭い仕事が自身のバックボーンだと言う。選手、指導者たちからの信頼も厚い。
AJPS (日本スポーツプレス協会) 会員。

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